金融研究所
中国社会科学院「人民元のSDR(特別引出権)構成通貨入りによる様々な効用」

2016年2月29日

  • 王国剛

2015年11月30日、国際通貨基金(IMF)は人民元を特別引出権(SDR)構成通貨に採用(以下、人民元のSDR構成通貨入り)し、2016年10月1日から実施することを決定した。人民元が採用されると、SDR は米ドル(配分比率41.73%)、ユーロ(30.93%)、人民元(10.92%)、日本円(8.33%)、英ポンド(8.09%)の5種類の通貨によって構成される。これは中国経済のグローバル化の進展の中でも記念碑的意義を持つ事柄であるだけでなく、国際通貨体制改革の歩みの中でも実質的な意義を持つ重大事項でもある。また、中国経済のグローバル化の進展、世界経済のさらなる発展、IMFの機能強化の全てにとってメリットがある「ウィンウィン」の良好な未来を示している。

国際通貨体制改革の新しい一歩を踏み出した

国際経済と国際金融の分野では、国際通貨の選択権は関係する国や地域の利益に直接関係してくることから、極めて重要である。いわゆる国際通貨の選択権とは、国際貿易、国際金融、その他国際経済活動における主要通貨(基軸通貨)として、少なくとも二種以上が必要であり、国際取引に携わる国や地域が各々の利益を基に自由に選択している。

18世紀以来の国際通貨体制の変化から見ると、貴金属による複本位制度のもとでは、取引各国は金や銀を取引通貨に選択することが可能であった。金本位制(金為替本位制を含む)では、取引国は金を取引通貨とすることができ、金券(法的に金と兌換可能な紙幣)を選択することも可能であった。英ポンドが国際通貨であった時期は、1英ポンド紙幣に対応する金の法定重量があった。ブレトン・ウッズ体制では35米ドルを金1オンスに交換することに決め、実際に取引各国の通貨の選択権とされた。国際市場における取引秩序の安定を維持する上で、二種以上の通貨が選択可能な条件下では、取引各国は自己権益を守るために有利な国際通貨を選択して取引を展開する傾向があった。そうした状態が続くと、通貨価値が安定しない(甚だしい場合は絶えず下落する)国際通貨は、通貨競争において自己の安定性を高める努力をすることを強いられた。(そうでなければ、国際通貨としての機能を失う運命であった。)各国の国際市場での通貨選択権とは、実際には、市場経済に基づいて取引各国が保有する選択権が、通貨の領域でも十分に浸透している具体的な証拠なのである。市場価格は競争の中で安定していき、同じ道理で国際通貨の価値も競争の中で安定していったのである。

1971年8月、米国が一方的に米ドルの金本位制の廃止を宣言したことは、ブレトン・ウッズ体制が瓦解したことの表れであり、これにより複数の国際通貨体制と固定為替相場制は終了し、単一の国際通貨体制の時代が幕開けした。1976年1月の協議により、変動為替相場の合法性や金を通貨としないことが確認され、SDRの国際準備通貨における地位が高まり、ここからブレトン・ウッズ体制下に存在した国際通貨の選択権は米ドルが独占する単一通貨体制へと転換することになった。このような単一の国際通貨体制は、一方で米国以外の大多数の国が国際通貨の選択権を失い、国際経済活動の中で米ドルを中心とした既定の価格を受け入れなければならず、国際通貨の選択を通して米ドルが各種製品の価格を決定する可能性を制限することができなくなった。また一方では、米国等の西側諸国は変動為替相場制に依拠し、自国の需要に基づいて自由に通貨を発行することができ、米ドル等の通貨の放出によってもたらされる国際経済への影響を懸念する必要がなくなった。当時の条件では、英ポンド、仏フラン、日本円などの国際通貨は選択することができたが、これら国際通貨は米ドルを中心とし、米ドルの価値の変化によって変動すると同時に、いずれの国の経済規模も急速に拡大する国際経済・貿易や資本流動や金融取引の規模を支えることは難しく、ここから、米ドルによる「一通貨独占」の構造が続いていくことになった。

米ドルの通貨価値の状況に対し、客観的に市場メカニズムに適合しているかの評価を行うとすれば、最も有効な尺度はやはり金1オンス毎の米ドル価格に変換することかもしれない。1971年8月以前のブレトン・ウッズ体制では、米ドルは直接金と連動していた。2011年9月6日、金1オンスは1,912米ドルと史上最高値に達した。これを基準に計算すると、1米ドルで交換できる金の量は54.63分の1に減少した。つまり2011年9月6日の1米ドルの価値は、1971年8月以前における米ドルの価値の2セントにも満たない。足元、金の米ドル価格は金1オンスがおおよそ1,000米ドルから1,100米ドルの間で変動していることから、最近の1米ドルは1971年8月以前の米ドルの価値の4セントに満たない。このことから、米ドルの減価の程度とシニョリッジ(通貨発行益)がわかり、米ドルの減価によって世界各国や地域から米国に移転した利益が見て取れる。

1999年にユーロが登場して以降、米ドルが国際経済分野を独占する構造は厳しい挑戦を受け、米ドルとユーロの間では陰に陽に多くの争いが起こった。ただ、信用貨幣は実質的には対応する国の財政システムが支えるものであり、ユーロにはこのシステムによる調整が欠けていたため、底力が著しく不足していた。2008年の金融危機ののち、ユーロ圏はしばしば債務危機や経済の低迷といった苦境に陥り、ユーロの下落も避けられなかった。このような背景のもと、米国が金融危機の泥沼から抜け出すにつれて、米ドルは再度増価し、国際経済分野での独占状態が強まってきている。

中国が発展途上の大国であり、十分な経済力を有していることは、人民元が国際基軸通貨となるための重要な経済的基礎となっている。中国が統一国家であり、国家の財政力が豊富で信用も継続的に強化されてきたことを背景に、人民元の国際的な信用も徐々に強化されてきた。2005年の為替レート改革以来、人民元の為替レートは増価し続け、国際経済分野の各方面の取引関係者に安定した(もしくは増価する)通貨の選択の機会を提供してきた。これらの条件の下、人民元のSDR構成通貨入りは国際通貨体制に新たな活力を注入するだけでなく、国際通貨体制にさらなる改革の機会を与えるだろう。2015年11月30日、IMF理事会が人民元のSDR構成通貨入りを決定したのち、中国人民銀行は次のような態度を強調した。人民元がSDR構成通貨入りをしたことは、SDRの代表性や吸引力強化や現行の国際通貨体制の整備の上で有利である。中国側は引き続き改革を全面的に深化させる戦略計画をしっかりと推し進め、金融改革と対外開放を加速させ、世界経済の成長促進、国際金融の安定の維持と世界経済のガバナンスの改善のために積極的に貢献していく。また、12月1日の人民元のSDR構成通貨入りにおける説明会で、中国人民銀行は「我が国の貿易構造はいまだ大きな輸出超過であり、外国投資家による直接投資と中国の対外直接投資、つまりFDI(外資による対中直接投資)とODI(中国の対外直接投資)は全て成長し続けており、外貨準備も非常に余裕がある。これらの要素によって人民元には持続して下落する基礎がないことが示されている。」と強調している。これらは、SDR構成通貨入り後に人民元が過去に米ドルが下落し続けたのと同じ轍を踏むのではないかという国際社会に存在する念を弱めた。

その国の主要通貨はその国の名刺である。人民元のSDR構成通貨入りは米国、欧州、日本、英国など先進国の通貨が構成するSDR構成通貨に発展途上国の要素が加わることになる。これは国際通貨体制の中で中国の発言権を高めるための条件を作り出し、多くの発展途上国が国際通貨体制の中でさらに積極的な役割を発揮するために必要なチャネルを提供したことにもなる。これにより、国際通貨体制の運営と改革・発展において、十分に発展途上国の要求が反映されていくだろう。

中国経済・金融の国際化を推進する

交換の媒介と価値の貯蔵は通貨の二つの基本機能である。人民元のSDR構成通貨入りは人民元が国際基軸通貨クラブへ加入したことを表し、その国際信用力は明らかに強まる。これは人民元が国際貿易、国際金融、その他国際経済活動の中でさらに取引通貨(建値通貨、決済通貨等)としての機能を発揮することを推進するのに有利であるだけでなく、人民元が重要な国際準備通貨となることを推進する上でも有利である。これにより、人民元の国際化の歩みが大いに速められ、中国経済・金融の国際化の進展もますます加速化することになる。具体的には、

第一、 中国の金融政策の国際化レベルが更に高められる。人民元の通貨価値の安定を維持することは中国の金融政策の最終目標である。長期にわたり、中国の金融政策は国内における人民元の価値を安定させることを重視してきたことから、政策や対策の多くがこれに特化してきた。人民元のSDR構成通貨入り以降、中国人民銀行は国内外における人民元の通貨価値の安定を有効に調整し、金利政策と為替政策をしっかり運営することについて十分に考慮していかなければならない。この結果、中国の金融政策は中国国内だけでなく、国外への影響も考慮されながら調整され、国際性が備わっていく。この過程において、政策の複雑性と敏感性は大きく高まるが、経験の蓄積を基に中国の金融政策の国際化レベルが高まれば、国際社会から責任ある大国に対して求められる要求に応えることになる。

第二、 人民元が国際市場での取引において重要な通貨となる。人民元のSDR構成通貨入り以降、国際貿易、国際金融、その他国際経済活動において人民元を建値通貨や取引通貨とする余地と可能性が大いに高まることから、中国の企業等にとっては、人民元で直接国際市場に参入でき、為替面での一連の手続きやコストといった負担を軽減することができる。経常収支から見ると、中国からの製品、サービスの輸出や送金などで人民元を使用することができればさらに便利である。資本収支と金融収支の面では、人民元建てで国際投資と国際金融取引を行うことが可能となる。また、個人の海外旅行における消費や海外留学などでは、人民元と所在国の主要通貨の両替場所(空港、銀行、両替所等)が増え、両替手続きがさらに便利になる。その他、人民元の価値は中国国内経済の発展状況の影響を受けることから、コモディティ価格も人民元が取引に介在する場合には中国経済の発展状況の影響を受けることになり、コモディティ価格の動きにおいて中国の影響力と発言力が一段と高まっていくことになろう。

第三、 人民元は国際金融市場に影響を与える重要な要素となる。人民元のSDR構成通貨入りは、一面では人民元建ての国際金融商品の発行が加速化し、国際金融市場において様々な人民元建て金融商品が増加すると考えられる。結果的に、中国国内の資金が直接的に国際金融市場に入りやすくなり、国内外の金融市場における中国資本の金融機関の関連投資や金融取引の展開を推進することから、国際間での資産配分が進む。別の面では、オフショア人民元取引市場の発展を速め、国内外の人民元為替レートの水準の調整や国内外の金融商品の価格決定と取引価格の調整を推し進め、中国経済の国際金融市場に対する影響力を高める。さらには、国内の中国資本の企業(事業会社、金融機関ともに)が海外で人民元建て有価証券(債券、株式、その他証券)を発行することを促進し、中国資本の企業が国際金融市場を利用し金融イノベーションを展開する空間が広がる。

第四、 人民元は「一帯一路」構想(海と陸のシルクロード構想)を実施する中での重要な通貨となる。「一帯一路」構想は壮大で深い構想であり、実施するには中国の3.8兆米ドルの外貨準備に頼るだけでは遠く足りない。人民元のSDR構成通貨入り以降、この構想が実施されていく過程で人民元を利用したプロジェクト投資や金融取引を展開することが可能である。同時に、人民元レートが安定(もしくは増価)傾向であれば、構想に含まれる多くの国や地域にとっても積極的に人民元を受け入れやすいことから、投資建設資金の不足が軽減されるなど、この構想の目標の実現を支えることになり、構想に含まれる国や地域にさらに多くの経済、社会、福祉の効果がもたらされる。

第五、 国内の金融機関の業務転換と金融イノベーションを推進する。上述の条件の下、国内の中国資本の金融機関は人民元のSDR構成通貨入りに順応していく過程で、資産、業務、サービスの国内外での配置構成の変更・強化や、人民元の国際市場での影響力やチャネルを利用した金融イノベーションの展開や国際金融団体における運営経験とレベルの底上げ、国際金融市場の動きに注目した金融取引やサービスの展開が進む。そして、自身の国際化のレベルも高め、国内のサービス対象者のために海外の金融業務サービスを提供し、また海外のサービス対象者のために国内の金融業務サービスを提供する。この過程において、中国資本の金融機関は徐々に国際的な金融機関へ発展していくだろう。

通貨や金融の体制改革を深化する

人民元のSDR構成通貨入りは中国の金融政策と金融の発展に新たな挑戦をもたらしている。この新たな挑戦に直面し、通貨や金融の体制改革を深化させることは、中国にとって必然の選択である。とりわけ、IMFはSDR構成通貨に関して5年に1回見直しを行っており、SDR構成通貨に採用された主要通貨でも規定条件に達していなければ構成通貨から外され、新たに条件に達した通貨が構成通貨に入る。つまり、今回の人民元のSDR構成通貨入りは初めに苦労して入れば後は楽、というものではない。真に国際経済社会の発展の中で影響力を持つ基軸通貨となるには、中国はまだ多くの改革を行い、多くの困難を解決しなければならない。それには、次のことが挙げられる。

一、人民元の国際化を進めるための外貨保有構造を少しずつ調整していく。ここ数年、人民元国際化の歩みは明らかに加速している。海外の国や地域、企業や個人が人民元を受け入れるのは、人民元の価値が上昇しているということ以外、中国が3.8兆米ドルの外貨準備を保有していることがその基本的な理由である。このことによって中国は通貨価値の矛盾に陥った。つまり増価する通貨を海外へ放出し、手元には巨額の減価する通貨が残るという状況が長く続き、中国に重大な損失を招くことになっている。このような状況を変えるには、国の外貨準備の考え方を外貨資産の運用へと転換する必要がある。「一帯一路」構想の実施を通して、外貨を運用する対外直接投資の歩みを加速し、外貨準備の超過という状況を改善していく。また別の面では、人民元の国際化を進めるための外貨資産を海外の非金融資産と金融資産の民間による運用へ転換していくことである。

二、金融政策のコントロールに関する改革を加速する。中国の金融政策は行政システムを利用して直接コントロールすることを基礎としており、新規の貸出規模の管理、預金・貸出基準金利の管理、法定預金準備率などがよく用いられる手段であるが、これらの方法は市場システムの要求に合致していない。他にも、市場経済における金融政策のコントロール手段としての中央銀行の金利政策、為替相場政策やシステムは、まだ有効に形成されておらず、コントロールの経験も不足している。さらには、中国の金融政策のコントロールはそのほとんどが依然として金融機関を対象としており、金融市場をコントロールの重点とする作業が現在模索されている。これら体制改革は人民元のSDR構成通貨入り後に迅速に対応すべき重要課題となっている。

三、金融監督体制の改革を加速する。中国の金融監督で実行されている行政的分業監督モデルは、金融機関を主な対象としており、行政システムを利用して実施され、その監督範囲は金融商品、金融機関、金融市場の各方面にわたっている。しかも政策の影響度に応じて、監督の重点がたびたび変動している。人民元のSDR構成通貨入りは中国の金融監督システムと国際システムのそれを合致させることを要求しており、一面ではネガティブリスト制度を実行し、各種の市場主体がネガティブリスト外で平等に金融市場へ参加することを許可すべきである。また、機関の監督を主とすることから機能(あるいは業務)の監督を主とすることへと転換し、各金融監督機関の間の協調を推進すべきである。さらには、政策要請を徹底させることから、法による監督へと転換し、規則や法律に違反する金融行為を決然と取り締まり、健全な警戒システムと緊急対応システムを作り、システミックな金融リスクを有効に予防し、取り除くべきである。

四、資本市場の発展を加速する。中国の金融は商業銀行の預金・貸出システムが形成する間接金融を特徴とし、直接金融の占める割合は低い。これは国際金融市場の要求と明らかに異なっている。人民元のSDR構成通貨入り以降、海外の国や地域の政府、企業、個人が所有する人民元は、預金等のシステムを通して国内に還流する以外、主に中国の資本市場の各種金融商品に投資することを通して中国へ還流している。もし十分な金融商品の種類や規模がなければ、これらの海外の主体は人民元を所有しなくなり、SDR構成通貨入りによる効果はかなり低くなるだろう。このため、中国資本市場の金融商品(政府債券、企業債券、証券化商品、株式等を含む)の種類や規模等の拡大を急ぐ必要がある。同時に、金融市場における仲介システム(例えばコンサルティング会社、格付け会社、法律事務所、会計事務所、情報サービス会社など)の発展も急ぐ必要がある。

人民元のSDR構成通貨入りが中国の資本取引の全面的な対外開放を直接的に要求しないことに疑いはないが、資本取引(特に金融取引口座)における開放レベルを長期間拡大されなければ、国際金融市場と国際貿易市場における人民元の国際通貨としての機能は制限され、「一帯一路」構想の実施をサポートするのにも不利である。

五、情報公開制度の建設を加速する。中国では相当部分の情報が行政システムの中で利用されており、金融市場の運営と金融監督の透明性は高くない状態にある。人民元のSDR構成通貨入り後、これらの情報は各種公開手段(マスコミを含む)を通して公表され、公平な情報条件として市場の各主体に与えられるべきである。この過程においては、継続して関連データを公開し、統計規格を徒に調整せず、各データの統計根拠を公開で説明することなどを欠いてはならない。

六、金融リスクのコントロールを強化する。人民元のSDR構成通貨入り後、中国の金融市場の対外開放のレベルが拡大していくにつれ、中国国内の金融運営に対する、国際的要素の影響力もますます強くなることから、国内外市場の連動という観点からの金融リスクのコントロール手段を設計し、実施する必要がある。金融イノベーションのコントロールは特に各金融監督部門間の協力、共同管理に重点を置き、監督の抜け穴や死角が発生し、中国の経済・金融運営にマイナスの影響がもたらされることを避けなければならない。

(2015年12月発表)

※掲載レポートは中国語原本レポートの和訳です。

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