新年度を迎える前の「大人」のICTリテラシー向上推進

パーソナルデータ利活用に関して有意義な議論をするために

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2014年03月12日

サマリー

卒業・進学や人事異動など、3月から4月にかけては、大きく生活が変わる人が出てくる。「1年生になったら」スマートフォン(以下、スマホ)を買ってもらうことになっている中高生も少なくないだろう。


こうした時期に合わせて、内閣府、総務省、経済産業省、内閣官房IT 総合戦略室、警察庁、消費者庁、法務省、文部科学省が連名で「保護者向け普及啓発用リーフレット」を公開した(※1)。リーフレットでは、「お子様が安全に安心してインターネットを利用するために保護者ができること」と題して、子どもがネットを安全に利活用するには保護者の役割が大きいことと、具体的にどうすると良いかを例示している。また、自治体(各都道府県・指定都市の関係部課長など)、教育関係(PTA関連団体など)、警察関係などに向けても、啓発活動について協力依頼を出している。


総務省の「ICT利活用社会における安心・安全等に関する調査研究報告書」(平成23年公表)では、ネット利用の安全性の知識を教えるのは「保護者」という回答が94.9%と一番多く、次いで「通っている学校(72.5%)」、「自分で学ぶ(46.8%)」、「ICT機器/携帯電話/インターネットサービスの企業(43.1%)」などの順になっている(上位3項目の複数選択)。また、「親の情報活用能力が高いほど、子どもの情報活用能力も高くなる傾向」や、「親が安全性を理解している場合ほど、その子どもの安全性を理解する割合が高まる傾向」が見て取れるとも分析している。さらに、内閣府の「平成25年度青少年のインターネット利用環境実態調査調査結果(速報)」(平成26年公表)でも、例えば高校生の保護者で「学んだことがある(啓発経験有り)」の場合は、子どもの携帯電話やスマホにおけるフィルタリングなどの利用率が51.5%であるのに対して、「特に学んだことはない(啓発経験無し)」の場合は32.3%となっている(図表1)。小中いずれの学校種でも同様に、フィルタリングについて学んだことがある保護者の子どもの方が利用率が高くなっており、親のICTリテラシーが子どもに影響する可能性があるといえよう。


一方で、前述の総務省の報告書では、子どもに知識を与えるために「親が学ぶ機会が増えてほしい」という回答が6割を超えており、親自身もICTリテラシー不足であることを自覚していると考えられる。

図表1 携帯電話・スマートフォンにおけるフィルタリング等利用率【啓発経験の有無別】

どのようなものであれ技術・サービスを使う時には、被害者にならないための安全な利用方法と、メリットを享受できる活用方法の両面のスキルが必要である。筆者の知人は、ネット上でのお金のやりとりは怖いからとネットバンキングは利用せず、毎月の給料日に混んでいるATMに並んでいる。こうした人はネット上の被害者にはならないかもしれないが、並ぶ時間、手数料、ATMに行くコストを余分に払っているともいえる。また、近隣にスーパーなどがなく運転もできない高齢者などの「買い物弱者」や、情報がネット上にしかないため、必要な情報にアクセスできない・申請を行えないなどの「デジタル・ディバイド(※2)」など、ICTが活用できないことに起因する格差は、今後、さらに広がるだろう。


平成25年に閣議決定された「世界最先端IT国家創造宣言」では日本が目指すべき姿を、「革新的な新産業・新サービスの創出及び全産業の成長を促進」し、「健康で安心して快適に生活できる、世界一安全で災害に強い社会」と「公共サービスがワンストップで誰でもどこでもいつでも受けられる社会」とした。こうした社会の実現には、番号制度(マイナンバー)における個人番号の民間利用や、パーソナルデータの活用が不可欠である。ただし、守るべきものが守られなくては「安心して生活」できないし、「炎上」や「訴訟」などを恐れて「革新的な新産業・新サービスの創出」に踏み出すのを躊躇する企業も出てくるだろう(※3)


この3月1日に、情報通信技術(IT)総合戦略室の中に「パーソナルデータ関連制度担当室」が設置された(※4)。ここで個人情報保護法改正案の大綱をまとめ、パブリックコメントを実施する予定とされている(※5)。新聞やテレビなどの従来メディアでもSNSなどの新しいメディアでも、パーソナルデータの扱いについて問題視された事例の本質的な課題を指摘できていなかったり、新サービスの効果を強調するだけでリスクに触れなかったりといった記事が散見される。親世代のICTリテラシーに懸念がある中で、メディアからのこのような情報が浸透してしまうと、リスクに対して認識が不足したり、反対にリスクを恐れる余りに新しいものは全否定したりするなど、有意義な議論ができない恐れもある。大人のICTリテラシーが子どもに影響する可能性も考え合わせると、大人のICTリテラシー向上は待ったなしといえよう。


(※1)内閣府 平成26年2月28日 「青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備のための保護者に対する重点的な啓発活動(春のあんしんネット・新学期一斉行動)について(依頼)
(※2)「インターネットやパソコン等の情報通信技術を利用できる者と利用できない者との間に生じる格差」のことで、ネットワーク環境などの国内地域格差を示す「地域間デジタル・ディバイド」と国際間格差を示す「国際間デジタル・ディバイド」、身体的・社会的条件(性別、年齢、学歴の有無等)の相違に伴う格差を示す「個人間・集団間デジタル・ディバイド」などがある(総務省 平成23年版「情報通信白書」より)。
(※3)「世界最先端IT国家創造宣言」では、「民間の力を最大限引き出すような規制・制度改革等の環境整備を進めることも必要」としているが、必ずしも規制緩和することを意味するものではないと考えられる。石油危機を契機とした省エネに関する規制強化は、日本の環境技術を進展させ、快適性と省エネ性の両立を果たした。
(※4)内閣官房 報道発表 平成26年3月1日 「パーソナルデータ関連制度担当室の設置について
(※5)ITPro 2014/02/28 「個人情報保護法改正へ、『パーソナルデータ関連制度担当室』が発足

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