地域・パブリック 経済・ビジネストピックス
改正港湾法により進展する港湾民営化と今後の課題

2011年8月24日

  • 金融・公共コンサルティング部 米川 誠

全国の港湾の民営化の加速を促す法案が本年3月31日に成立した。法案の名称は「港湾法及び特定外貿埠頭の管理運営に関する法律の一部を改正する法律案」(以降、「改正港湾法」)であり、すでに閣議決定されていたものが国会での審議を経て成立したものである。

<港湾法の改正>

本法改正の目玉は以下の点にある。第一に、港格の見直しである。昨年、京浜港(3港)と阪神港(2港)が国際コンテナ戦略港湾に指定されたことを受けて、この5港を新たに港湾法上の港格として「国際戦略港湾」として位置づけ、これまでの特定重要港湾(23港)のうち国際戦略港湾以外の18港を「国際拠点港湾」とした。

第二に、この国際戦略港湾の直轄港湾工事の国費負担率を従来の3分の2から10分の7に引き上げるとともに、従来は地方自治体等の港湾管理者が起債事業等で行っていたコンテナヤードの整備を国の直轄事業の対象とした。これによって港湾利用者の費用負担が大きく引き下がることが期待される。

第三に、港湾運営会社制度の創設である。これはこれまで地方自治体や埠頭公社などが行っていた港湾の運営を一元的に担う「港湾運営会社」を1つの港に1社に限って指定する制度であり、国際戦略港湾(5港)と国際拠点港湾(18港)に導入するものである。具体的には岸壁などの下物は国や港湾管理者が整備し、港湾運営会社に対して貸し付ける。港湾運営会社はその施設の料金決定権を確保し、利用者から料金を徴収する一方、荷主・船社等へ戦略的に営業活動ができるようになる。

第四に、ガントリークレーンなどの上物の整備は港湾運営会社が行う。それを支援するための無利子資金の貸付制度および税制上の特例措置も創設された。

第五に、港湾運営会社には港湾計画の変更を提案する権限が与えられ、計画段階から積極的に関われるようになった。

<地方港湾民営化の動き>

このような港湾法の改正を受けて、全国的に港湾運営の民営化が進展しつつある。今年4月1日には大阪港埠頭公社と神戸港埠頭公社から事業・財産の全部を承継し、それぞれ大阪港埠頭株式会社と神戸港埠頭株式会社が本格的に業務を開始した。これら2港は概ね4年後に統合が予定されている。また横浜港埠頭公社も横浜市が100%出資の受け皿会社である横浜港埠頭株式会社に本年度中に業務を引き継ぎ、2014年にはすでに民営化した東京港埠頭株式会社と経営統合が予定されている。

このような港湾運営の民営化は国際戦略港湾のみにとどまらず、地方港湾にも広がりつつある。地方港湾ではすでに2003年、構造改革特区により特区指定を受けた港湾の施設を民間事業者に貸し付けることができるようになり、現在、博多港、那覇港、水島港の3港が民間事業者によって運営されている。その後、特段の弊害が見られなかったこともあり、今回の港湾法改正に至った。

名古屋港では名古屋港埠頭公社の株式会社化を検討中である。広島港では現在、県出資の第三セクターが港湾管理業務の一部を担当しているが、これを今回の改正港湾法に規定される港湾運営会社に指定し、2014年までに運営会社による経営を軌道に乗せ、民営化事業を本格的に展開することを検討中である。新潟港は昨年8月に策定された将来ビジョンで、新潟港コンテナターミナルの運営は、民間の出資比率が50%を超える運営事業者によって行われることが適当とされた。現在検討が進んでいる模様である。釧路港でも本年1月に国際バルク戦略港湾選定のために提出した計画書の中で、2020年を目標に、株式会社によるターミナルの一体的な管理運営体制の構築をするとしている。

<港湾民営化の効果・課題>

このように国際戦略港湾のみならず、地方港湾においても民営化の波が広がりつつある。その背景には、港湾の国際競争がますます激化する中で、民の視点から港湾運営を効率的に行い、港湾サービスを向上させなければ国際競争力が維持できないという危機感が国・地方自治体・産業界にあると考えられる。今回の港湾法の改正による民営化制度の創設は、港湾サービスの向上への取り組みを後押しする大きな推進力となることが期待されている。

一方、今回の港湾の民営化においてはいくつかの懸念も指摘できる。まず港湾の公共性の維持に関する点である。港湾運営会社は1つの港に1社を限って指定するので地域独占性の高い会社となる。港湾運営会社が利益の最大化を図った結果、使用料の値上げや必要な投資が行われない等、公共性の確保がなされない問題が生じる可能性がある。また資本規制として20%以上の議決権の保有を禁止することが法で規定されているが、外資を含む民間企業が複数集まれば民間企業のみの運営となり、港湾が投機の対象となる可能性も出てくる。

以上の点を防止するために、法では港湾運営会社に対して運行計画のチェック、監督命令、料金変更命令等の措置を講ずるとしている。公共性の確保のためには国や港湾管理者の港湾運営会社に対する一定レベルの関与は続けていく必要があろう。ただし、過剰な介入は民営化により期待されている効率的な運営を妨げる原因になるので、公共性の確保と民による効率性の向上をどのように両立させるかが運営上の課題となろう。

運営会社への民間出資者としては船社や港運会社が想定されるが、自らが利用者の場合、港湾運営会社とは利益相反の関係になるため、出資に慎重になるかもしれない。さらに特に地方港湾の場合は収益性が低いため、港湾運営会社を設立しても民間出資が実現できず、民による効率的な運営が図れない可能性がある。港湾運営会社を設立する際は、見切り発車ではなく、明確な事業内容なり成長ストーリーを示す必要があろう。

<今後の展望>

昨年8月の国際コンテナ港湾の選定、そして今回の港湾法改正によって港湾の「選択と集中」が進んだ。これにより、港湾整備の重点投資が行われるわけだが、そもそも大水深の岸壁があるなど港湾施設がいくら充実していても、取り扱う貨物がなければ船は寄港しない。基幹航路が維持されるためには、インフラ施設の充実だけでなく、いかに貨物を集めるかというマーケティング活動も重要となってくる。海外の主要港湾は戦略的なマーケティングにより集荷活動を行っているところも多い。今回の港湾法改正により、日本の港湾でも民の視点からの戦略的な港湾経営が行われることを期待したい。

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