世界経済・政治研究所
中国社会科学院「何が経済周期に影響を及ぼすのか」

2015年8月25日

  • 張宇燕

経済成長について議論する際には、経済周期に触れる必要があり、周期という現象には規則性がある。筆者が考える経済成長の周期に影響を与える一つ目の要素は、長期的要素である「人口」である。人口は経済に関心を持つ我々にとって非常に重要な変数であり、最近の世界人口には大きな変化が起こっている。中国はすでに60歳以上の人口が総人口の15%を占め、国連の定義ではこの比率が10%を超えると高齢化社会と見なされる。日本は65歳以上の人口が25%を占めており、大人用おむつの販売量が乳幼児用おむつより多いことから、高齢化がかなり進んでいることが分かる。米国は50歳以上の人口が総人口の1/3を占め、毎日1万人が退職年金を受け取る列に新たに加わっている。ロシアの状況はさらに深刻で、ある人がロシアの人口について冗談として言うには、2,000万人の男性労働可能人口のうち、100万人が兵役に就き、100万人が服役しており、500万人が失業し、400万人がアルコール依存症で、100万人が麻薬中毒であることから、今後の発展に大きな問題となるとしている。

人口に関する統計を見れば、全体の潜在的な経済成長の可能性、教育水準、人的資源の蓄積などを推し測ることができる。これは我々が注目する長期成長の一つ目の要素である。特に高齢化を強調するのは、高齢化によってもたらされる一連の問題が社会保障、貯蓄、消費などに影響を与えるからである。

二つ目の要素は、技術の進歩である。技術の進歩は労働生産性の向上と直接関係があるが、世界の労働生産性の成長速度は楽観できない状況にある。1999年~2006年、全世界の労働生産性成長率は2.6%であったが、昨年はわずか2.1%の伸びであった。さらに正確に表現すると、技術進歩を判断する全要素生産性(TFP)は、過去数年ほぼゼロ成長であった。米国は最もイノベーション力がある国と考えられているが、2014年の全要素生産性の伸び率が-0.2%であったことは非常に心配である。

未来を展望する際、どこでイノベーションが毎日生起するかを注目するべきだが、一方で重要なイノベーションはまだ産まれていない。よく言われているいくつかの重要な発明、たとえば3Dプリンターは、本質からすると労働生産性の向上に反するものである。なぜなら、労働生産性を上げるには、大規模な生産が必要であるが、3Dプリンターはカスタマイズされた生産にとどまるからである。さらに、ビッグデータについては、経済成長にどのような新たな機会をもたらすのであろうか?医療や医薬品の分野においてはすでに見えない壁にぶつかっている。管を挿入してさらに20~30年生命を維持することに何の意義があるのだろうか?老年性認知症となって長生きはしても、精神面の問題は解決できずに出費だけが膨らんでいく。ハーバード大学が先日発表したレポートによると、世界では毎年数兆米ドルの支出がこれらの人の生活を支えている。科学技術の発展を見ると、経済成長に対して全面的に影響を与えるような大きな技術の進歩(技術突破)が一つもない。

三つ目の要素は生産要素の流動である。技術の進歩がなくても労働生産性を向上させることはできる。比較優位の考え方は分業と交換であり、同様に生産力の向上をもたらすことも可能であると知られている。しかしながら、世界貿易の動きを見ると、1948年から1973年の第一次石油危機以前の世界貿易の伸び率は経済成長率の1.5倍であり、貿易の成長スピードは経済より速かった。第一次石油危機から1990年までの期間は、貿易の伸び率と経済成長率は同じであった。真の変化は、1990年代初めから2007年までの17年間で、世界貿易の伸び率は経済成長率の2~3倍となり、世界経済全体の繁栄をもたらした。なぜ貿易はハイスピードで成長したのだろうか?なぜなら、冷戦終結後、世界は初めて市場が一体化し、特に中国がWTOに加盟して、世界貿易の分業やバリューチェーン化がこの時期に確立したからだ。こうした過去十数年の変化を再び発生させることは不可能であり、生産要素の流動を通じて経済成長を求める余地は大きくない。

四つ目の要素は国際規則と国際制度である。人口、技術、製品、サービスの動きは全てグローバルな規則と制度の制限を受ける。WTOに対する各国の見方は比較的消極的であり、現在の世界貿易は分裂化している。TPPやTTIPなど各種の地域間貿易交渉が行われているものの、グローバルな貿易交渉の進展は緩慢なままである。その理由は、各国が自国の利益を考慮して排他的な貿易を企図するからである。貿易の利益のチャンスがますます小さくなっている世界で、皆が自国の利益を維持することをさらに求めている。米国議会では、中国に対抗した貿易促進権限(TPA、政府が一定の条件を充たす限り、米国政府と貿易交渉国が結んだ通商合意について、議会はその合意に対し一括して賛成か反対かを決定し、個別内容の修正を審議できない。)法案が通過した。すでに多くの国が国際規則の確立を競争相手を上回るための手段としている。筆者はこのような現象を制度の非中立と呼んでいる。ここで言う国際制度や国際規則はその実、異なる国や異なる人に対し、異なる事情を意味している。ある意味では、国家間の競争は規則によって決まる。なぜなら、規則がなければ、実力は全て無になるのである。

例を挙げてみよう。100m走でボルトに敵うものがいるだろうか?――いない。なぜなら彼は天才だからである。ただし、彼は走るのが速いというのは現在の規則のもとでの話である。もし少しルールを変えて、50m走ったら止まって数学の問いに答え、正解したらまた走る、というルールにすれば、中国にもボルトより速く走れる人がたくさんいるだろう。この極端な例は現在の世界では規則が勝負を決めることを説明している。これが多くの国家が規則について議論を激しく戦わせている原因である。皆、規則によって自国の利益を保護し拡大したいと考えている。これは、我々が未来の世界経済の発展を考えていく上で必ず注目しなければならない現象である。

この他、世界経済について議論する時、各国の国内政治が国際経済、国家経済に与える影響を無視することはできない。米国の経済学者であるジェフリー・サックス氏は、米国の対外経済関係は米国の権力回廊の四つの主体の制約を受けており、それらが米国の経済政策と経済の命脈を制御しているという。四つの主体とは、軍産複合体、医薬複合体、石油複合体、ウォール街とワシントンの複合体である。米国の政策に影響を与えるVIPは7,000人おり、これら国会議員、州知事、高級将校らの考え方に注目しなければならない。

中国の立場で世界経済を展望する場合も、同様に各国の国内政治をおろそかに扱うことはできない。たとえば、中国がアジアインフラ投資銀行(AIIB)を設立することに米国は一貫して反対してきた。米国政府は同意することができないのである。たとえオバマ政権が同意しても、議会が資金を出すことを容認しない。それでは初めから同意しない方がましということである。このことは、国内政治が経済に与える影響を説明していると言えよう。

世界経済の長期成長について考える際、人口、技術、生産要素の世界的流動、グローバル・ガバナンスと国内の政治環境について注視する必要がある。最後に関係するのは統計である。統計指標はこれまでずっとGDP成長率であり、経済周期の核心は成長率のみであった。だが長期成長について考えるほど、筆者はこの成長率の指標に問題があると感じている。現在、携帯電話がたとえば2,000人民元として、今日2,000元で購入した携帯電話と5年前に2,000元で購入した携帯電話は全く違うモノであるが、GDP統計では同じとして取り扱われる。これは公正なのだろうか?GDP統計は販売額によって計算されるが、実際には同一額でも生活の質には大きな変化が生じている。ゆえに、新しい、生活の質の向上がより反映される統計指標を用いることが世界経済にとって今後必要となるだろう。

(2015年7月発表)

※掲載レポートは中国語原本レポートの和訳です。

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