情報技術研究 IT TIME

[2008.10.24] 第39回 「婚姻届がオンライン戸籍手続で可能に!」のその後   
 
小川 創生 [プロフィール]
 
2004年に法務省が「戸籍法施行規則の一部を改正する省令」を施行し、複数の大手IT企業が戸籍手続オンラインシステムのサービスを自治体向けに販売開始した。「自宅のパソコンから電子戸籍証明書の請求や交付、婚姻届などが可能に」「インターネットを使って戸籍の謄抄本や電子戸籍証明書の請求・交付、婚姻届など各種届出が可能になります!」と、各社は揃って婚姻届を例示してシステムを宣伝していた。
しかし、婚姻届は未だオンライン化されていない。婚姻届には戸籍の謄抄本が必要な場合もあるのだが、それに相当する「電子戸籍証明書」が利用されているという話も聞かない。4年前のそれは、空騒ぎであった。
経緯を遡ってみると、行政手続のオンライン化は、2001年に内閣に設置されたIT戦略本部によって推進が始まった。同年の「e-Japan重点計画」において、国民等と行政との間の実質的にすべての行政手続を2003年度までのできる限り早期にインターネット等で行えるようにするという施策を定めた。
しかし2002年までには、戸籍手続を管轄する法務省によって、多くの戸籍手続のオンライン化に困難が伴うという検討結果が出されていた。添付書面を必要とする手続(出生届など)はまず困難とされた。婚姻届については、証人2名と、届出人2名または区市町村との間で、セキュリティ等を確保した上で届出情報をオンライン伝達する必要があり、そのようなシステム構築は現実的ではなく、「すべての当事者(届出人及び承諾権者・証人等を含む。)が同一のパソコンから申請・承諾等をする場合に限る」としていた。(「法務省地方公共団体の行政手続等の電子化推進に関するアクション・プラン」より)
そもそも、届出人2名と証人2名の全員が同一のパソコンに集まるまでの準備も簡便ではない。パソコン、カードリーダーとインターネット接続環境に加えて、4名全員の住基カードとそれに格納する電子証明書を、各自の役所におおむね2日は出向いて準備する必要がある。しかも、夫妻のうち姓が変更した側の電子証明書は無効となり、住基カードにも記載事項変更の手続が必要となる。区市町村間の転出・転入を伴う婚姻の場合は、それによって夫妻の住基カードと電子証明書のすべてが無効となる。
オンライン化をできる限り推進する立場で考えても、比較的容易でそれなりの需要も見込める「電子戸籍証明書」の請求・交付に戸籍手続オンラインシステムの機能を絞り、自治体への導入期限を定めるべきだった。「電子戸籍証明書」は、総務省が管轄している住基ネットの住基カード等と同様に、個人の行政手続のオンライン化における最優先事項だったはずだからである。婚姻届については明らかに割に合わず、中止か少なくとも延期すべきだった。しかし実際は、システムの仕様は膨らみ、費用は増え、時期は遅れ、導入期限が定められていないこともあって、自治体に普及しないまま今に至っている。
象徴的な事例を挙げると、外務省が管轄していた旅券(パスポート)電子申請システムが、費用対効果が見合わないことを理由として2006年に停止された。その要因は複数考えられるが、オンライン申請なのに紙の戸籍の謄抄本を役所から取り寄せて郵送しなければならなかったという不条理さも一因として挙げられるだろう。
2006年にIT戦略本部が発表した「IT新改革戦略」の一節を引用しておく。『5年前、世界のIT革命に乗り遅れていた我が国は、国家の危機感を背景に、IT化を進めること自体を主たる目的に置き、IT投資を積極的に行い、「供給者の視点」において、成果を上げた。その一方で、利用者の満足度という観点では、必ずしも十分な成果を上げていない。』
その「IT新改革戦略」では、2010年度までにオンライン利用率を全体で50%以上とするという目標が掲げられ、重点的に利用を推進する手続が選定された。さらに先月(2008年9月)の「オンライン利用拡大行動計画」では、重点手続分野ごとの個別目標が定められ、また、公的個人認証の使い勝手の向上や、電子証明書による本人確認を必要としている手続の見直し等が盛り込まれている。
当初の取り組み方針から7年経って、ようやくそれなりに合理的な目標設定がなされてきている。ただし、オンライン利用推進の重点手続の中には戸籍の謄抄本が必要なものも若干含まれており、パスポート申請の二の舞にならないか危惧されるところである。
なお、婚姻届はもちろん、オンライン利用推進の重点手続ではない。だいたい、婚姻届を完璧にオンライン化したとして、なんだか味気ないではないか。役所の窓口にその用紙を二人で届け出る行為にいささかの儀式的な意味を見出す人は結構いるのではないか。そうした素朴な心情もまた、「利用者の満足度という観点」から思慮すべきことだと想う。
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