人事・健保・退職給付
退職給付会計基準改正がPBOに与える影響は?

2011年4月27日

我が国の退職給付会計基準(日本基準)が、IFRSとのコンバージェンスを目指し、大きく変わろうとしている。主な改正点としては、「会計処理方法の変更」、「PBOや勤務費用(以下、PBO等)の計算手法の変更」等があり、いずれも企業決算に大きな影響を与えると予想されている。これらの改正点のうち、前者の「会計処理方法の変更」については、自社内でも各種数値の把握が可能であるため改正の影響についてイメージを掴み易いが、後者の「PBO等の計算手法の変更」については、多くの企業が数値計算そのものを外部委託しており、さらに複雑な計算ロジックや判断を伴うため、現段階では改正の動向について様子見としている企業が殆どではなかろうか。そこで本稿ではこの「PBO等の計算手法の変更」のうち、主な変更点である「割引率設定基準の変更」と「給付の期間帰属方法の変更」について概説するとともに、その影響や留意点について説明していきたい。

まずは「割引率設定基準の変更」であるが、そもそも割引率とは、PBO等の算出プロセスの中で、将来の退職金支払いのキャッシュフローを割り引くときに用いる金利のことである。今回の改正では、この使用される金利が、従業員の平均残存勤務年数を基準とした単一の金利を用いる方法から、将来の給付発生のタイミング毎に複数の金利(イールドカーブ)を用いる方法に変更された(もしくは、将来のキャッシュフローの金額加重平均期間による単一の割引率を用いることも可能)。この新しい基準では、発生するキャッシュフローのタイミングによって使用される割引率が異なるため、キャッシュフロー(金額的な重み)が大きい時点の影響をより多く受けることになる。短期の金利が低く、長期の金利が高いという一般的な前提を置くならば、高年齢の従業員に対する金額的な重みが大きい(例えば、経過措置によって高年齢者のみ退職金の上乗せ給付があるケース等)場合には、低い金利でしか割り引くことができない部分が相対的に多くなってしまうため、PBO等の額は結果として増加する方向に作用する。また、これまでの割引率の基準となる期間を決定するにあたり、従業員の平均残存勤務年数に受給権者の年金支払い期間を加えた期間をベースとしてきた企業にとっては、短期間(近い将来)での支払いによる重み付けが新たに発生するため、これも同様な傾向になると思われる。逆に、若年層の従業員や中途採用が多い企業、過去に確定拠出年金の導入等によって過去分の退職金を一旦清算した企業では、これまでと比較してPBO等は減少することが予想される。

次にもう一つの「給付の期間帰属方法の変更」であるが、これはPBO等の算出プロセスの中で将来のキャッシュフローを予測する際に使用する部分で、評価時点までに債務として発生しているとみなされる額の見積もり方法のことである。これまでの会計基準では、この「給付の期間帰属」の方法として「期間定額基準」を原則としてきたのであるが、新しい基準では、「期間定額基準」と「給付算定式に従う方法」の選択適用というルールになった。どちらを採用するかについては各企業の判断となるが、一度採用した方法は継続して使用することになるため、各企業は慎重な判断が求められることになろう。さらに、今回の日本基準の改正の後に控えている連結決算等に使用されるIFRSの強制適用(アダプション)を視野に入れる必要がある。なぜならばIFRS(IAS19)では「給付の期間帰属方法」について「給付算定式に従う方法」のみが認められると予想されているため、仮に今回の日本基準の改正において「期間定額基準」をそのまま継続して選択した企業は、「期間定額基準」を使用する日本基準と、「給付算定式に従う方法」を使用するIFRSの二種類のPBOが自社内に存在し、それぞれ別の計算が必要になる可能性も考慮しておかなければならない。

「期間定額基準」から「給付算定式に従う方法」に変更した場合のPBO等の数値への影響を考えてみたい。「期間定額基準」とは、入社から評価時点までの勤続年数の比率によって評価時点までの発生額を直線的に見積もる方法であり、「給付算定式に従う方法」とは、評価時点の要支給額をベースとして給付カーブに沿って発生額を見積もる方法である。「給付算定式に従う方法」では、「期間定額基準」と比較して、日本企業で多く見られる「下に凸」の給付カーブ(若年層の退職給付額を低く抑え、高年齢層での給付が増加するケース)の場合には、PBOは小さくなる傾向にあり、逆に「上に凸」の給付カーブ(退職給付額が若年層から早期に積み上がるケース)の場合には、PBOは大きくなる傾向になることが言える。しかしながら、個別の企業に置き換えて考えるならば、単純なモデル化された給付カーブの形状だけでなく、従業員の年齢構成や退職率等もPBO等の額に影響を与えることになるため注意が必要である(勤務費用は給付カーブに沿って認識されるため、勤務費用の額は、PBOと同様に給付カーブの形状や年齢構成等によって変動することになる)。

また「給付算定式に従う方法」を選択する場合に、留意しなければならない問題がある。下に凸の給付カーブの場合で将来の給付が急増するケース(著しい後加重)の取り扱いである。前述のとおり「給付算定式に従う方法」では、要支給額をベースに発生額を見積もっているが、この方法では給付が急増する前の年齢層における発生額の認識が不十分であるとして、これらの年齢層に対して後加重を加味した補正計算を必要とするものである。各企業の給付カーブが著しい後加重に該当するか否かの判断や、その補正方法については、各企業が主体となり監査法人やPBO計算受託機関と調整をしていかねばならない。弊社においても様々なモデルケースを作成し検証を行っているが、後加重であると判断し補正計算を加えたケースでは、単純な「給付算定式に従う方法」と比較してPBOは30%以上も大きくなるケースも見受けられた。「期間定額基準」から「給付算定式に従う方法」に変更しPBOが大幅に減るケースであっても、結局は、「著しい後加重」と判断された場合には「期間定額基準」よりも大きなPBOになってしまう場合もある。

ここまで記載してきたとおり、会計基準改正に伴う計算手法の変更によってPBO等の額は大きく変動することが予想される。PBOが変動すれば、企業の負債や利益剰余金等のB/S項目に影響を与え、勤務費用の変動はP/Lに影響を与えることになる。これを踏まえて、各企業の経理財務を始めとしたPBO等の担当者は、今後以下のような点に注意をしておく必要があろう。

  • 基準改正後のPBO等の数値に関しては、最短で2012年4月期初から適用されるため、基準改正の動向を注視しておく点。また、これに沿った事前準備を進めておく点。(ただし、2011年4月20日時点では未確定で、予定通りのスケジュールで進むか否かについては不透明であり、遅れることも視野に入れておく必要がある)
  • 「割引率設定基準の変更」や「給付の期間帰属方法の選択肢(後加重の判断含む)」について早めに監査法人やPBO計算受託機関に相談する必要がある点。特に自社内でPBO等の計算を行っている企業は、後加重の判断について、アクチュアリー等の専門家の関与ができない点。

最後に、PBO等の計算手法の選択にあたっては、可能であれば変更前後のPBOや勤務費用の数値比較のみだけでなく、将来の推移まで考慮し、長期的な視点に立って判断した方が良いであろう。そのためには、十分な検討時間の確保とノウハウを持った専門機関の活用をお勧めしたい。

〔参考資料〕
本稿の詳しい解説資料は、DIRホームページからダウンロード可能です。
退職給付債務(PBO)計算サービス

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