世界経済・政治研究所
中国社会科学院「原油価格は長期的に低水準を維持する」

2015年4月10日

  • 張斌
  • 顧弦
  • 陳博

要約:今回の原油価格の下落は長期的な供給面での改善が主な原因である。1970年代以来の6度の原油価格下落の歴史を振り返ると、長期的に供給が改善されれば原油価格の上昇は長期間抑制される。2015年の原油価格は1バレル当たり50~65米ドル、今後5~10年間の価格は限界費用に近い低水準を維持していくと予想される。地政学的衝突は今後の原油価格反発の引き金となり得るものの、中長期的には原油価格の低位安定傾向は変わらないと考えられる。原油価格の下落は中国及び世界経済の成長に有益であり、2015年の中国経済には0.6~0.9%の成長率引き上げ要因、世界経済には0.3~0.7%の成長率引き上げ要因となろう。金融政策は、原油価格の低下がもたらすデフレ圧力に対して過度に反応すべきではない。原油価格の下落は、国内の債務増加圧力の鈍化や財政政策及び外貨準備管理政策に改革の好機を与えている。中国は積極的に多国間、二国間の政治協議に参加し、産油国に発生する可能性がある地政学的衝突への圧力を緩和する援助を行うべきである。

一.  長期的な供給面での改善が今回の原油価格の下落を招いた

原油価格の大幅な変動は、主に四つの力によって起こる。長期の供給面によるショック(新たな油田の採掘、OPECの石油供給戦略の変化、代替エネルギーの開発など)、短期の供給面によるショック(地政学的衝突、原油産出地域での戦争)、長期の需要面によるショック(世界経済の持続的高成長、単位生産あたりのエネルギー消費の変化)、短期の需要面によるショック(金融市場の混乱)である。

1970年から現在に至るまで、原油価格は6度の大幅な下落を経てきた。その原因を見ると、1981年~1986年の長期の供給面によるショック(新たな油田の採掘、石油供給戦略の変化)、1990年~1993年の短期の供給面によるショック(湾岸戦争)、1996~1997年の短期の需要面によるショック(アジア通貨危機)、2001年の短期の需要面によるショック(米国ITバブルの崩壊)、2007年~2009年の短期の需要面によるショック(世界金融危機)、そして2014年下半期からの下落である。

長期の供給面によるショックは原油価格の上昇を長期間抑制する。1980年代中頃から2000年代初めにかけて、長期の供給面によるショックにより、原油価格は30米ドル以内の低水準を維持してきた。途中、湾岸戦争、アジア通貨危機、ITバブル崩壊など短期的ショックによる原油価格の大幅な変動があったものの、その影響は1~2年で収まり、原油価格の低位定着という長期的構造が変わることはなかった。しかし、2000年以降の世界経済の高成長という長期の需要面でのショックにより一転し、原油価格は1バレル当たり100米ドルを超える高い水準まで上がり続けた。

2014年下半期以来の原油価格の大幅な下落の原因は複雑である。主な原因は1980年代初め~中期と似ており、長期の供給面でのショックによるものである。それは、主に米国を代表とする石油供給量の増加とOPECの石油供給戦略の変化に起因している。2008年以来、米国の石油供給は持続的に大幅な増加となっている。その原因はここ数年のシェールオイル革命である。(2014年米国のシェールオイル生産量は1日当たり90万バレルで、全世界の1日当たり産出量9000万バレルの1%に相当する。)米国の石油産出量は2013年以来、サウジアラビアを上回っている。米国の石油輸入は2008年から減り始め、この間の減少幅は約25%、一方輸出は約66%増加した。このほかにも、米国のシェールガス開発は天然ガスなどの代替エネルギーの持続的増産を促した。米国エネルギー省は、今後2年以内に米国は天然ガスの純輸出国となり、2040年には天然ガス総生産量は2014年より約60%増加し、そのおよそ半分がシェールガスになると予測している。

OPECの石油政策は価格の安定から市場シェアの安定へと転換した。サウジアラビアはこれまで、生産量を調整することで原油価格を安定させる重要な役割を演じてきた。だが2014年下半期の原油価格暴落という状況下で、サウジアラビアは石油政策を価格の安定から市場シェアの安定へと転換し、原油価格の暴落にもかかわらず、中東地域では原油の減産が行われなかったことから、2014年は世界の原油産出量が過去34年間で最高水準に達した。今回のサウジアラビアの石油政策の転換は1980年代中期に類似している。

長期的な供給面のショックを除き、今回の原油価格の下落の要因には、世界経済の成長の衰え、リビアとイランにおける原油生産能力の回復、米ドル上昇などによる評価要素の影響がある。中でも、世界経済の成長の鈍化による原油価格の下落への影響が比較的に突出して大きく、我々の試算では原油価格の下落に対する需要低下の世界経済の寄与は約30%である(※1)

長期の供給面でのショックにより、原油価格に新たな常態レベルが現れてくる。我々の予想では、2015年の原油価格は1バレル当たり50-65米ドルを維持し、今後5~10年間の原油価格は低水準で推移すると考えられる。短期的には、米国の石油供給量の増加には大きな変動はなく、原油価格の動向はOPECが減産するかどうかで決まる。現在の中東における地政学的情勢に基づくと、各国間の駆け引きは、まるで「囚人のジレンマ」状態であり、率先して減産した側の損失が最も大きくなる。市場におけるシェア争奪のため、原油価格が限界費用より高いのであれば、サウジアラビアが積極的に減産することはない。よって、この1年間の原油価格の平均は1バレル当たり50-65米ドル前後になると予測している。

中長期的にみると、限りなく限界費用に近い金額が均衡価格となる原油低価格時代が将来出現する。原油や天然ガスの各産出地域の採掘コストから見て、依然として中東地域が優勢であることは明らかであるが、シェールオイル・ガスの開発技術が進歩し、広まるにつれて、今後米国の産油コストが更に下がる可能性がある(※2)。各原油採掘業者のキャッシュフローの状況やシェールガス採掘業者が巨大な事前投資の回収に努めざるを得ないことを考慮すると、採掘業者は採算ぎりぎりのコストよりわずかに高い原油価格でも許容するようになるだろう。そこで、我々は原油価格の最低ラインを1バレル当たり約45米ドルとし、今後5~10年間の原油価格の平均は低水準を維持していくと予想する。この予測は今後5~10年間の長期的な需要、つまり世界経済の成長にあまり好転が見られないことが前提となっている。

地政学的リスクは原油価格の上昇を招く可能性があるが、中長期的に低価格で安定との構造は変わらない。原油価格の急激な下落は産油国に大きな衝撃を与えた。多くの産油国の財政赤字は大幅に拡大し、政府は巨大なプレッシャーに直面するだろう。このことは地政学的衝突を発生させる火種となっている。これまでの経験から、地政学的リスクの悪化は確実に原油価格の上昇をもたらす。影響は短くて3~6ヶ月、長くて2~3年続くが、最終的に原油価格は長期的な需給関係により決定される低価格の均衡水準に戻っていくはずである。

二. 原油価格の暴落がマクロ経済に与える影響

石油の純輸入国にとり、輸入する原油の価格が下がることはマクロ経済に対して直接、間接の影響を生じさせる(※3)。直接的な影響としては、原油価格の下落は、生産コストを減少させ、短期的に生産要素投入量を増加させ、生産高の増加と一般物価水準の低下をもたらす(総供給曲線が右側へシフトする)。間接的な影響は、生産要素投入量の増加と価格水準の低下が中央銀行の金融政策に変化を促し、生産高と価格水準に二度目の変化をもたらす(総需要曲線が右側へシフトする)。原油価格の変化が石油輸入国のマクロ経済に与える影響は、一国の単位生産当たりのエネルギー消費量、市場構造、金融政策の調整の幅の違いなどにより大きく異なる。

IMF(国際通貨基金)の研究によると、今回の原油価格の下落は2015年の世界のGDP成長率を0.3%~0.7%、2016年のそれを0.4%~0.8%引き上げるとしている。同時に原油価格の大幅な下落は石油の純輸入国と純輸出国間の富の再分配をもたらす。石油の純輸入国は明らかに原油安の恩恵を受ける。中国の2015年のGDP成長率は約0.4%~0.7%、2016年は約0.5%~0.9%上昇し、米国のGDP成長率は、2015年は約0.2%~0.5%、2016年は約0.3%~0.6%上昇すると見込まれている。一方、石油純輸出国、特に中東や北アフリカなどの地域では財政困難に陥る可能性がある。

我々は構造多変量自己回帰(SVAR)モデルを用いて、原油価格の変化が中国の主要なマクロ経済の変数に対する影響のメカニズムと結果について研究を行った。主な結論は次のとおりである。①原油価格の下落は工業付加価値、投資、GDP成長率を高め、インフレを抑制する。原油価格が10米ドル下がると中国の工業付加価値が0.5%ポイント、GDP成長率が0.2~0.3%ポイント上昇し、CPIを0.1%ポイント押し下げる。②原油価格の変動のマクロ経済への影響は、その大部分が金融当局の政策変化に左右される。もし原油価格の下落によるインフレ水準の低下が金融当局による緩和的な金融政策を促せば、工業付加価値やGDP成長率に与える刺激は更に大きく、影響する時間も更に長くなる。反対に、金融当局が原油価格の変化に反応を示さないのであれば、主要なマクロ経済変数に対する影響は半年後には次第に減衰していくであろう。

三. 原油価格暴落後のチャンスと政策対応

原油価格の下落は2015年の経済成長に新たな活力をもたらし、成長の下振れリスクを減らし、国内の債務増加圧力を緩和させる余地をもたらした。更に、工業利益や投資の増加、消費者の実質所得を増やし、GDP成長率の増加にも寄与している。金融政策面では、金融緩和を通じて経済成長を支えるプレッシャーが減り、これまでの過度に累積した債務の解消と債務レバレッジを下げる時機を与えた。

中国はエネルギー消費大国、石油純輸入国として、原油価格の下落によってエネルギー消費の節約を怠ることはできず、代替エネルギーの開発を遅らせることもできない。財政政策面では、エネルギー消費に対する補助金を減らし、石油消費に対する徴税を増やすことで、得られた税収を中・低所得者層の補助や改革コストの支払いに使うことが可能である。また、多くの国民が石油関連製品への徴税が増加するのではと懐疑的になることを打ち消すため、石油税収の増加に対応する税の減免、あるいはその他の財政上の施策を明確に公表すべきである。

強い米ドルと原油安の組み合わせは外貨準備管理の改革に最良の機会をもたらしている。中国の外貨準備資産の実質購買力(※4)には二つの鍵となる決定要素がある。一つは米ドルの為替水準、もう一つは原油価格である。強い米ドルと原油安の背景のもと、米ドルの実質購買力は高い位置にある。このことは外貨準備改革にとって得難い機会となっている。今後数年はこの機会を捉えて外貨準備資産の管理構造を多元化する改革を推進し、制度と市場の力を借りて外貨準備資産の実質購買力の価値を維持し、高めていくべきである。

多国間、二国間の政治協議に積極的に参加し、産油国の地政学的リスクの緩和への援助をする。将来原油価格が大きく反発する場合の主な原因は、産油国における地政学的衝突であり、原油価格が大幅に上がり続ける場合の主な原因は、世界経済が再び高成長の道を歩むことである。後者の可能性は当面排除することができるため、重点的に考慮すべきなのは、地政学的衝突のリスクである。産油国の財政赤字圧力の急激な増大に伴い、産油国における国内政治の安定維持は困難に直面しており、地政学的衝突のリスクが高まっている。中国は重要な利害関係者として、一方では関連する政治協議活動に積極的に参加して産油国の国内政治の安定を維持させるとともに、他方では変動がもたらすチャンスを掴まなければならない。

(※1)1980年~2013年の回帰分析の結果では、供給と需要の変化が石油の限界価格に与える影響度を比較するとおよそ4:5となり、これに基づいて試算した結果、2014年の石油の供給と需要の変化によるが、今回の原油暴落に対する寄与はそれぞれ約70%と30%である。関連の研究では、Arezki氏とBlanchard氏の試算(2014)によると、2014年下半期の原油価格暴落に対し供給要素と需要要素の寄与はそれぞれ60%と40%である。
(※2)米国のシェールオイルは産出地域ごとにコストが異なり、現在一部のシェールオイル採掘業者の生産コストは1バレル当たり50米ドル以下まで下がってきている。
(※3)原油価格の変化がマクロ経済に与える影響の詳細なメカニズムについての考察は、「オイルショックと中国のマクロ経済:メカニズム、影響、対策」(『管理世界』2010年第11号、張斌、徐建煒)を参照。
(※4)外貨準備の実質購買力についての研究は、「中国の外貨準備の名目と実質収益率」(張斌、王勛、華秀萍『経済研究』2010年第10号)を参照。

(2015年2月発表)

※掲載レポートは中国語原本レポートの和訳です。

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