人事・健保・退職給付
退職給付会計に関する数理実務ガイダンス案が公表 ~割引率設定の実務的な方法~

2012年11月21日

  • コンサルティング・ソリューション第三部 逢坂 保一

退職給付会計に関する数理実務ガイダンス案(以下、数理ガイダンス案)が2012年9月25日に日本年金数理人会・日本アクチュアリー会から公表(※1)された。数理ガイダンス案は、5月に公表された退職給付会計基準(「退職給付に関する会計基準」及び「退職給付に関する会計基準の適用指針」、以下、会計基準等)の内容に沿うように「退職給付会計に係る実務基準」(1999年9月2日制定)の全文を改定するもので、退職給付会計に関する債務及び費用の評価計算等を行う場合に、参考になる数理的な実務を説明する教育的資料としての位置付けである。

ここでは、数理ガイダンス案のうち、割引率の設定に関連する部分について確認するとともに実務上の留意点を考えてみる。


会計基準等では、割引率については、退職給付支払ごとの支払見込期間を反映するものでなければならないとし、以下の方法が含まれるとしていた。

  • 退職給付の支払見込期間及び支払見込期間ごとの金額を反映した単一の加重平均割引率を使用する方法(単一の加重平均割引率)
  • 退職給付の支払見込期間ごとに設定された複数の割引率を使用する方法(イールドカーブを用いた複数の割引率)

 


数理ガイダンス案では、以下に述べるように4つのアプローチが例示されている。会計基準等で示されている「イールドカーブを用いた複数の割引率」に対応するものを、数理ガイダンス案では[1]イールドカーブ直接アプローチと呼んでいる。給付見込期間ごとにスポットレートを割引率として使用する方法であり、原則的な考え方である。このアプローチはシンプルでわかり易いが、終身年金を有する制度の計算では、期間100年程度までのイールドカーブの作成が必要となり、利息費用の算出等、実務面においては、別途、単一の加重平均割引率の算定が必要となる。


会計基準等の「単一の加重平均割引率」は、[2]イールドカーブ等価アプローチ、[3]デュレーションアプローチ、[4]加重平均期間アプローチの3つが例示されている。 [2]のイールドカーブ等価アプローチは、[1]のイールドカーブ直接アプローチにより計算した退職給付債務(以下、DBO(※2))と等しい結果が得られる割引率を単一の加重平均割引率とする方法である。原則的な考え方である[1]のイールドカーブ直接アプローチと同じDBOが算出され、理論的な整合性に優れるが、DBO計算を何回か繰り返して割引率を探し出すことになり作業負荷が大きく、場合によっては計算委託機関との調整を要すると思われる。

[1]イールドカーブ直接アプローチ、[2]イールドカーブ等価アプローチ


[3]のデュレーションアプローチは、DBOのデュレーション(※3)と等しい期間に対応するスポットレートを単一の加重平均割引率とする方法である。デュレーションについては、計算委託機関に算出を依頼するか、自社内で近似計算を行い、数値を入手することになる。デュレーション計算には単一の割引率を仮置きする必要があり、その設定によっては異なる結果となる点に留意が必要である。


[4]の加重平均期間アプローチは、退職給付の金額で加重した平均期間に対応するスポットレートを単一の加重平均割引率とする方法である。加重平均期間については、デュレーションと同様に計算委託機関に算出を依頼するか、自社内で近似計算を行い、数値を入手することになる。このアプローチは、[3]のデュレーションアプローチの特定のケースであり、順イールドの場合、割引率はデュレーションアプローチによる割引率の中で最大となる。(定義通りの計算式では、デュレーション<加重平均期間(仮置きする単一の割引率=0%)となり、割引率が大きくなるとDBOが小さくなる関係から、「[3]によるDBO」>「[4]によるDBO」)


[3]のデュレーションアプローチや[4]の加重平均期間アプローチは、イールドカーブの形状が反映されないという欠点がある。イールドカーブの形状が異なっても、デュレーションあるいは加重平均期間に相当する期間の金利が同じなら、DBOは同額となってしまう。算出結果の有効性についての検証は行っておくべきであろう。

[3]デュレーションアプローチ、[4]加重平均期間アプローチ


上記[1]、[2]のアプローチでイールドカーブが必要なのは言うまでもないが、[3]、[4]のアプローチを選択するにしても、デュレーションあるいは加重平均期間に対応したイールドカーブ上のスポットレートを割引率とするため、前提としてイールドカーブが必要となってくる。数理ガイダンス案では、イールドカーブは、市場データをもとにユニバース(範囲)を設定し、ユニバースに含まれるデータに対してモデルを用いて推定することによって得られるとしている。

イールドカーブは、期間の異なるスポットレートの集合であり、スポットレートは、割引債(期中での利息の支払いがなく満期での支払いのみを約束する債券)の利回りである。債券の多くは利付債のため、市場に存在しない長期の割引債のスポットレートをユニバースから金利期間構造モデルを用いて推定することになる。ユニバースを設定する元となる債券市場の情報は、日本証券業協会や金融情報プロバイダーから提供されているが、そのユニバースからイールドカーブを推定するためには、モデルの選択、利用可能なデータの範囲を超える期間の取扱い等、金利の期間構造の知識の利用が前提となる。


イールドカーブの作成について、現実的に全ての企業がこのような対応ができるとは考え難く、会計基準等適用後は、計算委託機関から提供を受けるケースが多くなると思われる。ただし、各企業においても推定の考え方やその方法については確認をしておくべきであろう。また、自社でDBO計算を実施している企業は、自社内でイールドカーブを作成するか、もしくはその入手方法を事前に検討しておく必要がある。


上記の割引率の設定方法の選択にあたっては、各アプローチの特徴を理解した上で選択を行うが、割引率の設定方法による違いを把握(算出結果の有効性等の確認)しておくことが望ましく、イールドカーブの推定方法及び割引率の設定方法についてDBO本計算時の運用も考慮し選択することになる。そのため、計算委託機関や監査法人等の専門家によるサポートや選択結果の検証が必要になるものと思われる。また、採用したイールドカーブの推定方法及び割引率の設定方法は、継続的に使用する(※4)ことになるため、計算委託機関から継続的にその方法の実施が可能か、あるいは自社で継続的にその方法の実施が可能か、あらかじめ確認しておきたい。

(※1)日本年金数理人会又は日本アクチュアリー会の会員が遵守するべき基準として、『退職給付会計に関する数理実務基準案』も合わせて同日付で公表されている。
(※2)DBO:Defined Benefit Obligation(給付建債務=退職給付債務)
(※3)デュレーション:割引率が変化した場合にDBOがどの程度変化するかを示す数値(感応度)。また、支払までの平均期間を示すもの。デュレーションとしてはいくつかが知られているが、そのうちマコーレー・デュレーションを以下に示す。
マコーレー・デュレーション
(※4)数理ガイダンス案では、「過去に採用したアプローチは、通常は継続的に使用するが、その合理性は環境の変化によって低下する可能性があるため、必要に応じて適切に見直す。」としている。

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