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退職給付会計基準の改正によるPBOへの影響は?~退職給付見込額の期間帰属方法の選択における留意点~

2011年10月19日

  • 年金・社会保険コンサルティング部 三上 徹
現在、見直しが進められているわが国の退職給付会計基準に関して、PBOの計算手法に関する部分のうち、今回は退職給付見込額の期間帰属方法の選択に焦点を当ててその留意点を概観してみたい。

退職給付会計基準の公開草案では、退職給付見込額の期間帰属方法については、「期間定額基準」「給付算定式に従う方法」のいずれかを選択することになっている。また、「給付算定式に従う方法」を選択した場合には、給付額が著しく後加重であるかどうかを判断して、著しく後加重であると判断した場合には定額補正を行う必要があるとしている。

ここでまず、定額補正を考慮しない前提で、「期間定額基準」と「給付算定式に従う方法」を比較してみる。

期間帰属の比較検討イメージ

上図の比較表にあるとおり、「給付算定式に従う方法」は、現行基準で表記すると、給付設計が最終給与比例制、勤続期間別定額制の場合では「支給倍率基準」、ポイント制、キャッシュ・バランス制の場合では「ポイント基準」ということになる。

また、「給付算定式に従う方法」と「期間定額基準」を比べると、「給付算定式に従う方法」では、給付カーブの増加割合に応じて債務額も計上されるため、債務額自体が給付設計や人員構成に大きく影響を受けることになる。これを上図のイメージグラフで説明すると、の金額が安定的であるのに対して、’の金額が給付カーブによって大きく異なることから理解できる。

では、定額補正も含めて「給付算定式に従う方法」を検討するとどうなるであろうか。定額補正が必要となるケースとしては、上図のイメージグラフの左側「給付カーブが下に凸」の場合において、将来の予定給付額に対して’が少額過ぎるケースが該当する。

こうした場合には、下図のイメージグラフのように薄いブルーの点線で描いた定額補正用のカーブを想定して、給付が急激に増加した後に退職する確率に応じた部分は定額補正用のカーブ上の金額、その手前で退職する確率に応じた部分は要支給額ベースの金額(先程の’の金額であるがイメージグラフでは表記の都合上、要支給額で代用している)を決算時点までの発生分と見なしてPBOを計算する。

給与算定式に従う方法の定額補正

まず、始めに理解しておかなければならないことは、IFRSにおける退職給付に関する会計基準であるIAS19には「期間定額基準」という選択肢は存在しないということである。

つまり、今回の日本基準の改正時点で、「期間定額基準」を採用した場合には、いずれその取り扱いを見直さなければならない可能性がある。IFRSの適用対象となれば、当然その時点で、「給付算定式に従う方法」に変更しなければならず、また、従来検討されていたように連結先行でIFRSが適用されるようなことになれば、単体と連結で乖離が生ずることになる。

いずれにしても、IFRSの適用をめぐる状況が不透明である以上、今回の日本基準の改正時点で「給付算定式に従う方法」についても一通りの検討を行う必要がある。

そうした場合に、実務上の課題として難題となるのは、定額補正の必要性の判断とそれが必要となった場合の具体的な定額補正用の給付カーブの設定である。

最初に定額補正の必要性の判断であるが、これは「考え方を特定することにより、かえって国際的な会計基準との整合性が図れないおそれがある」ため、具体的な指針は示されないことになっており、個別事例毎に検討しなければならない。このため、企業は、退職給付のそもそもの意義を再確認し、給付設計の考え方をもう一度整理してみる必要がある。

またこの整理と併せて、重要性基準の観点から判断するとなれば、定額補正を行った場合と行わない場合とで、債務額及び費用にどの程度の差があるのか等の定量分析も必要になってくる。

次に定額補正用の給付カーブについてであるが、「給付カーブがピークを迎える時点を個人別に把握して計算に織り込む方法」、「定額補正用の給付カーブとして一定のモデルを用いて計算する方法」、「給付カーブ自体はそのままに、計算プロセスを2つに分けて期間定額基準と給付算定式に従う方法をそれぞれに適用して計算する方法」、「給付カーブを連続した後加重と捉えて近似的に期間定額基準を適用する方法」等、理論上はいくつかの設定方法が考えられる。それぞれの設定方法毎に計算に要する時間や費用が異なるため費用対効果といった点も含めて、やはり重要性基準の観点から判断するとなれば各種の定量分析を行う必要がある。

以上のように、一通りの検討を加えるとなれば、1企業当り相当な時間が必要となる。

今回の会計基準改正の適用時期が2013年3月31日(PBOの計算手法に係る定めについては2013年4月1日)であるとすれば、今後IAS19号の適用を受ける可能性のある企業が、以上のような一連のプロセスを含んだ検討を行うことが可能かどうか心配である。

仮に、十分な検討を行えないまま、時間切れのために「期間定額基準」を採用しなければならない企業は、IAS19号の適用時にもう一度同じ問題に直面することになる。このことが最後の留意点ということになる。

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