人事・健保・退職給付
「割引率の設定」における重要性基準の留意点

2013年8月28日

  • コンサルティング・ソリューション第三部 コンサルタント 松原 寛

新退職給付会計基準の適用まで約半年に迫った(3月期決算企業)。2014年4月の期首から適用される新退職給付会計基準では、企業が退職給付債務等の算定方法(「割引率の設定」と「給付の期間帰属」)を選択することになる。この選択の結果、算定された退職給付債務の変動が企業財務に影響を及ぼすことになるため、現時点で多くの企業が対応方針を検討しているのではないだろうか。今回は、新退職給付会計基準適用の検討にあたり、現状、筆者が考えている「割引率の設定」における重要性基準の留意点について整理する。

重要性基準

現行の退職給付会計基準には、割引率に関する重要性基準が設けられている。割引率に関する重要性基準とは、当期末の割引率により算定した退職給付債務が前期末の割引率により算定した退職給付債務と比較して10%以上変動すると推定される場合は、当期末の割引率を用いて退職給付債務を算定しなければならないというものである(10%以上の変動がなければ、前期末の割引率を使用して当期末の退職給付債務の算定が可能)。また、この重要性基準を適用する場合は継続して適用しなければならず、ある年度のみ適用するというような都合の良い使い方はできない。

この割引率に関する重要性基準は、新退職給付会計基準においても適用される。新退職給付会計基準において、「割引率の設定」方法は大きく分けると、「複数の割引率を使用する方法」、「単一の加重平均割引率を使用する方法」となり、それぞれの方法において重要性基準を適用する場合の留意点を以下にまとめる。

複数の割引率を使用する方法

重要性基準を適用する場合、日本年金数理人会および日本アクチュアリー会が公表している割引率の変更を判断するためのマトリクス表(「退職給付会計に関する数理実務基準、退職給付会計に関する数理実務ガイダンス」の付録1」)を使用することも考えられるが、複数の割引率を使用する場合はこのマトリクス表を適用することができない。マトリクス表を使用しない対応としては、期末時点のデュレーションを用いて退職給付債務の近似計算を行い、割引率変更の判断を行うことが考えられる。ただし、この方法が適用できるのは、データ基準日時点で退職給付債務を算定したときに使用したイールドカーブと期末のイールドカーブを比較した時の変化幅がパラレルシフトとみなせる場合である。そのため、イールドカーブの変化をパラレルシフトとみなせるかが課題となる。

この方法以外には、期末のイールドカーブが確定した時点で退職給付債務を再計算し、その結果と前期末の退職給付債務を比較して、割引率変更の判断を行うことが考えられる。多くの企業が退職給付債務計算を受託機関に依頼していると思われるが、その中で決算期に再度計算を依頼することは、計算結果の受領等のスケジュールを考慮すると厳しい。また、期末のイールドカーブを使用して退職給付債務を再計算する方法としては、計算ソフトを使用する方法もある。この方法であれば、期末のイールドカーブが確定した時点でイールドカーブを計算ソフトに入力し、自社内で退職給付債務の再計算ができるため、スケジュール的に問題なく対応できるだろう。ただし、この場合でも問題点が1つある。それは計算結果の妥当性である。自社計算ソフトを使用する場合は、年金アクチュアリー又は年金数理人(以下、年金アクチュアリー等)が計算結果を確認していないため、年金アクチュアリー等の確認書等がない。退職給付債務計算は複雑な数理計算を伴うため、自社計算ソフトを使用する場合には、会計監査の際に年金アクチュアリー等の確認書を用意できる体制を整えておいた方が無難である。

<ポイント>

  • 「複数の割引率を使用する方法」では、マトリクス表(「退職給付会計に関する数理実務基準、退職給付会計に関する数理実務ガイダンス」の付録1」)を適用することができない。
  • 補正を行うには、イールドカーブの変化をパラレルシフトとみなせるかが課題。
  • 期末のイールドカーブを使用して再計算する場合において、受託機関に計算を依頼している場合は、スケジュール調整が必要。また、自社計算ソフトを使用して退職給付債務等を算定する場合は、年金アクチュアリー等の確認書を用意できる体制を整えておく。

単一の加重平均割引率を使用する方法

単一の加重平均割引率を使用する場合、「複数の割引率を使用する方法」で触れたマトリクス表を使用することが可能である。使用方法は現行と同じであるが、新退職給付会計基準適用後は縦軸の読み方が「平均残存勤務年数」から「デュレーション」に変わる(「デュレーション」を「加重平均期間」に読替えることも可能)。マトリクス表を使用して割引率の変更が必要と判断した場合も現行と同様であり、線形補間等による近似計算や期末の割引率を用いて退職給付債務の計算を行うことになる。単一の加重平均割引率を使用する場合は、使用する割引率が決まれば現行の手順とあまり変わらないと思われるので、「複数の割引率を使用する方法」に比べると業務負荷等は軽減されるだろう。線形補間等による近似計算の他に、期末のイールドカーブが確定した時点で退職給付債務を再計算することも考えられる。この場合の留意点も「複数の割引率を使用する方法」と同様、受託機関とのスケジュール調整や計算ソフトを使用する場合の退職給付債務計算の妥当性といったことがあげられるため、これらを解決できるような体制を整えておくべきだろう。

上記以外にもデュレーションを使った近似計算等が考えられるが、どの方法を採用するかについては、社内で十分に検討しておく必要があるだろう。

また、新退職給付会計基準の適用後は、「単一の加重平均割引率を使用する方法」を使用する場合でもイールドカーブは必要になる。イールドカーブを用いて単一の加重平均割引率を求めるからである。そのため、「単一の加重平均割引率を使用する方法」を選択した場合でもイールドカーブを入手できる体制を整えておく必要がある。

<ポイント>

  • 「単一の加重平均割引率を使用する方法」では、マトリクス表(「退職給付会計に関する数理実務基準、退職給付会計に関する数理実務ガイダンス」の付録1」)を適用することが可能。
  • 期末のイールドカーブを使用して再計算する場合、「複数の割引率を使用する方法」と同様、受託機関に計算を依頼している場合は、受託機関とのスケジュール調整が必要。また、自社計算ソフトを使用して退職給付債務等を算定する場合は、年金アクチュアリー等の確認書を用意できる体制を整えておく。

以上のように重要性基準を適用する場合において、「割引率の設定」の選択方法により作業スケジュール等が変わってくるため、決算作業をスムーズに行えるよう、事前にそれぞれの方法を採用した場合の業務負荷の見積や作業スケジュール等を検討しておいた方がよいだろう。また、重要性基準に限らず、現時点で新退職給付会計基準に対する疑問や不明な点等があれば、計算を委託している受託機関や監査法人に確認をする等、決算作業に対する体制を整えておくべきである。

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