アジア太平洋三人行

対談
第4回 歴史に学ぶ日本の課題と中国とのつきあい方(3/3)

  • ゲスト 堺屋 太一 氏 作家、経済評論家

川村

官僚は身分ですか。

堺屋

まさに版籍奉還を行わなければなりません。それと社会構造の改革と発想の転換が必要です。私は、1998年から2000年にかけて大臣を務め、多くの改革を試みました。例えば、通信自由化、電力自由化を行いました。通信自由化では、それまでNTTが全部の通信線を独占していたのを、電気通信事業法を改正して、どこの会社も使用料を払えば使えるようにしました。その改正は私が担当大臣で行ったのです。それと同時に、電力自由化も行いました。どこで発電をしても、送電線を借りてどこへでも販売できることにしたのです。しかし、2006年頃からは逆転、規制強化になっています。

川村

中国で王朝を作った人というのは、貧しい農民出身の人がリーダーになっているケースが多いですね。知識や学問に恵まれているわけではないのに、なぜでしょうか。

堺屋

中国的な思想には「徳」というのがありますね、知識とか技能とか名門という意味ではなく、なにか知らないが徳があるという人がいる。劉備玄徳みたいな人です。だから、諸葛孔明も関羽も張飛も劉備玄徳にはかなわないのです。

川村

私が非常に気になっていて、心配なのは、今の日本の政治状況です。どうしたら今の状況を打開することができるのでしょうか。

堺屋

まずは官僚を職業にすべきだと思うのです。今の官僚は身分です。例えば、今、厚生労働省のトップクラスと言うのは70年代末に厚生省か労働省にはいった人です。ところが、70年代末の厚生省や労働省は小さな官庁だったから、キャリアの採用数は少なかったのです。それが、今や巨大な官庁になったので人材不足です。それに比べて、農林水産省は当時は大きな官庁でしたが、今は仕事が少なくなっています。それならば、農水省に入った優秀な人を厚労省の局長にしたらどうかと言うと、「とんでもない。それは薩摩藩の武士を紀州藩の家老にしろというようなものです、身分が違うのですよ。」と言われるのです。

川村

先生は、足元の日本の課題について、どうご覧になりますか。

堺屋

今、第一の問題は、版籍奉還にあたる公務員改革です。それからもう一つは「好き好き開国」、これはTPPです。TPPに加わらなければならない。しかし、現在の日本には「嫌や嫌や開国」の情報が流されています。例えば、農水省は食糧自給率というのを持ち出しまが、これはカロリー自給率です。カロリー自給率を出している国は日本と韓国くらいです。他の国は市場価格自給率なのですね。だから、高級品を作れば自給率が上がるわけです。つまり、日本は食糧増産に邁進した食糧不足時代の政策をひきずっているのです。これからは日本は高級品を作って農業を輸出産業にしなければなりません。去年の上海万国博覧会の日本産業館では、日本のブドウやりんごを売りました。日本料亭を作って、一食二万円の高級料理を出しました。いずれも大好評でした。高級品を売るという発想を持ってきて、日本の食品をブランド化しなければなりません。今の農水省の発想は、とにかくカロリー自給率です。あらゆることが、官僚の身分を守るために発想されています。今の原発の問題も同じです。私は原発推進派ですけれども、一番問題なのは日本の原発は官僚の決めた基準に合っていたら安全で事故は起こらない、ということになっていたことです。基準に合っていれば危険はゼロ、したがって事故が起こったときのダメージコントロールについてはぜんぜん訓練もマニュアルもなかったのです。

川村

TPPなどは、識者はみんな口をそろえてはやくやらなければならないとおっしゃるのに、なぜ進まないのでしょうか。その要因の一つとしては官僚縦割り等々もあるのだと私は思いますが、国民の側がTPPというのをきちんと認識しているのでしょうか。

堺屋

国民の側でTPPの認識が十分でないのは、まさに「嫌や嫌や開国」の宣伝が行き届いているからです。日本で食糧を作らなかったら食糧危機になるぞという宣伝です。それは、とんでもない間違いです。といいますのも、1993年の大冷害の時になぜ日本は食糧危機にならなかったかというと、輸入があったからです。

薛軍

先生は地方分権の推進、小さな政府、道州制の採用を主張されています。それらのことについて簡単にご説明ください。

堺屋

私は、日本の中央政府を、小さくしなければならない、それで地方に権限を分配し、なおかつ地方の政府も小さくしなければならないと考えます。この地震の復興でも東北州というものを一つ前提にして、東北六県でどう開発するかどう復興するかと考えるべきです。そうすると、漁港が今、岩手県と宮城県であわせて253ありますけれども、50で十分ではないかとか、あるいは都市を作るのにも、ここは音楽の都、ここは格闘技のセンター、ここは算数の町というようなことをして、そこに日本一のモノを分配します。こういう方法ができるのです。アメリカでもドイツでもだいたいそうなっています。

川村

文化人というお立場から見た今後の日中交流のあり方を先生はどんな風にお考えでいらっしゃいますでしょうか。

堺屋

日本側から言いますと、本当の日本というものをよく知らせることだと思います。例えば、去年の万国博覧会で、日本政府館はいったい何を行ったかというと、要するに伝統文化と先端技術の切れっ端の羅列です。だから、新しい文化の雰囲気は出ません。私どもは、逆に伝統文化はもう言う必要がないと考え、「J感覚」というのを、まさに今の若者の文化を知らせることを行いました。そうすると、中国の人は大変喜ばれた。今までの日本の文化外交というのは伝統文化の一部を切り取って見せる、いわば日本の特殊性を打ち出すのです。日本はこんなに違います、ということを言いたがるのです。しかし、これからはどこの国でもはやっているものの先端が実は日本にありますよということ、そういう日本の普通のところをよく見てもらいたいと思います。それから、もっと日本の観光をはやらせたいですね。観光をはやらせる方法としては魅力的なものを全国に造るべきです。東京以外に観るところはないという感じが日本を狭くしているのです。

一方で、日本が中国を見るときには、中国の多様性をもっと考えなければならないと、私は思います。日本と中国の一番の違いは、中国は巨大な国で多様な国であるということです。だから、中国ではいろいろな人がいて当たり前です。ところが、日本人は中国を日本とおなじように一色で見る傾向があります。それから、日本は他人に学ぶのに熱心かつ上手です。他方で、中国はオリジナルの国です。だから、ヨーロッパの知識で中国を見るとか、日本の知識で中国を見ると、はなはだ誤ったことが多くなります。中国は、本当にオリジナルの国なのですね。

日本は学びの文化。中国の文化を学び、欧米の文化を学んだものです。だから、外国の基準を非常に気にします。しかし、中国はそうではありません。これから日本が中国とつきあっていくためには欧米文化と、もう一つ中国の文化という2つを学ぶ必要があると私は考えます。

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アジア太平洋三人行 バックナンバー

第17回 人民元の国際化を乗り越え、中国は資金供給国としての役割の認識が必要に

  • ゲスト 渡辺 博史 氏
    国際協力銀行副総裁

貯蓄超過のアジアの資金をアジア内で循環させるには、金融取引の障壁を低くし、資金が流れる仕組みや環境の整備が不可欠だ。パンダ債発行や人民元との直接取引開始等で官が先行しているが、5-10年をかけ民間にイニシアティブを移すことが必要となろう。
人民元の国際化は不可避であり、自由化の速度をどう調節するかが課題だ。
中国が地域間の資金偏在を解消できれば、日本とともに世界に対し資金の根源的な出し手の地位にいたる。そのとき、日中両国が協力しあえば、世界への貢献度、発言権はきわめて大きくなる。それは、今後10年、20年の間に、政府や民間が互いに意識して連携できるかどうかにかかっている。

第16回 中国は、長期の視野の下で、安定的な発展モデルを考えることが必要

  • ゲスト 崔 保国 氏
    清華大学副院長

今、世界は成長の危機に直面している。100年前には目指すべき発展モデルがあったが、今後の100年を展望するとき、そうしたモデルは存在していない。中国は、自身の知恵を絞り、安定的かつ長期の経済及び社会の発展モデルを考える必要がある。
中国は一人当たりの資源量がきわめて小さいため、次代の発展を支えるのにどのようにしていくのかが一番の問題となっている。これをうまく解決できないと、世界はいつまでも爆弾を抱えているのと同じ状態になる。
問題の解をみつけるためには、今後100年といった長い視野で、過去を振り返って反省し、未来を考えていくということが必要である。

第15回 内需主導に向け、中国は為替レートの制限緩和と需要拡大策が必要

  • ゲスト 吉野 直行 氏
    慶應義塾大学経済学部教授

中国は、輸出依存による高成長から、内需拡大による成長持続を目指していかねばならない。今後、必要な政策は、為替レートについて固定制からバスケット通貨制の方向に動いていくこと、経済成長を維持するために内需の中に成長を支える柱を作っていくことだ。
内需には、消費だけでなく、住宅投資、公共投資があり、政府消費として教育、年金、医療、社会保障も増加が見込まれ、各分野で適切な政策対応が必要となる。
為替レートに関しては、バスケット通貨のウエイトを徐々に変えていく調整が適当だ。今後は、元とユーロ、元とウォンのように、自国通貨と他国通貨との交換開始というかたちで取引を拡大していくべきである。

第14回 アジアの世紀に向け、日中間の人の交流拡大が急務

  • ゲスト 福地 茂雄 氏
    アサヒグループホールディングス(株)相談役、(公財)新国立劇場運営財団理事長

21世紀はアジアの世紀といわれ、環境や水産資源などの問題も含め、日本と中国との関わりあいはますます拡大する。そうした中で、日中の相互理解の促進には、人の面で日本と中国とがもっと行き来をし、交流しないといけない。
今、日本の主要都市は太平洋側、アメリカの方角を向いているが、九州や長崎を窓口とすれば、中国は東京よりも近い。日中はその近さを活かして、物理的移動をともなう人の往来を拡大し、それにともなう物や芸術文化の動き、交流へと波及させていくことが急務である。

第13回 日本の経験を糧に、アジアの持続的な経済発展及び調和社会の実現へ

  • ゲスト 鈴木 茂晴 氏
    大和証券グループ本社 会長

中国は、経済成長過程でまだ低いところにあり、なお大きな成長の余地を残している。
世界で一番成長しているのは、中国を中心とするアジアであり、地理的に近い日本にとってビジネスチャンスが拡大している。また、日本を先行事例、または反面教師として研究することで、持続可能な経済発展あるいは調和のとれた社会の実現に近づくことも可能であろう。
地理的な近さに加え、きちんとした関係を結んでいけば、日中間は30年後、40年後も良い関係でいられるはずである。

第12回 民間同士、政府同士がウィン—ウィンの関係を保つことが交流の深化に

  • ゲスト 樋口 武男 氏
    大和ハウス工業株式会社 代表取締役会長

中国のいい点は政策運営のスピードであり、メリットといえるが、逆に言えば規制はすぐに変わる。中央や地方政府の政策運営には、つねにアンテナを張っておかねばならない。 グローバルに事業を展開していく上では、先入観で物事を判断せず、現地でしっかりコミュニケーションを交わし、ネットワークを構築するのが第一だ。
さらに民間同士だけでなく、政府間の連携・コミュニケーションをも密接にし、国同士ウィン—ウィンの関係を保つことが大事である。それによって、民間企業の関係がさらに深まっていくという連鎖が、交流を深めるには必要だ。

第11回 精神文化に立脚した尊敬される日本人へと意識改革が必要

  • ゲスト 古賀 誠 氏
    衆議院議員

本当の日本の国益は、お金ではなく文化である。それを、ものやお金の豊かさが幸せの尺度だと、高度経済成長の中で誤ってしまった。あの国はすばらしいと、日本人の精神を世界が尊敬してくれるというところの価値観への切り替えが遅れたのだ。
国民もそれがわかりつつあるのではないか。国民一人一人の意識復興、意識改革ができるかどうかに、日本の国の浮沈がかかっている。
そして、海外諸国と精神文化の面でも本音で話をできるような信頼関係を築き、継続させていくことが50年先、100年先を見据えて必要なことではないだろうか。

第10回 助け合いや絆の強まりを新たなネットワークに拡げ、岩手の復興をアジアの発展へ

  • ゲスト 達増 拓也 氏
    岩手県知事

岩手県の復興計画は8ヵ年計画であり、今はまだ最初の1年が終わった初期の段階にある。内外を含めた多くの支援を受けたので、改めてお礼を申し上げたい。ただし、復興にいたるまでは引き続き支援や協力をお願いする。
復旧・復興の中で、するべきことを明らかにし、計画にまとめ、予算や事業のかたちにして進めていけば、地元の底力に海外を含め外からの力も加わって、大きな力で復興を果たすことができると思う。復興を果たした上で、アジアに貢献できる岩手県として、アジアの皆と一緒にアジア全体の発展に力を尽くしたい。

第9回 多様な相手への深い理解が長期の暖かい交流の礎に

  • ゲスト 前田 新造 氏
    株式会社 資生堂 代表取締役 会長

日本がグローバル化を果たす上で克服しなければならないのは、相手をどれだけ深く理解できるかだ。多様な人々や国情に対応し、共存を図っていくことが重要である。中国進出でも、現地のお客様を知るということを大切にし、経営、研究開発、美容相談等いかに現地に根付いていくかを考えてきた。 中国とは歴史的な交流が深く、漢字文化など互いに共通する面も多い。相手を理解しようという心を先ず持つことが必要だ。その上で、中国の人々といい関係が続く時間をどれだけ長くできるかと考えると、百年の大計が大事なキーワードとなるのではないか。

第8回 境界の思想から共存の思想へ

  • ゲスト 山内 進 氏
    一橋大学学長

国際政治の発想として、「俺とお前たちは違う」とラインを引く境界の思想がある。一方「私とあなたは違うかもしれないが、お互い仲良く暮らしましょう」という共存の思想がある。19世紀までヨーロッパの基本的な動きは境界の思想であって、そうして自分たちの世界を拡大してきた。しかし、もともと文明は並列的に存在し、相手に対抗する場合でも文明の新しい担い手が、共存の思想を持って進んでいけば衝突は起こらない。そういう衝突が起こらない世界を作っていくことが期待されている。

第7回 国の強みを活かす構造改革が中国の安定成長への途

  • ゲスト 大田 弘子 氏
    政策研究大学院大学 教授

その国の持っている強みが存分に活きるような仕組みを作っていくことが構造改革である。中国の強みは大きい消費市場であるが、貧富の格差が大きいと十分その強みは発揮することはできない。今年からスタートした第12次五カ年計画は、消費主導の安定した経済構造に変えていこうというよくできた構造転換のメッセージであり、5年間でこれが実行できれば、中国経済は新しいステージ入りが実現する。また、格差があることへの不満に対し、努力すれば豊かになれるという可能性が開かれた社会の実現が重要である。

第6回 日中関係は「対等」という二文字が大事

  • ゲスト 加藤 嘉一 氏
    コラムニスト

情報発信には経験の力と若い力の両方が必要だと思う。中国は例外を排除しない土壌で、日本よりもフレキシブルであり、若い人間にチャンスを与えている。現在の日中両国は歴史上初めて同じような国力で存在しており、互いに「対等」の意識をもつことが大切。中国の長期的発展にはアメリカ的発展モデルは必ずしも適しておらず、いろいろな問題で米中間の橋渡し役を担うことが出来るのは日本だけである。

第5回 新たな発展過程への切替えを迫られる中国経済

  • ゲスト 渡辺 利夫 氏
    拓殖大学学長

中国は、台湾や韓国、日本と同様に、政府が強いリーダーシップの下産業政策を遂行し、発展が始まった。鄧小平の改革により国有企業が効率的に動き出し、その後の経済発展は日本と異なり外資主導型で進んだ。今後は、外資系企業の民族企業への転換、また成長方式の転換と成長の質の向上が中国経済の安定的成長のポイントである。

第4回 歴史に学ぶ日本の課題と中国とのつきあい方

  • ゲスト 堺屋 太一 氏
    作家、経済評論家

日本は世界の価値革命の潮流を見誤り、対応に失敗し下り坂になった。まだ、厳しい時期が何年か続いてようやく新しい日本を作る気運が出てくるのではないか。
一方、台頭する中国とつきあっていくためには、中国は巨大な国で多様な国であり、またオリジナルを重視する国であることを念頭に、中国の文化、中国の人というものを素から知っておく必要がある。

第3回 中国・日本の中央政府と地方自治

  • ゲスト 麻生 渡 氏
    前福岡県知事、前全国知事会会長

中国・日本の地方自治体間の地道な友好提携は大切である。中国では中央政府が養成した人材を地方に配置するという伝統に根ざした優れた統治システムが機能している。日本は、官僚主導から政治主導への転換があまりうまくいっていない。

第2回 高成長中国の構造的問題とその対応

  • ゲスト 河合 正弘 氏
    アジア開発銀行研究所(ADBI)所長

所得格差や貧富の格差の問題に対して中国はまだまだやれることがある。例えば税制、社会保障、教育や医療への投資。またメディアの力を活かすとともに、司法制度の整備を進めることで環境問題や公害問題に対処できる。

第1回 高度成長期の日本と現代中国

  • ゲスト 宮﨑 勇 氏
    元大和総研理事長(元経済企画庁長官)

中国は高度成長期の日本と似ているが、日本では高度化の過程で所得格差が縮小したが中国では拡大している。しかし当時の日本もけっしてうまくいく事だけではなく、多くの失敗をした。中国は課題の解決に向けて自信を持って良い。

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