アジア太平洋三人行

対談
第3回 中国・日本の中央政府と地方自治(2/3)

  • ゲスト 麻生 渡 氏 前福岡県知事、前全国知事会会長

対談動画(ダイワインターネットTV)


川村

福岡県は、アジア特区という構想を知事の時代に随分打ち出されて色々な施策をされてきました。この点についてお話いただきたい。もう一つは、地方と言っても、だいぶ格差があるのではないか。従前のように国が一括で吸い上げて再配分するようなしくみが、今まではそれで来ていましたが、今後地方分権にしたときに、そういう自らの富を蓄積したり生み出す格差をどのようにすればいいのか、について教えていただきたい。

麻生

福岡県は歴史的にもアジアとの経済あるいは文化交流の拠点でした。今後も、我々の希望はアジアと共に発展するということです。明治以来、日本には二つの潮流がありました。ひとつは、福沢諭吉の「脱亜入欧」、つまり、アジアは遅れてしまっていて一緒にやっていられない、だから欧米と手を結ぼう、という考え方。それに対して福岡には大アジア主義というのが一貫してありました。それは、孫文の革命を支援して、しっかりした近代的アジアの国々を作って、それと手を結んでいくべきではないかという、そういう道がありました。是非、アジアのみなさんと共に繁栄をしていくということを、我々の将来の方向として進めていこうと。これが一致した希望です。それをどういうふうに実現していくか。福岡アジア戦略特区という総合特区をつくろうじゃないか、と言っています。今回の特区の中には、一つの拠点、5つの役割を持っていこうと。一つは、世界の成長産業を、アジアのみなさんと協力しながら作り出していく。そのための産官学協力や研究開発投資を積極的にやっていこうと。福岡の場合には、自動車、半導体、バイオ、水素、ロボット等に非常に注力しています。同時にこれがアジアの新産業作りの先進拠点になっていこうではないかと。二番目は、ビジネスをする場合に、非常に大きな問題は中小企業であると。中小企業の皆さんを中心に、アジア交流をしてアジアとの連携を進めていこうということです。タイの経営者を60人福岡に呼びました。そして福岡の中小企業の皆さんと一緒に討論をする、あるいは現場も見てもらう。どういう考え方で会社を運営しているのか、従業員とはどういう関係を作るのか、というようなところから始めた。今度は我々のほうからも出していきます。そういうことを通じて、いいパートナーをつくるための仕組みを積極的に作っていく。それから三番目は、何と言いましても環境です。北九州はかつては産業公害で大変でした。色々な努力をしまして、非常にきれいな都市を作りました。

川村

知事の小さい頃、北九州の港では、あまりの汚染で鉄船の錨の鎖が溶けたという話がありましたが。

麻生

私のころは、7色の煙というのがあった。これは、黄色の煙が出たり、紫の煙が出たり、白い煙が出たり、黒い煙が出たりした。どんどん煙を出して盛んにやっているということが、日本経済の復興の証であると考えられていた。われわれはいろんな経験をしました。空気をどうしたらいいか、水はどうしたらいいのか、下水システムはどうしたらいいのか、ということをはじめ、多くの経験を持ちました。それを中心に是非、いい環境をアジア中が作っていき、その拠点としてやっていこうということになった。現に、実は私どもは産業廃棄物税を取っている。そのお金を使い、アジア環境人材研修事業をやります。これは各国の環境担当行政官に来てもらって、三ヶ月くらい現場や歴史を見て何が今必要なのか、どういう法律的な規制・制度を設けているかということもやっている。中国、ベトナム、タイ、一部インドの中にそういう環境人材ネットワークが今できつつある。4番目は、今アジアにおいては非常な勢いで若者文化ができている。日本で有名なポップミュージシャンは、これは北京でも上海でも香港でも共通して有名になりました。漫画もそう、映画もそう。それから、食べ物。これもアジア固有の共通の食文化ができてます。これを大いに推し進めていく拠点になろうではないか。今私どもは、アジアンビートという、インターナショナルネットワークに今6カ国でアジアの若者情報を発信している。日本語はもちろん、中国、韓国、ベトナム、タイ、中国語も2種類(北京語と広東語)ということで出している。それからもう一つ非常に一生懸命やっていますのは、ファコ(FACO)、福岡アジアコレクションです。これも、パリコレとか東京コレクションがありますが、われわれはアジアのファッションを作るという目標を明確に設定してやっている。ヘアファッションもある。福岡というのは、ヘアの美容学校というのがなかなか盛んです。もう一つは、医療があります。医療で高度医療の拠点になっていこうということです。最後に、それをやるためには、やはりインフラを世界に負けないようなものに整備していく。そのような目標をもって、5つの点で、アジアに貢献できる拠点になっていこうではないか、というのが福岡アジア総合戦略特区の構想です。それから2番目に言われたこと、確かに地域間の格差はある。地方交付税で、それぞれの行政水準のミニマムの財政を保証しようじゃないかということでやっており、これをきちっと維持しないといけない。ただ、何もかも同じ水準にしますと、かえってそれぞれの地域の創意工夫を阻害することになる。その設定の仕方が大切です。それぞれの地域の創意工夫、自主的な努力、自尊、という考え方が根本にないといけない、と思ってやっています。

川村

最近は、地方政治のほうが面白い。

薛軍

日本はこれまで高度経済成長期で大成功しました。中央と地方の政府の役割のバランスをうまくとって成功したと思います。その経験を紹介して頂きたい。また、中央と地方の分権について、中国にとっての教訓があればアドバイスをいただきたい。

麻生

中国には中国の長い歴史で形成されている統治の方法がある。中国の統治のやり方は、典型的に言うと科挙があり、皇帝が各地域に科挙の合格者を派遣している。もう一つはそれぞれの地域に特色があり、自らのあり方を考えていくという2面が中国の歴史には常にある。今見ていると、私のところに毎年中国共産党の中央党校のみなさん20人、30人が来ます。最近は経済問題より環境問題、高齢化社会をどうするのか、という点に関心が移って非常に熱心に勉強している。彼らは、呼び方は違うけれど、中央党校でまさに幹部として養成されている。この養成システムは見事だと思う。この人材養成を非常に積極的に中央政府がやっていて、かつその人材をうまく配置していく。これは非常に優れた中国の伝統に根ざした統治システムだと思います。

薛軍

最近ある県の議員と話したんですが、去年発表された現政権の日本の中長期ビジョンを知らないという。なぜ知らないかと聞くと、あれはあまり開示されていないとのこと。私としては、現政権の方針であり自分の問題じゃないか、と感じるのだが、どうも当事者意識が薄い。中国側の共産党の幹部の任命制は、日本の民主政権と違いますが、日本の問題点も含め、どう違うでしょうか。

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アジア太平洋三人行 バックナンバー

第17回 人民元の国際化を乗り越え、中国は資金供給国としての役割の認識が必要に

  • ゲスト 渡辺 博史 氏
    国際協力銀行副総裁

貯蓄超過のアジアの資金をアジア内で循環させるには、金融取引の障壁を低くし、資金が流れる仕組みや環境の整備が不可欠だ。パンダ債発行や人民元との直接取引開始等で官が先行しているが、5-10年をかけ民間にイニシアティブを移すことが必要となろう。
人民元の国際化は不可避であり、自由化の速度をどう調節するかが課題だ。
中国が地域間の資金偏在を解消できれば、日本とともに世界に対し資金の根源的な出し手の地位にいたる。そのとき、日中両国が協力しあえば、世界への貢献度、発言権はきわめて大きくなる。それは、今後10年、20年の間に、政府や民間が互いに意識して連携できるかどうかにかかっている。

第16回 中国は、長期の視野の下で、安定的な発展モデルを考えることが必要

  • ゲスト 崔 保国 氏
    清華大学副院長

今、世界は成長の危機に直面している。100年前には目指すべき発展モデルがあったが、今後の100年を展望するとき、そうしたモデルは存在していない。中国は、自身の知恵を絞り、安定的かつ長期の経済及び社会の発展モデルを考える必要がある。
中国は一人当たりの資源量がきわめて小さいため、次代の発展を支えるのにどのようにしていくのかが一番の問題となっている。これをうまく解決できないと、世界はいつまでも爆弾を抱えているのと同じ状態になる。
問題の解をみつけるためには、今後100年といった長い視野で、過去を振り返って反省し、未来を考えていくということが必要である。

第15回 内需主導に向け、中国は為替レートの制限緩和と需要拡大策が必要

  • ゲスト 吉野 直行 氏
    慶應義塾大学経済学部教授

中国は、輸出依存による高成長から、内需拡大による成長持続を目指していかねばならない。今後、必要な政策は、為替レートについて固定制からバスケット通貨制の方向に動いていくこと、経済成長を維持するために内需の中に成長を支える柱を作っていくことだ。
内需には、消費だけでなく、住宅投資、公共投資があり、政府消費として教育、年金、医療、社会保障も増加が見込まれ、各分野で適切な政策対応が必要となる。
為替レートに関しては、バスケット通貨のウエイトを徐々に変えていく調整が適当だ。今後は、元とユーロ、元とウォンのように、自国通貨と他国通貨との交換開始というかたちで取引を拡大していくべきである。

第14回 アジアの世紀に向け、日中間の人の交流拡大が急務

  • ゲスト 福地 茂雄 氏
    アサヒグループホールディングス(株)相談役、(公財)新国立劇場運営財団理事長

21世紀はアジアの世紀といわれ、環境や水産資源などの問題も含め、日本と中国との関わりあいはますます拡大する。そうした中で、日中の相互理解の促進には、人の面で日本と中国とがもっと行き来をし、交流しないといけない。
今、日本の主要都市は太平洋側、アメリカの方角を向いているが、九州や長崎を窓口とすれば、中国は東京よりも近い。日中はその近さを活かして、物理的移動をともなう人の往来を拡大し、それにともなう物や芸術文化の動き、交流へと波及させていくことが急務である。

第13回 日本の経験を糧に、アジアの持続的な経済発展及び調和社会の実現へ

  • ゲスト 鈴木 茂晴 氏
    大和証券グループ本社 会長

中国は、経済成長過程でまだ低いところにあり、なお大きな成長の余地を残している。
世界で一番成長しているのは、中国を中心とするアジアであり、地理的に近い日本にとってビジネスチャンスが拡大している。また、日本を先行事例、または反面教師として研究することで、持続可能な経済発展あるいは調和のとれた社会の実現に近づくことも可能であろう。
地理的な近さに加え、きちんとした関係を結んでいけば、日中間は30年後、40年後も良い関係でいられるはずである。

第12回 民間同士、政府同士がウィン—ウィンの関係を保つことが交流の深化に

  • ゲスト 樋口 武男 氏
    大和ハウス工業株式会社 代表取締役会長

中国のいい点は政策運営のスピードであり、メリットといえるが、逆に言えば規制はすぐに変わる。中央や地方政府の政策運営には、つねにアンテナを張っておかねばならない。 グローバルに事業を展開していく上では、先入観で物事を判断せず、現地でしっかりコミュニケーションを交わし、ネットワークを構築するのが第一だ。
さらに民間同士だけでなく、政府間の連携・コミュニケーションをも密接にし、国同士ウィン—ウィンの関係を保つことが大事である。それによって、民間企業の関係がさらに深まっていくという連鎖が、交流を深めるには必要だ。

第11回 精神文化に立脚した尊敬される日本人へと意識改革が必要

  • ゲスト 古賀 誠 氏
    衆議院議員

本当の日本の国益は、お金ではなく文化である。それを、ものやお金の豊かさが幸せの尺度だと、高度経済成長の中で誤ってしまった。あの国はすばらしいと、日本人の精神を世界が尊敬してくれるというところの価値観への切り替えが遅れたのだ。
国民もそれがわかりつつあるのではないか。国民一人一人の意識復興、意識改革ができるかどうかに、日本の国の浮沈がかかっている。
そして、海外諸国と精神文化の面でも本音で話をできるような信頼関係を築き、継続させていくことが50年先、100年先を見据えて必要なことではないだろうか。

第10回 助け合いや絆の強まりを新たなネットワークに拡げ、岩手の復興をアジアの発展へ

  • ゲスト 達増 拓也 氏
    岩手県知事

岩手県の復興計画は8ヵ年計画であり、今はまだ最初の1年が終わった初期の段階にある。内外を含めた多くの支援を受けたので、改めてお礼を申し上げたい。ただし、復興にいたるまでは引き続き支援や協力をお願いする。
復旧・復興の中で、するべきことを明らかにし、計画にまとめ、予算や事業のかたちにして進めていけば、地元の底力に海外を含め外からの力も加わって、大きな力で復興を果たすことができると思う。復興を果たした上で、アジアに貢献できる岩手県として、アジアの皆と一緒にアジア全体の発展に力を尽くしたい。

第9回 多様な相手への深い理解が長期の暖かい交流の礎に

  • ゲスト 前田 新造 氏
    株式会社 資生堂 代表取締役 会長

日本がグローバル化を果たす上で克服しなければならないのは、相手をどれだけ深く理解できるかだ。多様な人々や国情に対応し、共存を図っていくことが重要である。中国進出でも、現地のお客様を知るということを大切にし、経営、研究開発、美容相談等いかに現地に根付いていくかを考えてきた。 中国とは歴史的な交流が深く、漢字文化など互いに共通する面も多い。相手を理解しようという心を先ず持つことが必要だ。その上で、中国の人々といい関係が続く時間をどれだけ長くできるかと考えると、百年の大計が大事なキーワードとなるのではないか。

第8回 境界の思想から共存の思想へ

  • ゲスト 山内 進 氏
    一橋大学学長

国際政治の発想として、「俺とお前たちは違う」とラインを引く境界の思想がある。一方「私とあなたは違うかもしれないが、お互い仲良く暮らしましょう」という共存の思想がある。19世紀までヨーロッパの基本的な動きは境界の思想であって、そうして自分たちの世界を拡大してきた。しかし、もともと文明は並列的に存在し、相手に対抗する場合でも文明の新しい担い手が、共存の思想を持って進んでいけば衝突は起こらない。そういう衝突が起こらない世界を作っていくことが期待されている。

第7回 国の強みを活かす構造改革が中国の安定成長への途

  • ゲスト 大田 弘子 氏
    政策研究大学院大学 教授

その国の持っている強みが存分に活きるような仕組みを作っていくことが構造改革である。中国の強みは大きい消費市場であるが、貧富の格差が大きいと十分その強みは発揮することはできない。今年からスタートした第12次五カ年計画は、消費主導の安定した経済構造に変えていこうというよくできた構造転換のメッセージであり、5年間でこれが実行できれば、中国経済は新しいステージ入りが実現する。また、格差があることへの不満に対し、努力すれば豊かになれるという可能性が開かれた社会の実現が重要である。

第6回 日中関係は「対等」という二文字が大事

  • ゲスト 加藤 嘉一 氏
    コラムニスト

情報発信には経験の力と若い力の両方が必要だと思う。中国は例外を排除しない土壌で、日本よりもフレキシブルであり、若い人間にチャンスを与えている。現在の日中両国は歴史上初めて同じような国力で存在しており、互いに「対等」の意識をもつことが大切。中国の長期的発展にはアメリカ的発展モデルは必ずしも適しておらず、いろいろな問題で米中間の橋渡し役を担うことが出来るのは日本だけである。

第5回 新たな発展過程への切替えを迫られる中国経済

  • ゲスト 渡辺 利夫 氏
    拓殖大学学長

中国は、台湾や韓国、日本と同様に、政府が強いリーダーシップの下産業政策を遂行し、発展が始まった。鄧小平の改革により国有企業が効率的に動き出し、その後の経済発展は日本と異なり外資主導型で進んだ。今後は、外資系企業の民族企業への転換、また成長方式の転換と成長の質の向上が中国経済の安定的成長のポイントである。

第4回 歴史に学ぶ日本の課題と中国とのつきあい方

  • ゲスト 堺屋 太一 氏
    作家、経済評論家

日本は世界の価値革命の潮流を見誤り、対応に失敗し下り坂になった。まだ、厳しい時期が何年か続いてようやく新しい日本を作る気運が出てくるのではないか。
一方、台頭する中国とつきあっていくためには、中国は巨大な国で多様な国であり、またオリジナルを重視する国であることを念頭に、中国の文化、中国の人というものを素から知っておく必要がある。

第3回 中国・日本の中央政府と地方自治

  • ゲスト 麻生 渡 氏
    前福岡県知事、前全国知事会会長

中国・日本の地方自治体間の地道な友好提携は大切である。中国では中央政府が養成した人材を地方に配置するという伝統に根ざした優れた統治システムが機能している。日本は、官僚主導から政治主導への転換があまりうまくいっていない。

第2回 高成長中国の構造的問題とその対応

  • ゲスト 河合 正弘 氏
    アジア開発銀行研究所(ADBI)所長

所得格差や貧富の格差の問題に対して中国はまだまだやれることがある。例えば税制、社会保障、教育や医療への投資。またメディアの力を活かすとともに、司法制度の整備を進めることで環境問題や公害問題に対処できる。

第1回 高度成長期の日本と現代中国

  • ゲスト 宮﨑 勇 氏
    元大和総研理事長(元経済企画庁長官)

中国は高度成長期の日本と似ているが、日本では高度化の過程で所得格差が縮小したが中国では拡大している。しかし当時の日本もけっしてうまくいく事だけではなく、多くの失敗をした。中国は課題の解決に向けて自信を持って良い。

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