金融研究所
中国社会科学院「金融改革における政府の役割」

2015年6月5日

  • 陳経偉

政府が金融市場に介入する理論と実践

100年以上前に提唱された「ワグナーの法則」が過去に予測したように、工業化が進んだ後は、政府の経済に対する役割は客観的存在としてだけでなく、ますます大きくなる。公共部門の活動は内在的に拡大傾向があり、支出が絶えず増加する。この法則は多くの経済学者(例えば、ピーコックと=ワイズマン、ボーモル、サミュエルソン、マスグレーヴなど)によって検証され、50~100年後においてもまだその法則は機能していると考えられている。このことは現代の市場経済において、社会の進歩と経済活動の増大に伴い、政府の役割がさらに大きくなることを示している。

金融システムは経済の中で政府による最も厳格な管理を受ける部門の一つである。政府が金融市場を管理するのは現代の経済では常態化しているが、先進国で政府が金融業に介入する場合、一般に直接金融商品を「提供」することや「組成」する方法を採用することはなく、インフラとして純粋公共財を提供する方法を採用している。――即ち金融規則(法律や法規など)という形式によって金融業に対して規制を行っている。その内容が及ぶ深度と範囲は他の業種の規制を大きく上回る。それは、市場への参入・退出の制限、金融機関の業務制限などの構造的な規制に加え、最低自己資本比率、準備金積立、資産の質、流動性といった基準の設定、融資期限、預金保険制度などの市場取引の規制を含んでいる。

金融改革は政府機能の転換を呼びかけている

転換期にある中国の金融は先進国とは異なり、その特殊性は金融市場の「ゼロからの出発」と改革初期の大部分の構成要素が政府(中央もしくは地方)主導で作り出されたことにある。その複雑な構成は、主に政府が分権を行う過程で徐々に金融市場を「創り」出していったことに由来する。それは、行政手段による強制により、一部の未発達あるいは不完全な運営により非効率な金融市場システムを廃したり、直接もしくは間接に金融企業の管理システムや経営の意思決定などに関与することで、金融市場を再組成し、資源の合理的な分配を実現したことである。

政府主導による30年余りの金融改革の成果は次のようにまとめられる。一、長年にわたる金融市場の運営は基本的に安定しており、経済の急速な成長を支え、中国の台頭を世界経済の発展の中での歴史的奇跡とした。二、中国が世界に誇る金融大国となることを促進し、4兆米ドルに近い外貨準備を保有、資産の蓄積は「金融資産アジア第二位」「家計金融資産総額世界第三位」となった他、総貯蓄率は52%、家計貯蓄率は約20%に達するなど重要な資源をもたらした。

しかしながら、経済成長パターンの変化と構造改革の進展に伴い、金融システムには現在も根本的な問題が存在している。例えば、「高成長で低効率」な経済活動という前提への依存、金融システムの資源配分機能の低下、乱脈融資、貸出構造の不均衡など。政府の金融市場における機能を転換することを通じてこれらの問題を解決していくことが、経済のニューノーマル(新常態)における金融改革の主たる方向となる。

経済のニューノーマル(新常態)下における金融システム内での政府の役割

経済のニューノーマル(新常態)下での、金融システムのメカニズムとそれに関与する政府の役割には少なくとも以下の面がある。

①通貨の発行、通貨価値の安定、金融の安定など、国家の金融管理とマクロ経済の調節機能を執り行う。政府(一般には中央銀行が行う)の役割は金融政策及び各種の金融コントロール手段を運営して通貨価値と金融の安定を維持することであり、これは現代の経済における国家のマクロ経済の調節手段の一つである。経済のニューノーマル(新常態)では、速やかに経済活動の状況をチェックし、柔軟かつ適切に通貨供給を行い、マクロ経済の安定装置としての役割を発揮することが求められる。景気悪化に有効に対応して就業を促進し、経済の過度の拡大を抑制してインフレ昂進に対応し、金融が不安定になるのを防止し、金融の安全を守っていく。

②金融インフラと金融法治の建設を進める。金融インフラは経済社会における「ソフト」設備であり、公共財の範疇に属する。基本となる法律の施行、情報公開とコーポレートガバナンスのルールなどを含む。金融インフラの合理性は実体経済における金融システムの効率の上限を画し、金融インフラの安全は中国金融市場の安定の最も根本的な保障である。中国共産党第18期中央委員会第4回全体会議(四中全会)で提出された「法に基づき国を治める」方策では、ニューノーマル(新常態)において金融法治と金融改革を連携して推進することは、政府の有効な取り組みの一つであるとしている。

③政府の金融改革と金融規制を連動させる。公共的な金融規制は一般に各国立法機関と政府の金融監督機関など多くの部門によって多くの階層で施行され、法律、法規、条例、規定などの正式な規則によって表現されている。金融業に対する規制は深度や範囲の上でも他の業界を上回る。中国の経済と金融はまさに転換の過程にあり、「不完全」な法律体系の下で、規制の判定は往々にして政府及びその金融監督専門部門が主導している。これが意味するのは、政府が実施する金融規制の効果が社会全体の金融効率に大きく影響するということである。現在、中国の金融監督機関は、金融規制の制定と金融規制の執行及び監督の両方の業務を行っている。ニューノーマル(新常態)において政府が金融規制改革を推進することは金融改革の次の段階の重点の一つである。その内容は、全体をカバーする金融監督機関の設置、規制の制定と執行との分離、金融規制の制定過程におけるフローの設計(民間社会の関与の機会と評価メカニズムの提供)などに及んでいる。

政府の金融規制体系はすでに通貨規則、金融監督規則、金融組織規則、金融市場取引規則など4階層約4000の複雑な規制体系が形成されている。これは漸進的な改革の過程で、行政機構や金融組織の分権化などから次第に形成されたものである。その構成から見ると、異なる規則間の専門的な要求の違いが作り出す摩擦や衝突が大いにあり得ることから、中国人民銀行、中国銀行業監督管理委員会、中国証券監督管理委員会、中国保険監督管理委員会の内部システムに基づいて協調することは難しい。そのため、金融業務の内部協調はニューノーマル(新常態)における政府の重要な職責となっている。

④金融監督の実施と金融イノベーションの促進。現代社会において、金融規制体系は法律と法規によって規範化されることが主な特徴の一つであるが、この規制体系の執行と遵守は多くの要素を反映して決まる。例えば、監督機関の組織的能力、監督機関相互間の権限と責任の合理的な区分と監督体系の整備、司法機関の迅速かつ有効な介入、金融規制自体の合理性などである。その中で、金融規制自体の合理性が最も重要な要素であり、金融監督によって金融規制がその目的を実現する重要な手段となる。また、金融監督の高効率の運営も金融規制を実現する必要な手段である。

現在、金融業態には重大な変化が起こっている。例えば、インターネット金融の普及、情報セキュリティの重要性、地域金融、世界金融における新しい秩序の構築など、政府は各種有効な調節手段、あるいは相応のメカニズムの設計によって、中国の金融市場においてミクロの主体が提供や組成できない部分に対して必要な補足を行うべきである。

⑤社会の信用システムを構築し、中国の信用調査業の発展を促進する。信用は金融業が存続していくための根幹であり、金融業が持続的に発展する基礎でもある。中国経済が転換していく中で、企業の信用と個人の信用を管理する制度設計の遅れを補うことにより、企業と個人の信用調査報告が役割を果たしていない問題を解決する必要がある。政府は全国統一の社会信用コード制度と信用情報の共有交換プラットフォームを建設するなど、信用情報の共有や整理統合、情報提供サービス用のインフラを展開し、法によって企業と個人情報の安全を守りながら、中国社会全体の信用システムの整備と金融機関が金融サービス(特に小規模金融)を展開するサポートとなるインフラを提供する。

経済のニューノーマル(新常態)では、小規模零細企業の借入の困難、融資コストの高さなどの問題を緩和するため、国家の信用情報の基礎データと金融業の統一した信用調査プラットフォームを整備することで、政府は必要な手段によって信用調査業の発展を促し、中国の特色ある信用調査システムを作り、段階的に国際格付における「発言権」を掴んでいくべきである。

(2015年5月発表)

※掲載レポートは中国語原本レポートの和訳です。

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