第186回日本経済予測(改訂版)

中国で「バブル」が崩壊すると何が起きるか? ~日本経済は「踊り場」だが「景気後退」は回避される見通し~

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2015年09月08日

  • 調査本部 副理事長 兼 専務取締役 調査本部長 チーフエコノミスト 熊谷 亮丸
  • 金融調査部 主任研究員 長内 智
  • 岡本 佳佑
  • 小林 俊介
  • 経済調査部 シニアエコノミスト 久後 翔太郎
  • 永井 寛之
  • 山口 晃

サマリー

  1. 日本経済は「踊り場」入り:2015年4-6月期GDP二次速報の発表を受けて、経済見通しを改訂した。改訂後の実質GDP予想は2015年度が前年度比+1.0%(前回:同+1.1%)、2016年度が同+1.7%(同:同+1.9%)である。足下の日本経済は「踊り場」に入ったとみられるが、当社のメインシナリオでは、①アベノミクスによる好循環が継続すること、②米国向けを中心に輸出が徐々に持ち直すことなどから、「景気後退」局面入りは回避される見通しだ。
  2. 中国で「バブル」が崩壊すると何が起きるか?:最初に本予測では、中国で「バブル」が崩壊した場合のマグニチュードについて、多面的に検証した。この部分は今回のレポートの目玉となる部分である。当社のメインシナリオでは、中国経済が当面危機的状況に陥る可能性は限定的だと考えている。仮に中国で銀行融資の焦げ付き額が急増した場合でも、将来的に中国経済やグローバルな金融市場が大きく動揺する可能性こそ否定し得ないものの、直ちに中国の財政危機が発生すると考えるのは早計である。ただし、本当に怖いのは、将来的に大規模な資本ストック調整が発生するリスクである。当社のシミュレーションによれば、資本ストック調整が発生した場合、中国の潜在成長率は「最善」でも4%程度まで低下し、実際の経済成長率はゼロ近傍で推移することになる。より一層深刻な「メルトダウン」シナリオでは、中国の潜在成長率は1.6%程度まで低下し、実際の経済成長率は大幅なマイナスが続くことが懸念される。なお、当社では、中国の「人民元切り下げ」は「焼け石に水」だと考えている。
  3. 日本経済のメインシナリオ:「踊り場」を脱し緩やかな景気拡大局面へ:今後の日本経済を巡る最大の焦点は、「踊り場」でとどまるのか、あるいは「景気後退」に陥るのか、という点だ。GDP統計の需要項目別動向から判断する限りでは、日本経済が「踊り場」ではなく「景気後退」へと突入するリスクが存在する。ただし、日本経済の「踊り場」と「景気後退」を分ける3つのメルクマール(判断基準)に照らせば、日本経済は「景気後退」を回避し緩やかな景気拡大局面へと向かう見通しである。
  4. 米国経済は大丈夫か?:米国経済は、企業部門の弱さを家計部門が補う展開が予想される。当社では、米国経済は「踊り場」入りを回避し、堅調な回復軌道に復すると予想している。景気の「成熟化」という観点からも、米国経済は息の長い景気拡大が見込まれる状況にある。
  5. 日本経済のリスク要因:中国経済の循環的側面を中心に:今後の日本経済のリスク要因としては、①中国経済の下振れ、②米国の出口戦略に伴う新興国市場の動揺、③地政学的リスクを背景とする世界的な株安、④ユーロ圏経済の悪化、⑤財政規律喪失への懸念を背景とする将来的な「トリプル安(債券安・円安・株安)」の進行、の5点に留意が必要である。本予測では、これらのリスクの中で、現在、金融市場関係者にとって最大の関心事である、中国経済の循環的側面に焦点を当てて、掘り下げた分析を行った。当社は、中国経済の底割れは当面回避されるとみている。中国は純粋な「資本主義」ではないので、少なくとも向こう1~2年程度、いかようにでも問題を先送りすることは可能である。また、中国の個人消費は主として株価ではなく、不動産価格によって規定されるが、足下では不動産価格に底入れの兆しが生じている。さらに、世界経済のドライバーは依然として米国であり、仮に中国経済が少々減速した場合でも、日本経済に与える悪影響は限定的とみられる。
  6. 日銀の金融政策:日銀の追加金融緩和の時期は、2016年春以降にずれ込むと予想している。金融市場では、日銀が追加金融緩和を行わないとの見方も強まっている点には留意が必要となろう。

【主な前提条件】
(1)公共投資は15年度▲2.9%、16年度▲4.1%と想定。17年4月に消費税率を引き上げ。
(2)為替レートは15年度120.9円/㌦、16年度120.0円/㌦とした。
(3)米国実質GDP成長率(暦年)は15年+2.6%、16年+2.9%とした。

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