企業経営
のれんは償却すべきか否か

2014年11月26日

  • コンサルティング・ソリューション第一部 主任コンサルタント 原田 英始

のれんの会計処理に関する議論を巡る最近の動向

2014年7月22日、企業会計基準委員会(ASBJ)、欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)、イタリアの会計基準設定主体(OIC)はのれんの会計処理と開示のあり方に関するグローバルな議論に寄与することを目的に、ディスカッション・ペーパー(DP)「のれんはなお償却しなくてよいか-のれんの会計処理及び開示」を共同で公表した。現在、このDPに対するパブリックコメントが募集されている。

「のれんは償却すべきか否か」。有償取得したのれんに関する会計処理については、国内外で長年にわたり議論の対象となっている現代の会計基準を巡る主要な論点である。現在、日本基準においてはのれんの会計処理について毎期の規則的な償却と減損の兆候があった場合に減損テストを要求する償却及び減損アプローチを採用している。一方、国際財務報告基準(IFRS)及び米国基準(USGAAP)は毎期の減損テストを要求する減損のみアプローチを採用しているように、会計基準間で会計処理に顕著な相違があり、企業間、特に海外企業との財務諸表の比較可能性が確保されているとは言い難いのが現状である。

のれんの会計処理に関する歴史的経緯

かつては、国際会計基準(IAS)、USGAAPともにのれんは毎期規則的に償却することを要求していたが、2001年にUSGAAPがのれんの償却を禁止、2004年にIASBがUSGAAPとのコンバージェンスを達成するためにIFRS第3号「企業結合」を公表したことを受けて、IFRSとUSGAAPにおけるのれんの会計処理が統一され、のれんの会計処理は国際的にみれば、非償却とすることが主流となった。一方、日本基準は従来からのれんについては毎期規則的に償却することを要求している。2014年7月31日にASBJから公表された「修正国際基準(JMIS=国際会計基準と企業会計基準委員会による修正会計基準によって構成される会計基準)(案)」における修正国際基準公開草案第1号「のれんの会計処理(案)」でも現行の日本基準と同様、のれんの会計処理について償却及び減損アプローチが踏襲されているように、わが国におけるのれんの会計処理は一貫して「償却説」の立場を採っている。

償却説VS非償却説

償却説を採る場合、償却期間と償却方法を定める必要がある。現行の日本基準ではのれんは最長20年の償却期間において毎期定額法またはその他合理的な方法で償却することが要求される(連結財務諸表原則)。この点、2004年にIFRS第3号「企業結合」が公表された際、国際会計基準審議会(IASB)はのれんの耐用年数及び消費パターンについて信頼性をもって決定することが可能ではなく、ある特定の期間にわたる償却費は単なる恣意的な見積りになるという理由で、減損及び償却アプローチを棄却し、減損のみアプローチへとシフトした経緯がある。IASBの見解を日本基準に当てはめてみると、償却期間の「最長20年」と償却方法の「定額法またはその他合理的な方法」のどちらにも恣意性が介入するため、のれんは非償却とするのが妥当であるという主張だ。

一方、償却説は非償却説がのれんは減価しないと主張していることに異を唱える。すなわち、のれんの実態が超過収益力であるとすると、償却説によれば、超過収益力は永続的ではないので償却すべきであると主張する。仮に、買収企業の収益力が買収後も維持されているのであれば、それは超過収益力が永続しているのではなく、日々の営業活動を通じて自己創設のれんが発生していることで収益力を維持していると考えられ、有償取得したのれんは時の経過とともに減価して自己創設のれんと入れ替わっているのであり、有償取得したのれんの減価分は損益計算書に反映すべきであるという主張である。

償却説、非償却説ともに長所・短所があり、どちらが優れているとはいえないのが長年議論されている理由であると思われる。

償却費負担回避のためのIFRS任意適用

日本基準において、のれんの償却費は損益計算書上、販売費及び一般管理費とされる。したがって、大型のM&Aを行い、多額ののれんが発生した場合、現行の日本基準ではその償却費負担が最大で20年間生じることになり、営業利益がのれんの償却期間にわたって圧迫され続ける。営業利益や経常利益などの区分利益を重視する傾向が根強いわが国において、経営者がのれんの償却費負担を懸念し、M&Aに消極的になるのではないかという意見が以前からあるのは確かであり、のれんの償却を回避するためにピュアIFRSの任意適用に踏み切っている企業もあるようだ。ピュアIFRSの任意適用企業数は2014年11月現在、東京証券取引所上場企業のうち37社であり、これに加えて10社以上の企業が今後の任意適用予定を公表している。任意適用企業数の拡大傾向は今後も継続しそうだが、その企業の顔ぶれをみると、成長戦略としてM&Aを積極的に展開している企業が何社か見受けられる。

忘れてはならない投資家の利益

現在、わが国の資本市場において認められている会計基準は日本基準、米国基準、ピュアIFRSであり、これに先日公表されたJMISが加わり、実に4つの会計基準が併存することが想定されている。これまで見てきたようにのれんの会計処理が会計基準間で異なっていることで、特に海外企業との財務諸表の比較が困難な状況はしばらく継続しそうだ。

投資家の立場からは、財務諸表の作成基準はシンプルで理解しやすいものであることが望ましい。金融庁によれば、複数の会計基準が併存する状況は最終的に単一の基準に収斂するための一時的なものであるとされているが、この状況が仮に長く続いた場合は日本の資本市場の国際的な信頼性を確保することが難しくなることが予想される。わが国が長年採用してきたのれんの償却説を国際的に働きかけることはもちろん重要なことであるが、投資家の利益を重視することを忘れてはならないと考える。

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