日中韓FTAで注目される国際規格化戦略

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2012年06月11日

12年5月、日中韓の3政府はFTA交渉の年内開始で合意した。03年に開始された民間共同研究プロジェクトを合わせると、既に10年近くの年月をかけて議論されてきたわけだが、議論の焦点の1つが規格の統一化であった。

規格を統一すると、輸出入の管理の際、規格の違いによる表記の摺り合わせ等の無駄なコストを削減できる。また、部品製造などでは規格を共有できれば、部品等調達の最適化が進みやすい。消費者側からしてみても、たとえ輸入品でも利便性に大差はなく、普及・浸透も速い。

ただ、中国のもくろみはこれだけで留まらない。01年12月のWTO加盟以降中国の国家標準化管理委員会は積極的に国際標準化活動に参加し、一部の国内規格を国際規格に認定してもらう手続きを加速させている。237項目の提案のうち、109項目が正式採用された。同時並行で知的財産権保護への取り組みも強化されている。WIPO(世界知的所有機関)の報告では、新記録を樹立した11年の国際特許出願数で、中国の通信機器メーカーZTEの世界最多出願を主軸に中国は前年比33.4%増の16,406件、世界4位となっている。中国の狙いは、自国が特許を所有し、国内生産が得意なものが国際標準として普及すれば、自動的にライセンス料や生産受注が安定的に得られるという点である。中国は認定に必要な実績を示せる巨大な市場も持ち合わせている。

既に中国は、通信分野で自前のTD-SCDMA方式を3G規格の国際標準として世界に認められただけでなく、後続の4G規格のTD-LTE-advanced方式も国際基準として国際通信連合(ITU)に今年承認される見込みだ。11年には中国の地上デジタルテレビ規格DTMBが国際規格に承認され、ラオス・カンボジア・ミャンマーで採用となっている。このような事例を弾みにスマートテレビ、電気自動車(充電スタンドも含む)、ユビキタス・ネットワークなどの分野で自国の特許取得と国際規格への採用を加速させる。

この戦略を実現させるためにも、日韓の存在は重要である。日中韓合わせると、世界のGDP(PPPベース換算)の2割(NIEs、ASEANまで合わせると約3割)のウェイトを持つ。さらに、日本には特許出願数で世界2位のパナソニックをはじめ、シャープ、トヨタ、NEC、三菱電機など上位企業が存在し、韓国にはカリフォルニア大学やMITなどの米国勢に続いて善戦している韓国科学技術院などの教育機関がある。07年頃から高齢者や障がい者に使いやすいデザイン“アクセシブルデザイン”を追求する国際規格の提案で日中韓の連携がなされているが、日中韓FTA交渉でアジアの統一規格が誕生し、これを世界の標準として発展させる試みが前進し、国際競争力の底上げが実現するか興味深い。

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