地域・パブリック 経済・ビジネストピックス
地域金融機関の成長ストーリーにつなげる地域活性化の戦略と戦術

2011年7月20日

地域金融機関にとって地域活性化は大事なことだが、金融機関にも利益をもたらすものでなければ営利企業として示しがつかない。ボランティアではない。CSRだけでもない。金融機関、企業ひいては住民と、地域に関わるすべての当事者にwin-winの結果をもたらすような地域活性化が一番よい。

地域金融機関と地域経済の関係

地域経済が豊かになれば地域金融機関も成長する、いわゆる共存共栄の概念が確からしいことはなんとなくわかる。重要なのは、地域経済の発展と地域金融機関の成長にどのような脈絡があるのか、にかかる明確なイメージを持つことだ。そうすれば地域金融機関が企てる地域活性化の努力も的を射たものになるし、担い手のモチベーションも上がるというものだ。

はじめにふたつの前提を確認しておく。第一に、地域金融機関の営業エリアは、本店が属する地域経済圏の勢力範囲を原則として越えることはない。ここで地域経済圏とはおよそ「郡」単位の日常生活圏をさらにいくつかまとめた広域圏をいい、県域とだいたい重なるところのものだ。地方には県内にふたつ以上の地域経済圏を擁するケースもある。そうしたところの地域経済圏は車のナンバープレートの範囲とおよそ重なる。たとえば山形県なら日本海側の荘内平野、福島県の浜通り地方、兵庫県の但馬地方、福岡県の筑後地方、長崎県の佐世保地方などがある。こうしたところは県庁所在地が属する経済圏とは経済的・文化的に独立したまとまりを形成している。

そして地元有力行の営業エリアは当の地域経済圏にほぼ重なる。ひとつの県にふたつ以上の有力行がある場合、たいていは互いに独立した地域経済圏が背景にある。同一県内でも地盤とする経済圏が互いに独立していれば、それぞれの有力行の棲み分けが可能だ。もっとも、地域経済圏は三大都市圏に近くなるほど県域との関係が薄れてくる。阪急線や常磐線など鉄道線沿いに地域経済圏が展開し、これに合わせて銀行の営業エリアが拡がっている例もある。東京、大阪、名古屋とその周辺では都府県をまたがった地域経済圏を形成している。

交通の変化などなんらかの要因で経済圏が拡大し、互いの境界線があいまいとなったところで金融機関の競争は激化する。経済圏が入り組み一体化が進む三大都市圏において顕著だが、地方においても、かつて棲み分けがあったローカル経済圏のうち車社会の到来や新幹線の開通などによって隣接経済圏と一体化したところで似たような競争激化がみられる。先ほどの山形県しかり、隣の秋田県しかりである。市場の一体化に伴う「市場の再分割」現象が起きているのだ。

地域経済圏と営業エリアが重なるのは、金融機関が生来的にネットワーク産業だからだ。その本質的な機能は口座間振替によるキャッシュレスの資金移動である。だから、参加者が多く網の目が密であるほど二乗倍でネットワークの価値が増えてゆく「メカトーフの法則」が成り立つ。グローバル化社会と言われるが、いざ見渡せば通勤通学、買物から病院通いまで経済活動の範囲は案外狭い。車のナンバー区域を超えて買物に行くこともないだろう。地方経済の主力であり、地域金融機関のターゲットである中小・中堅企業においては、販売先も仕入先もそうそう極端に遠いところはない。一部のメーカーを除けば地域経済圏の範囲内でほぼ完結する。逆にいえばそうした範囲で「地域経済圏」が認識されるのだが。したがって、資金移動ネットワークを本質とする金融機関にとっては、そうした経済活動のやりとりが行われる範囲でネットワークを密にするのが合理的な行動なのだ。コンビニエンスストアの出店戦略でしばしば耳にする「ドミナント戦略」と同じ。地域シェアの拡大が至上命題である。

第二に、域内の預貯金の総量は、同じ区域のGDP、簡単にいえば経済活動の大きさに比例する。だから、地元に根をはる地域金融機関が大きくなろうと思えば、その地盤である地域経済をせっせと耕しパイを拡大させるしかない。出身地から逃げることができない地域金融機関はまさに地域経済と一蓮托生の関係だ。地域経済に欠かせないネットワークインフラという点で電気、水道、電話と共通するところがある。インフラ産業特有の責任、見方によっては制約条件の下、金融機関自身の成長ストーリーを描くには地域経済の成長を意識せざるをえない。他方、地域経済圏を越境して隣接エリアにネットワークを伸ばすという選択肢もあろう。が、ネットワークの利益を活かしつつ拡大を目指すネットワークインフラの原則に立ち返ると、その選択肢に合理性があるケースは限られる。鉄道の開通、新たなサプライチェーンの誘致、行政の広域合併などを契機に地域経済圏の再編統合が見込まれるところで成り立つ戦略である。

都道府県内GDPと預貯金残高の関係

地域金融機関の地域活性化戦略

地域活性化とは単に商品やお金が右から左に活発に動くということだけではない。地域経済の成長つまりはGDPの拡大をもたらすものでなければ不十分である。少なくとも地域金融機関の成長にはつながらない。域内GDPの拡大というゴールから逆算し、移住者の増加や、企業の高付加価値化に向けて、金融機関の道具箱にあるツールを計画的に駆使することが、地域金融機関の地域活性化戦略である。

どうやって域内GDPの拡大につなげてゆくか。考えるにあたって、試しに域内GDPを世帯数と世帯当りGDPに分解してみよう。大雑把な言い方であるが、企業の利益も最終的に家計に還元されると考えれば、世帯当りGDPの大部分は年収である。全国平均が918万円であるから、これより若干低いところに世帯年収の水準がある。感覚的にもしっくりくる。ここから、地域経済を活性化しようとするならば、住民を増やすか、世帯年収を増やすような努力をしなければならないことがわかる。言い換えれば、移住者を増やすか、企業の高付加価値化を目指すか、である。

まずは住民をどうやって増やすのか。地域によりバラツキはあるが総じて高齢化が進んでおり生産年齢人口は今後とも減少傾向を辿る見通し。理論的には金融機関の総資産も先細りになる。少子化の下、ただでさえ自然増が見込めないとすると、努力の方向は移住者を増やすことになる。てっとり早いのは企業を従業員ごと誘致することだ。いわゆる時間を買う戦略である。従業員だけでなく、配偶者も子供も引っ越してくる。さらに衣食住に渡り生活に必要な産業を引き連れてくるので波及効果は大きい。古典的と言われようが企業誘致はやはり地域活性化の定番である。Uターン、Jターンを期待して住む魅力をアピールするのも手であろう。

次に、世帯年収はどうやって増やすのか。まずは企業の高付価値化を図ることだ。ここで注意しなければならないのは、業務プロセスの合理化は収益性を上げることはできるが、域内GDPの拡大に寄与するかといえば必ずしもそうはいえないことだ。個別企業の最適の合計は域内全体の最適とは限らない。個別企業の合理化で削減した人件費の分を他の産業にまわすことができなければ域内全体の付加価値は増加しない。よって基本は、技術的難易度が高い新製品を開発したり、県外市場に拡販したりする努力である。産業全体でみれば、これから伸びが予想される分野の創業を増やすという方法もある。

世帯当りGDP

預金取扱金融機関の特性

地域金融機関の地域活性化戦略を考えるにあたって、金融機関の特性について触れておく。実は強みも弱みも金融機関の実体がネットワークインフラであることに由来する。金融機関の本質は資金移動サービスであるが、この観点でいえば「預金」は支払代行に必要な準備資金であり、スイカやパスモでいう「デポジット」と異ならない。そして口座間をつなぐネットワークは皆がいっせいに預金払戻をしないという暗黙の前提で成り立っている。いわゆる「信用秩序」である。これを維持するために預金取扱金融機関にとって信用は絶対的なものである。

ネットワークインフラであるがゆえの特性は、まずは融資のスタイルに表れる。資金決済をつかさどる以上、裏打となる資産は確実なものでなければならない。歴史的にみればそれは金だったし、発券銀行たる日本銀行が裏打とするのは国債である。ひるがえって預金の運用は安全第一を旨としなければならない。リターンを狙ってハイリスクな融資ができないのはネットワークインフラの宿命である。預金取扱金融機関の融資に際し担保なり保証なりが求められ、ときに「雨の日に傘を貸さない」と言われる裏にはそうしたやむをえない事情がある。適当な貸出が見込めない場合、収益性は低くとも国債・地方債など安全確実なものを志向しがちだ。

あまつさえ民間企業の収益性は傾向的に低くなってきており(※1)、赤字転落の可能性が昔に比べれば高くなってきている。融資利率も低いので、貸し手の側からみれば、万一焦げ付いたときに挽回するのが厳しくなった。既に20年程前から企業の開業率が廃業率を下回っており企業版の「人口減少」は相当進行。その上、担保としてアテにしていた不動産価格については「下落しない」という前提がすっかり崩壊してしまった。「リレーションシップバンキング」はそうした背景の下で出てきた考え方である。一時はやったスコアリング融資の多産多死戦略が下火になる一方、少なく産んで大事に育てる型の融資姿勢が見直されてきた。収益水準が低く不安定な時代、せめてそのブレ幅を小さくしようと取引先企業を継続的にモニタリングしつつ、コンサルティングや取引先紹介などきめ細かいサービスを提供するやり方だ。確かに担保や保証人に依存する従来型の融資スタイルとは異なるが、保全重視の貸出姿勢に今も昔も変わりはない。時代に合わせて方法論がスタンダードに回帰したということだ。

次に、金融機関の取引先オーガナイズ機能についてである。もともと、ネットワークインフラたる金融機関の強みは資金の流れや信用情報を収集し「つなぐ」能力にある。今風に言えば「ビジネスマッチング」であるが、銀行が取引先を紹介すること自体は昔からあった。そうして得意先と仕入先をつなげれば、売上回収や仕入支払はすべて自行口座間の付け替えで済む。預金の他行流出を阻むことができるからだ。優良企業に仕入資金を融資したときは同時に支払先を訪問し新規取引をセールス。給与資金を融資したときは従業員の給与振込口座を勧誘。さらに住宅ローンの返済口座をセットするという具合で、一度の融資で何度も収益機会が得られるよう芋づる式にたぐってゆくのは地域金融機関の伝統的な営業テクニックである。このような具合に資金の流れを追うことを「資金トレース」という。これを繰り返し、融資代り金が巡り巡って自行に還流する仕組みができあがってゆく。融資代り金が自行の決裁網から流出しないよう取引先をつなぐのはネットワークインフラたる銀行の本性である(※2)。この行動原理を推し進めてゆくと、自然に銀行を中心とした企業グループのようなものが発生する。かつて戦後の日本経済を牽引した「6大銀行グループ」も同じロジックで説明できる。産業間のキャッシュの流れを銀行内部に閉じてしまおうとするとグループ内に主要産業をワンセット揃えることに帰結する。

ビジネスマッチング・産学官連携その他の地域活性化ツールの使い方

地域金融機関が地域活性化策を講じるにあたって、道具箱には融資その他の金融商品と「ビジネスマッチング」があるとしよう。後者はネットワークインフラたる本性に由来する情報収集機能とオーガナイズ機能がツール化したものだ。ここで地域活性化の切り札と考えられている「ビジネスマッチング」は先に述べた伝統的な「資金トレース」とはコンセプトが異なるのではないか。単なる「売りたし・買いたし」掲示板でもないだろう。端的にいえば、資金トレースの文脈でいう「マッチング先」は、一義に自行取引先である。それに対し、いわゆるビジネスマッチングは県内の実力企業が、県内外の実力企業と結び付くものという点で区別されるのではないか。

地域経済界においても銀行を中心に取引先同士でつながった「銀行グループ」のようなものは大なり小なりある。地元に根をはる金融機関は、同じように地元に根をはった有力企業と歴史的にも深いつながりがあるのが普通だ。これを踏まえれば、地域活性化の戦略策定にあたっては、そうした地域版の企業グループが一丸となって県外需要をいかに獲得するかにコンセプトを設定するのがポイントになるのではなかろうか。考えられる策定手順は、まず成長分野にターゲットを定め、地元有力企業を含む地域資源の強みを把握。次いで何を作って誰に提供するのかコンセプトを決定。これに沿って地元有力企業や研究機関を選定の上グループ化するというものであろう。コンセプトに応じてプロジェクトチームを組織するプロセスが必要となるが、ここにビジネスマッチングの出番がある。地域金融機関の情報収集機能が活きる。取引先の強みも弱みも熟知しているからだ。リレーションシップバンキングの実践によってなおさら磨きがかかっている。

さらに不足する機能があれば県外から調達する必要があろう。行政とタイアップして探しにゆくのもビジネスマッチングの役割だ。そう考えると、地域活性化戦略は、中央でしばしば見られる、商社などが中心に大企業のグループが新事業展開やインフラ輸出を目指して立てる戦略とスケールはともかく形はそれほど変わらない。その地域経済版として考えると、たとえば素材加工や部品産業が盛んな地域であれば、組立工場を整備または誘致する川下展開戦略が思い浮かぶ。地域資源の強みを活かして新製品を開発したり、既存製品の新たな販路を拡大したりするのも定跡のひとつだ。

重要なのは、まず地域活性化における明確な戦略イメージを持ち、コンセプト実現に視点をロックしてビジネスマッチング、ないし産学官連携というツールを使うことだ。もっとも、金融機関の立ち位置とすれば地域戦略にかかるコンセプトを打ち出したり、投資を促すコンサルティングを企業に提供したりするのは難しいかもしれない。信用秩序の維持を絶対とするネットワークインフラの本性を鑑みれば、金融機関は自ら前のめりのアイデアを打ち出す主体としてではなく、企業が自己責任で取り組まんとするプロジェクトを審査し、取組方針を判断する立場にある。企画と審査を両方同時にするのは利益相反関係からみて得策ではなかろう。地域活性化戦略を立案するにせよ、それ自体は利害関係のない第三者に任せたほうがうまくいくかもしれない。リーダーと参謀を分けるのがポイントだ。金融機関自体は地域企業のオーガナイズ機能と広義の審査機能に徹し、提案主体との間で相互牽制機能を働かせるやり方がむしろ現実的ではないか。また新しいことを始めるにあたってはそれなりに危険もともなう。預金取扱金融機関の資金移動ネットワークをリスクにさらすわけにいかないことを考えると、資本市場を組み合わせた投資リスク分散の仕組みも欠かせない。

敷衍すると、リレーションシップバンキングの一環で個別企業にコンサルティングを提供するにも同じようなボトルネックが見出される。資金移動ネットワークの担い手の使命に照らせば金や国債並みとはいわずとも矩は超えず。コンサルティングも経費削減や業務効率化、遊休資産を売却して借入を圧縮するという、端的に言えば返済可能性の強化を目指したアドバイスをするほうが、積極的な成長戦略を打ち出してゆくよりも得意である。将来モノになるか不明瞭な事業、リスクを伴う拡大戦略は提言しにくい。融資適応の判断が難しいからだ。内部組織的に明確に分ければ問題ないのだろうが、資金移動ネットワークの担い手の使命に照らせば預金取扱金融機関は運用先を審査する立場なので、ひょんなことで利益相反に陥るリスクも常にモニターしておかなければなるまい。

いずれにせよ、地域金融機関が地域活性化の戦略と戦術を講じるにあたっては、ネットワークインフラの担い手であるがゆえの特性を認識することがポイントになろうかと思う。地域活性化と一口で言うほど簡単ではないが、地域金融機関の強みを活かしつつ弱みを補完する戦略チームを組むことによって活路が開けるのではないか。

地域金融機関の成長ストーリーにつなげる地域活性化の戦略と戦術の体系図

(※1)2010年4月27日付大和総研コラム「事業利回りの低下、そうした時代の資金循環のあり方

(※2)本文には書けなかったが、他にも与信審査で得られる信用情報を活用して取引拡大につなげる古典的テクニックがある。たとえば、決算書から手形の振出先を追っかけて、手形割引取引をセールスするなどだ。他行預金や貸出の満期情報も得られるし、まさに決算書は営業情報の宝庫である。経験を積めば口座履歴やクレジット決済履歴などから融資申込者の人となりが透けて見えるようになる。このような、信用情報を活用した営業が今も通用するのかわからないが、ともかく他の業態には容易にキャッチアップできない金融機関の強みであると思う。

(挿入図の元資料出所)
域内GDP:県民経済計算/世帯数:住民基本台帳/預貯金残高:月刊金融ジャーナル増刊号「金融マップ」の都道府県別預貯金残高を元に、前年度と当年度の単純平均を求めたもの。業態は銀行、信用金庫、信用組合、労働金庫、農協、ゆうちょ銀行。

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