世界経済・政治研究所
中国社会科学院「全面的な預金準備率の引き下げの確率が高まってきている」

2014年11月28日

  • 張明

2014年第3四半期の中国のGDPの前年同期比の伸び率はわずかに7.3%であった。純輸出が事実上、中国経済の救世主となったのである。もし貿易黒字の急速な伸びが経済成長の三分の一を占めるほどに貢献していなかったら、第3四半期のGDPの伸び率はさらに低かったであろう。個人の収入の伸びが低下している影響を受け、目先の消費は伸び悩んでいる。国内外の需要が縮小して製造業の生産能力がいっそう過剰となり、利潤獲得の余地がなくなり、製造業の投資の伸びが落ち込んでいる。不動産市場は二線、三線都市(訳者注:民間メディアによる都市の区分け。明確な評定基準はなく、都市の規模や経済状態などさまざまな指標によって決定されている。一線都市は北京、上海、広州等。二線都市は蘇州、太原、温州等。三線都市は保定、蘭州、九江等。)における過度の供給に苦しみ、在庫調整のプレッシャーは現在の不動産市場の調整がすぐには収束しないことを意味しており、不動産投資は依然として低迷状態を続けるであろう。地方政府の債務が急速に増加することによってもたらされるリスクは、今後インフラ投資の拡大余地を狭めると考えられる。第3四半期の輸出が再び増加したのは、米国経済の急速な回復による外部需要の伸びと、上半期の人民元の下落が定着した効果と、裁定取引が再び活発になってきたことが原因である。つまり、今後も輸出の伸びが継続して改善していくことを期待するのは難しいと言える。このような分析が意味しているのは、国内経済の自発的な成長に頼るだけでは2014年の成長目標の達成は難しいことから、中国政府が今後、半年以内にさらなる積極的なマクロ経済政策を実施する確率が高いということである。

財政政策の面では、都市内部のインフラ投資が進み、バラック地区の整理と保障性住宅の建設が加速し、零細企業の所得税減免やサービス業の営業税の増値税(訳者注:日本の消費税に相当)への変更もより推進される可能性がある。しかし、財政赤字の制限や経済の減速による財政収入の低下により、財政政策の力は限られたものとなる。短期間で成長目標を実現するには、金融政策のさらなる緩和が期待される。

今年に入ってからの中央銀行の金融政策は一部の緩和に限定されている。相次いで行われた預金準備率の一部の引き下げや、国家開発銀行に対する1兆元の再融資や、近いうちに行われる中央銀行のリバース・レポ金利の引き下げなど、これら金融政策による操作は過去の「大量の粗放灌漑」から「散水灌漑」や「点滴灌漑」へと大勢が変化していることの表れである。中央銀行が部分的な緩和を実施するのは、成長目標の実現を試みていることもあるが、2008-2009年に行った全面的緩和の轍を踏むことを避けるためでもある。つまり、部分的な緩和は、成長目標の維持と構造調整を行っていく上での困難な状況を表している。

しかしながら、これまでのところ部分的緩和による効果ははっきりとは出ていないようである。中小企業の資金調達の困難さは高いままで、実質的な改善に至っていない。実体経済の伸びと社会融資総額の伸びの乖離もまだ改善されていない。国民の消費と企業投資は弱い状態が依然続いている。効果がはっきりしていないこと以外に、部分的緩和という金融政策の運営過程が不透明であること、新たな資源配分の歪みや不正の余地を生んでいるなどの問題がある。マクロ経済のさらなる落ち込みは、中央銀行が直面するトップダウンの成長維持のプレッシャーをより上昇させ、金融政策が部分的緩和から全面的緩和へと転換する確率がまさに高まってきている。

ここで説明しなければならないのは、筆者が指している全面的緩和とは、一回あるいは数回の預金準備率の引き下げや利下げを行うことであり、2008年末の中央銀行と中国銀行業監督管理委員会が銀行への貸出総量規制を解除したことで発生した信用貸付の急増と同じに扱うことはできない。筆者は一回あるいは数回の預金準備率の引き下げや利下げを恐れてはならないと考えている。現在進められている全面的緩和は、将来経済が急激に落ち込んだ際に実施を迫られるさらに大きな規模の全面的緩和を防ぐためである。言葉を換えて言えば、短期の痛みで以て長期の痛みを避けるのである。

現在、中国経済には全面的な預金準備率の引き下げや利下げを受け入れ可能な基礎が備わってきている。第一に、9月のCPIは前年同期比でわずか1.6%の伸びにとどまり、PPIの前年同期比の伸びはこの3年ずっとデフレ状況に置かれている。このことは現在の経済成長率はすでに潜在成長率より低くなっており、金融緩和政策によってインフレ圧力が増加することはないことを示している。第二に、9月の70の大中都市の住宅価格の前月比は全て下落しており、不動産市場は巨大な在庫調整の圧力に面している。これは金融緩和策の採用も不動産バブルを悪化させないと考える。第三に、製造業部門はすでに生産能力過剰に陥り、地方政府は融資プラットホーム(地方政府が傘下に置く投資会社)と債務負担を痛み分けしようとしている。このため、金融緩和策が過剰投資という構造的な問題にさらなる悪化をもたらすことはないとみられる。第四に、もし金融政策の緩和を行わなければ、マクロ経済の落ち込みにより企業の債務負担が増すことになる。つまり、一定程度の範囲で金融緩和策を行えば企業の負債比率を下げる目標は実現可能となるが、行わない場合は負債比率は増加するであろう。

それでは、中央銀行の戦略として、いったい預金準備率を引き下げるのか、それとも利下げを行うべきなのであろうか?筆者は預金準備率の引き下げと利下げにはそれぞれメリットがあるものの、現在の国内外の状況を考慮すると、預金準備率を引き下げる確率の方が利下げよりもはるかに高いと考えている。

現在、中国の大手金融機関の法定預金準備率はいまだに20%という相当高い水準にある。中央銀行が預金準備率を引き上げてきたのは、海外からの短期資本の流入がもたらす国内に滞留する流動性圧力を相殺するためであった。これは、当時周小川総裁が主張していた資本流入の貯水池理論に対応したものである。今後、海外からの短期資本流入が減速し、反対に流出へと転じていけば、法定預金準備率の引き下げを通して国内市場における流動性を増強していくのは非常に自然な選択である。中央銀行が商業銀行の法定預金準備率を今後も20%で維持することは不可能であろう。

預金準備率の引き下げには他にも理由がある。それは、中国政府は近いうちに全国的な預金保険機構の設置を進めていくからである。預金保険機構が順調に運営されるには、商業銀行が納める預金保険料に頼らなければならない。商業銀行は、20%の法定預金準備率が政府の暗黙のうちの預金保護措置ではないのか、と弁明するであろう。商業銀行に預金保険料を支払わせるには、中央銀行は徐々に法定預金準備率を下げるべきである。そうでなければ、商業銀行の負担(もしくは商業銀行が利ざや増を通して預金者に移す負担)が重すぎる。

利下げの良いところは、基準利率が下がれば基準利率に連動して決定される最終貸付利率が相応に引き下げられることから、企業の借入コストが下がっていくことである。現在の状況で利下げの最大の問題は海外にある。FRBがQE3にともなう資産購入を終了させ、来年利上げを行うと、海外の金利水準が顕著に上昇し、中国と海外との利ざやが小さくなる。もし中央銀行が基準利率を引き下げれば、利ざやはさらに縮小し、国内の短期資本の海外への流出及び人民元下落の圧力が高まる可能性がある。一旦国内の短期資本が大量に流出する状況となれば、中央銀行は預金準備率を引き下げて対応するほかなくなる。つまり、特定の状況下では、利下げは最終的に預金準備率の引き下げにつながるであろう。

要約すると、第3四半期のマクロ経済データは中央銀行の金融緩和政策採用の圧力を増すことになった。これまでの部分的な金融緩和の効果はわずかで、中央銀行は今年年末か来年上半期には全面的な預金準備率の引き下げか利下げを行うであろう。現在、経済のファンダメンタルズの面では、預金準備率の引き下げや利下げといった緩和策の副作用も最小化される状況にある。将来を展望すると、預金準備率の引き下げの可能性が利下げ策よりも高くなっている。筆者は来年6月末以前に1-2回の預金準備率の引き下げが行われると予想している。もちろん、もし経済の落ち込みが予想を超えれば、引き下げの幅はさらに拡大されるだろう。

(訳者注:中国人民銀行(中央銀行)は2014年11月21日に利下げを発表した。)

(2014年11月発表)


※掲載レポートは中国語原本レポートの和訳です。

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