地域・パブリック
望ましい地下鉄の経営形態のあり方を地域で考えよう

2012年3月7日

  • コンサルティング・ソリューション第一部 米川 誠
大阪市営地下鉄の民営化に向けた具体的な議論がいよいよ始まろうとしている。橋下市長は昨年11月の当選後より市営地下鉄・市営バスの民営化を指示していたが、2月13日に行われた第6回大阪府市統合本部会議資料によると、市営地下鉄、市営バスの経営形態の見直しについては、3月中に論点整理、6月に方向性を打ち出すとしている。そのため、地下鉄・バスごとにそれぞれ『地下鉄民営化・成長戦略PT』『バス改革・持続戦略PT』を立ち上げた。

大阪市交通局では、過去にも市営地下鉄、市営バスの経営形態に関する議論が行われたことがある。2007年1月の「大阪市営交通事業の経営形態の検討について(交通局最終取りまとめ)」によると、(1)改革型地方公営企業(地方公営企業のまま、抜本的な改革に取り組む形態)、(2)地方独立行政法人、(3)公設民営(交通局がトンネル、駅舎等のインフラを所有する公設民営上下分離を想定)、(4)市出資株式会社(市が50%以上の出資を行う株式会社を想定)、(5)民間資本株式会社(民間資本が50%以上の出資を行う株式会社を想定)の検討を行ったが、結局(1)改革型地方公営企業が選択された。その成果もあって、大阪市営地下鉄は近年は単年度黒字を継続的に確保しており、2010年には公営地下鉄初となる累積欠損金の解消と累積黒字化を達成している。今回の民営化の指示はこれをさらに進めた改革を意図したものと考えられる。

では、地下鉄のケースについて具体的に民営化はどのようなメリットをもたらすのであろうか、考えてみたい。
まず事業者にとっては、民の知恵を活用した付帯事業の展開を積極的に行え、多様な収益事業を行うことができる。例えば、公営地下鉄の駅売店などの収益事業は、公営事業の付帯事業であるために様々な事業制約があるが、民営化すれば駅敷地内で自由に事業展開ができる。2004年に民営化した東京メトロでは、駅構内にファッション専門店や飲食店を出店させる「駅チカ」事業を積極的に展開しており、昨年度の「駅チカ」事業は開始初年度の2倍以上の376億円に達している。また利用者にとっては、上記の付帯事業サービスの享受に加え、民間のノウハウの活用による効率性の向上により、料金の値下げや私鉄との相互乗り入れ等、より一層のサービス向上を享受できる可能性がある。さらに地方自治体にとっては、民間のノウハウの活用による効率性向上によって、補助金等の削減や法人税収の増加等により、財政改善が期待できる。

一方で民営化の手法としては、株式会社化(+上場)、民間への売却、上下分離、PFI、業務委託等が考えられるが、一般的に地下鉄が民営化するに当たっては以下のような課題があり、その対応策を検討する必要がある。

公営事業の民営化にあたっての主な課題

  • 1.職員の処遇
  • 2.民間会社の経営の自立性と行政の意向の両立
  • 3.既発企業債の償還
  • 4.租税の負担

第一に、職員の処遇の問題がある。一般に公営企業が株式会社化したときは、新会社への転籍を希望する職員については原則として退職金を支払う必要が出てくる。また転籍を希望しない職員あるいは合理化に伴い発生する余剰職員については配置転換等を検討する必要がある。給与体系や人事制度等の労働条件の見直し、効率化計画の策定・実施に当たっては労働組合との協議を行い、合意を得る必要もある。第二に会社の経営自立性と行政の意向の両立の問題がある。例えば、不採算路線は廃線したい民間側と鉄道サービスを維持したい行政側との間で対立が生じる可能性がある。この点について行政の地下鉄経営への関与度を強めれば、会社の経営の自由度を損なう恐れも出てくるので、両者の事業範囲やリスク分担等は事前によく話し合っておく必要がある。第三に株式会社化すれば原則として既発企業債は繰り上げ償還する必要があり、金融機関から多額の資金調達を行う必要が出てくる。第四に株式会社移行後は固定資産税や法人税等の追加コストがかかってくる。この点は上下分離を行い、運行部門(上部構造)を民間が、インフラ部門(下部構造)を行政が保有すれば民間の租税負担を軽減することができる。
また、上下分離の手法は上部構造と下部構造の業務を双方がよく理解し、意思疎通を密接に行うことに努めなければならない。さらに、上下分離により会計責任が分離した場合、各組織がそれぞれの利益を追求するようになると、地下鉄事業全体として最適な投資が困難になることにも留意する必要がある。上下分離は過去にロンドン地下鉄で行われたことがあるが、インフラ部門と運行部門が協調して機能していなかったために短期間で頓挫した事例がある。上下分離を行う際は、両部門の意思疎通を密にし、スムーズに進めることが成功の条件である。

そもそも、過去、大阪市の交通事業の民営化が検討された背景には、多額の企業債残高を抱えていることや将来の人口減少、一般会計からの繰入金の減少に対処することであった。このような事情は全国の公営地下鉄はどこも同様の状況であり、地方財政健全化法の施行(2009年4月)に伴い、経営健全化計画の策定・実施を行っているところは多い。その中身を見ると、利用促進や附帯事業収入の拡大等の収入増加策、安全性・快適性の向上によるお客様サービスの向上などであり、これらは民営化を含めた適切な経営形態の変更により大きく前進する可能性がある。その意味では、大阪市営地下鉄民営化の今後の行方は、全国の公営地下鉄の経営形態を考える上での試金石となろう。
地域の足として活躍する地下鉄はどのような経営形態が望ましいのかを上述した民営化のメリット・課題・留意点を踏まえ、地域の市民、民間企業、行政を含めて、もう一度議論する時が来ているのではないだろうか。

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