企業経営
IFRSへの対応をめぐる最近の動き

「日本版IFRS」創設へ

2013年7月17日

  • コンサルティング・ソリューション第一部 主任コンサルタント 原田 英始

6月19日に企業会計審議会は「国際会計基準(IFRS)への対応のあり方に関する当面の方針」(以下「当面の方針」という)を公表した。これは、関係者における今後の対応に資する観点から、これまでの議論や国内外の動向等を踏まえ、IFRSへの対応のあり方について当面の方針を取りまとめたものである。

「当面の方針」では、まず「IFRSへの対応のあり方に関する基本的な考え方」が提示されている。ここでは、IFRSに対する日本の態度、すなわち単一で高品質な国際基準を策定するという目標を実現するために、日本が主体的に取り組むことが重要であることなどが示されている。一方で、IFRSには日本の企業経営や事業活動の実態にそぐわず、導入コストが過大であると考えられる項目が一部に存在することや米国の動向など国際情勢に不確実性が存在することを十分に勘案する必要があるとの考えも示されている。このような状況を考慮に入れた上で、IFRSへの日本のコミットは今後数年間が重要な期間になるとの認識を示した上で、まずはIFRSの任意適用の積上げを図ることが重要と考え、当面の方針として「IFRS任意適用要件の緩和」、「IFRSの適用の方法」及び「単体開示の簡素化」を提示している。

IFRS任意適用要件の緩和

現行の連結財務諸表規則では「上場していること」、「IFRSによる連結財務諸表の適正性確保への取組・体制整備をしていること」、「国際的な財務活動又は事業活動を行っていること」の3要件全てを充足した会社がIFRSを任意適用して連結財務諸表を提出することができることとしている。「当面の方針」では、このうち「上場していること」と「国際的な財務活動又は事業活動を行っていること」の2要件は撤廃することが盛り込まれた。
これにより、現行の3要件を満たしておらず、IFRSに基づく適正な財務諸表を作成する意欲と能力がありながらもIFRSをルール上適用できなかった企業や上場準備段階からIFRSを適用したいIPO企業が任意適用できることになり、任意適用する企業数が増加することが予想される。

IFRSの適用の方法

IFRSを適用している多くの国・地域がエンドースメント手続を行い、自国基準へIFRSを取り込んでいることから、日本でも個別基準を一つ一つ検討し、必要があれば一部基準を削除または修正して採択するエンドースメントの仕組みを設けることが提言されている。
ここで言うエンドースメントされたIFRS(以下「日本版IFRS」という)の創設により、日本の会計基準は日本基準、米国基準、ピュアIFRS、日本版IFRSの4基準が並存することになる。「当面の方針」ではこの並存状態を「大きな収斂の流れの中での一つのステップ」と位置付けているが、この並存状態がいつ解消される見込みなのかについては記述がない。IFRSの創設目標が「単一で高品質な会計基準を策定すること」を通じてグローバルに各国の財務諸表の比較可能性を高めることにあるにも関わらず、「日本版IFRS」の創設により日本の会計基準が(一時的にではあるのだろうが)4基準が並存する状態すなわちクアドラプル・スタンダードの状態となりそうなのは何とも皮肉なことと言えよう。

単体開示の簡素化

現行制度においては、上場会社が作成する財務計算に関する書類は金商法に基づいて作成する(連結)財務諸表と会社法に基づいて作成する(連結)計算書類の2種類があるが、金商法と会社法で開示制度が異なるため、実務サイドの負担が過重となっているという意見が以前からあった。「当面の方針」において、連結開示が中心となった現在の状況を考慮し、単体開示の簡素化(本表については会社法の要求水準に統一するなど)が提示されている。

「当面の方針」はIFRSの導入賛成派、導入反対派双方が納得する緩和策を提示し、政財界等関係各方面の立場に配慮した内容となっているが、IFRS任意適用企業数をいつまでに何社達成といった具体的な目標時期や数値等の核心部分については詳らかにされておらず、日本のIFRS対応に関するロードマップは不透明なままである。ここで考えなければならないのは、そもそも金商法における「財務諸表」は、企業経営者と投資家の間の重要なコミュニケーションツール(IRツール)のひとつであり、言語と同じような性格を持つという点だ。会計基準は言葉の意味や文法を定義したものである。実務上の負担も無視できない問題ではあるが、それにもまして、いかにして経営者と海外を含む投資家の相互理解を深めるかという原点に立ち返ってこの問題に取り組むべきではないか。また、IFRSは「プリンシプル・ベース(原則主義)の会計基準」といわれている。原理原則が簡単に揺らいでしまったり、例外があまりに多いようでは、会計基準としての用を成さない。「日本版IFRS」はピュアIFRSから一部をカーブアウト(適用除外)するものであるが、カーブアウトは本来限定的な適用が望まれるため、あまりにもカーブアウトが増えると「日本版IFRS」はピュアIFRSと同等との評価を得られなくなる可能性が高まることが懸念される。かつての「レジェンド問題(※1)」の再来を招かないよう、日本の会計基準が国際的に孤立するような事態、すなわち「ガラパゴス化」することで日本の資本市場に悪影響を与えることは何としても避けなければならないと考える。

(※1)レジェンド問題
1999年3月期から2003年3月期まで、当時の世界的な大手会計事務所「ビッグ5」が日本企業の英文財務諸表とその監査報告書において、「財務諸表が日本の会計基準で作成され、監査も日本の基準で行われている」等といった説明文(Legend Clause)を記載することを求めたことをいう。これは日本の会計基準がグローバルな水準に到達しておらず、世界標準から劣後しているという警告を意味した。

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