経済・社会構造分析レポート
同一労働同一賃金の議論に不足するもの

「人」重視の戦略で生産性向上を図るスウェーデンを参考に

2016年4月4日

サマリー

◆1億総活躍社会の実現を掲げる安倍政権では、正規雇用(正規)や非正規雇用(非正規)といった雇用形態の違いによる処遇格差を解消する「同一労働同一賃金」の実現を目指している。雇用者の約4割を占める非正規の賃金上昇を促し、個人消費の活性化など経済の好循環となることが期待されているようだ。

◆ただし、職務や職能、勤務地、勤務時間などを詳細に規定して契約する欧米型の「同一労働同一賃金」をそのまま日本の雇用システムに導入しても馴染みにくく、また、コスト増を意味する非正規の処遇改善は、企業収益を押し下げかねないことから容易に進まない懸念がある。

◆他方、スウェーデンでは「同一労働同一賃金」の原則を徹底しつつも、高い生産性と経済の効率性を実現している。「同一労働同一賃金」を含む労働政策によって国民に能力向上と就労を要求し続ける一方、産業構造の転換や次世代産業の育成についても果敢に取り組むスウェーデンは、企業や産業ではなく、人を重視した戦略を実践することで、国際競争力を高めてきた。そのため、同一労働に従事するパートタイム労働者の賃金は、フルタイム労働者の時間比例分とする同一賃金の仕組みが整っている。

◆労働力人口の減少が問題となりつつある国内では、正規との差が著しい非正規の賃金や待遇の改善が必要とされているが、それ以前に、一度非正規となることで失われがちな職業訓練機会を公的支援で補うほか、人材力の強化を促すような周辺制度の見直しが必要だろう。さらに、経済の新陳代謝を図り産業構造の転換を果敢に進める政治的リーダーシップについても、経済の好循環を目指す上では不可欠と思われる。「人」重視の政策へ転換することで、1億総活躍社会は効果的に機能するのかもしれない。

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