経済・ビジネストピックス
不正の発見に対する会計監査人の責任

2015年7月29日

  • コンサルティング・ソリューション第二部 主任コンサルタント 原田 英始

会計監査の目的は不正の発見ではないが

会計関係の不祥事があった場合、社会一般の意見として必ず出てくるのは「会計監査人は不正を発見できなかったのか」、「会計監査人は何を見ているのか」であろう。だが、会計監査の目的は制度上、財務諸表の適正性について意見を表明することであり(監査基準第一)、第一義的には不正を発見することを目的としていない。投資家が会計監査人に期待している会計監査は不正の発見、摘発であると考えられるが、会計監査の実際の目的は上記のとおり異なるため、投資家の監査に対する期待と会計監査の実際の内容に差が生じることとなる。これはエクスペクテーション・ギャップ(期待ギャップ)と呼ばれ、古くから議論の対象になってきた。

では、不正の発見について会計監査人は責任を全く負わなくてもよいのだろうか。不正の発見が会計監査の第一義的な目的ではないにせよ、職業的専門家として適切な懐疑心を持って、合理的な心証が得られるまで必要な監査手続を行ったかどうかが、少なくとも必要ではないだろうか。この場合は、仮に不正が発見できなくても、職業的専門家としてのステークホルダーに対する責任を果たしているといえるのではないだろうか。

近年、有価証券報告書の虚偽記載等ディスクロージャー制度を揺るがすような不適切な事象が相次ぎ、公認会計士による監査が有効に機能していないのではないかとの社会的な批判が強まった。これを受けて、公認会計士監査をより実効性のあるものとするため、「不正リスク対応基準」を設定するなど、投資家等ステークホルダーからの期待に沿うべく公認会計士業界は継続的な努力を続けている。

監査制度上の限界

会計監査人に不正の発見に対する責任を担わせるにせよ、会計監査には制度上の限界が指摘されている。

まず、会計監査には検察等一部の政府機関のように強制捜査権が与えられているわけではなく、あくまで被監査会社の内部統制が有効であるという前提の下、被監査会社が提出した資料に基づいて監査を実施しているに過ぎない。不正が行われる場合、多くは資料の改竄や隠蔽など内部統制が無効化されているため、内部統制の有効性に依拠している現代の監査は機能せず無力化するといった限界がある。仮に、会計監査に強制捜査権があれば、被監査会社に資料の改竄や隠蔽の準備をするための時間を与えずに、不正の発見、摘発の可能性が高くなるが、監査法人は公益性の高い業務を行っているとはいえ、あくまで民間事業者であるため、今後も一部政府機関のように強制捜査権が与えられるようになることはないであろう。

次に、不正の発見、摘発を行うためには、通常の会計監査に追加して不正に対応した監査手続を行う必要があるが、それは現在よりも監査時間が増加し、時間に見合ったコストが発生することになる。そのコストは監査報酬に反映されることになるが、それを支払うのは被監査会社自身である。日本の監査報酬は諸外国に比べて安いとされているが、被監査会社は売上高や利益に直接関係しない監査報酬をできるだけ低く抑えたいと考えており、監査法人が監査報酬の値上げを被監査会社に要求することは、場合によってはクライアントロストにつながることも予想されるため、実務的には難しいことが多い。値上げが被監査会社に許容されるのは、例えば、連結子会社が前期よりも増加して、監査時間の増加が予想されるなどごく限られた場合だけと思われる。監査報酬は監査論的にはステークホルダーたる株主の代わりに被監査会社が支払っていると解される。しかし、監査法人は公正不偏の立場で監査を行うという高い公益性が求められる一方で、民間の事業体として営利を追求しなければならないという側面もあるため、監査報酬を支払っている被監査会社の不利になるような判断が事実上しづらいという監査制度の構造上の限界も指摘される。これについては、被監査会社が監査報酬を監査法人に支払うのではなく、証券取引所が株主や被監査会社から手数料として監査報酬を徴収してそれをプールし、監査法人に支払うような形態などが提案されることもあるが、監査報酬が監査リスクを反映しないこととなり、企業の規模のみをもって決定されるのではないかといった指摘があり、実現には至っていない。

資本市場の信頼性を低下させないために

ここまで見てきたように、監査には制度上の限界が確かに存在し、不正を発見、摘発するには、それに見合う報酬の支払を監査法人は受けていないし、強制的な権限も持っていないということは理解しなければならない。だが、会計監査の第一義的な目的は不正の発見、摘発ではないとはいえ、それをいつまでも拠りどころにして不正の発見、摘発から目を背けることは、現代では社会一般の期待に応えることはできないものと考える。さらに、投資家自身は企業内部の情報に直接触れる機会が非常に限られているため、それを身近に見られる立場にある監査法人に期待する部分はやはり大きいと考えられる。

会計関係の不祥事は資本市場の信頼性を低下させる。会計監査の本来の役割は企業の財務諸表に信頼性を付与し、ひいては資本市場の信頼性を高めることである。監査制度上の限界は認めるにしても、投資家の代理人としての立場を今一度理解し、会計監査が有効に機能することを期待したい。

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