経済・ビジネストピックス
農業所得向上を後押しする異業種連携への期待

2013年5月29日

  • コンサルティング・ソリューション第一部 コンサルタント 渡邉 愛

5月17日、安倍首相は成長戦略第二弾の柱として「攻めの農業」の実現を打ち出した。「今後10年間で農業・農村所得を倍増させる」「現在約4,500億円の農林水産物・食品の輸出額を2020年に1兆円規模にする」といった高い数値目標が示され、その実行に向けて対策本部が始動した。
目標数値の妥当性については議論の余地があるが、日本の農業の抱える様々な課題を改善し、生産性や国際競争力を高める必要があることは論を待たない。
上記の目標を達成するために政府が注力するのが①6次産業化と②農地集積である。本稿では農業以外の事業者にも関連の深いこの2点について、現状と今後の方向性を考えてみたい。

①6次産業化
6次産業化とは、従来の農業が属する1次産業の枠を超えて生産者が農産物の生産と加工、流通、サービス等を一体化することで、商品の付加価値を高め、所得増大を目指す取り組みを指す。具体的には、農産物の加工、直売、観光農園、農家民宿、農家レストラン等が含まれる。農林水産省によれば、2011年度の6次産業の市場規模は1兆2,102億円(※1)。取り組みの内訳では、農産物直売所(48%)と農産物の加工(48%)が大半を占める。
6次産業化の推進が叫ばれる背景には、農業・食品関連産業が生み出す付加価値のうち、農業に帰属する割合が低い現状がある。青果物を例にとると、生産者の受取価格は小売価格の約46%で、残りは流通経費である(※2)。従来型の多段階流通に依存せず、小売業者や消費者等へ直接販売できれば、生産者の受取価格が増える。実際、各種の直接販売に取り組む農業経営体の割合は年々増加し、6次産業化の取り組みとして定着しつつある(※3)

 
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(出所)農林水産省資料より大和総研作成

6次産業化が生産性に与える影響については、6次産業化の取り組みが経営体の生産性の向上に寄与するという経時データの分析結果が報告されている(※4)ほか、7割を超える6次産業事業者が所得向上を実感しているというアンケート調査結果もある(※5)。一律にすべての生産者が6次産業化を進めるべきとは言えないが、生産者が2次、3次産業者の視点を備えマーケットイン型の農業に取り組むことは、生産物の付加価値を高めるうえで極めて重要といえる。
「6次産業の市場規模を2020年に10兆円にする」という政策目標に向けて、政府は「農林漁業成長産業化ファンド」(2013年2月に始動した官民ファンド)を活用する方針である。経済合理性で動く民間資金を使うことで成長性のある事業が創出されることが期待されるが、そのためには資金提供のみならず農外企業のもつ経営ノウハウや技術支援等の総合的なサポート体制をいかに構築するかが鍵となろう。

②農地集積
農地の集積に関しては、これまで様々な政策が講じられてきたが、成果は限定的であり、耕作放棄地や遊休農地は増加し続けている。この現状を打開するため、今回農林水産省は農地の仲介を行う新たな組織として「農地中間管理機構(仮)」の導入を目指している。現在、農地売買等を行っている都道府県単位の農業公社に権限を与えて、小規模農家などから土地を借り上げて大規模化を目指す農業法人等に貸し出す計画である。このマッチングを成功させるには、農地の貸し手と借り手をいかに確保するかが課題となろう。
貸し手となる遊休農地や耕作放棄地等の保有者に農地の貸し出しを促すには、土地の転用規制や減反政策など関連する法規制の改変も議論の余地がある。また、借り手として想定される農業生産法人や企業等の事業を後押しする対策も必要だろう。企業の農業参入に関しては、2009年の農地法改正により農地リース方式での参入は原則自由化されたため、この方法での参入が急増した(※6)が、参入可能な区域には制限があり企業が希望する優良農地が利用できない等の課題も残る。また、農地の所有権を取得して農業を行うことのできる農業生産法人については、株式会社からの出資制限が設けられているため(農業関係以外の企業の場合25%以下、農業関連企業の場合50%未満)、「経営権が持てず、事業に注力しづらい」との声も聞かれる。農地の流動化を本格化させるには、これまで実施されていた類似事業(農地保有合理化事業など)の反省点をふまえて、貸し手と借り手双方にインセンティブを与える対策が不可欠といえよう。

耕作放棄地の解消や農地の流動化、意欲的な担い手の育成などの国内の課題はもとより、7月に交渉入りが予定されるTPP(環太平洋経済連携協定)やその他EPA(経済連携協定)により自由貿易化が進む可能性が高いことを鑑みれば、今こそ官民が協力して農業の国際競争力向上に取り組むべきであろう。
企業視点からいえば、ビジネス環境や法規制の変化が見込まれる現在は、自社の強みを農業ビジネスに応用する可能性を検討する好機といえるかもしれない。
企業が取り組む農業ビジネスには、農産物の生産以外にも、生産コスト削減に資する資材開発、特定の加工に適した品種開発、IT経営、流通効率化など、多方面からのアプローチが考えられる。事業を始める際は、まずは企業が本業で培った経営ノウハウや技術、インフラ、商流等を農業に活かして生産現場の課題解決に取り組み、次に地域の意欲的な農業経営者らとの信頼関係を構築しつつ、事業拡大の方向性を見極めるのが実際的といえよう。企業のアプローチにより農業者の課題(潜在的なものも含めて)が解決できれば、結果として農業の生産性向上、収入増加につながるはずである。


(※1)農林水産省「6次産業化総合調査」(平成23年度)による試算。同調査では6次産業化の取り組みを「農業生産関連事業」としている。
(※2)農林水産省「食品流通段階別価格形成調査」(平成22年度)
(※3)農林水産省「6次産業化総合調査」。2011年度には全体の3割を超える農業経営体が直接販売に取り組む。
(※4)「6次産業化が稲作農業経営体の生産性に与える影響について」(空閑信憲、ESRI Discussion Paper Series No.275)。経時データ分析の結果、稲作農家において6次産業化事業費の比率が大きくなるほど生産性の水準・変化の伸びが高くなることが示された。
(※5)「平成24年度 農業の6次産業化等に関する調査」(日本政策金融公庫)
(※6)農林水産省によれば、法改正後、約3年間で1,071法人がリース方式で参入しており、これは改正前(特区制度)の約5倍のペースである。

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