TPP交渉を揺るがすか?「郵政民営化法改正案」

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2012年04月18日

  • 島津 洋隆
3月30日、民自公の3党の議員立法により「郵政民営化法等の一部を改正する等の法律案」(いわゆる「郵政民営化法改正案」。以下、改正案)が国会に提出された。同法案は、4月6日に衆議院郵政改革特別委員会で審議が始まり、同月12日に衆議院を通過した。今国会の会期中に成立すると見込まれている。

改正案の主なポイントは、以下の3点である。
第1に、日本郵政グループを現行の5社体制から4社体制にすることである。具体的には、現行の日本郵政株式会社の傘下にある、郵便事業会社と郵便局会社が合併し、新たに「日本郵便株式会社」(郵便局会社を存続会社とする)と変更される。
第2に、ゆうちょ銀行とかんぽ生命保険(以下、金融2社)の株式の売却について、全株式の売却期限なしの努力規定に緩和されたことである。これにより、小泉純一郎元総理大臣の郵政事業の「完全民営化」路線が後退することは否めないだろう。
第3に、日本郵政株式会社と「日本郵便株式会社」に、郵便業務及び貯金・保険の基本的サービスを、郵便局で一体的に提供する責務を課したことである(いわゆる、ユニバーサルサービスの義務付け)。

なお、より詳細な内容等については、拙稿(※1)を参考にされたい。このレポートにおいては、郵政民営化法に定められた郵政民営化委員会(※2)が改正案を如何に考えているのかを記している。

郵政民営化について、米国やEUは強い関心を抱いている。特に米国は日本にとってはTPP交渉の対象国である。その米国が日本の郵政民営化における最近の動きについて懸念を示しつつある。改正案が国会に提出されて間もなくの4月2日、米国通商代表部(USTR)が“2012 National Trade Estimate Report on Foreign Trade Barriers”(2012年版の外国貿易障壁報告書)を米国連邦議会に提出した(※3)。同報告書の211ページでは、郵政民営化におけるゆうちょ銀行、かんぽ生命保険、郵便局会社の見直しにより、日本の金融市場の競争に深刻な結果を招くおそれがあると述べられている。このことから、米国政府が小泉政権下で決定した、総選挙のテーマであった完全民営化路線を見直そうとしている改正案を問題視していることが窺えよう。

日本政府はTPP交渉参加に向けて関係国と協議しているところである。外務省はTPP協定において慎重な検討を要する可能性がある点の一つとして、金融サービス分野における郵政を挙げている(※4)。これを踏まえると、日本政府は郵政民営化の動向がTPP交渉におけるハードルになると考えていると推測できよう。

以上より、郵政民営化について、米国と日本の間に隔たりが広まりつつあることが窺える。このことはTPP交渉に少なからぬ影響をもたらすことになろう。

(※1)島津洋隆「郵政民営化法改正案」の課題(2012年4月2日 大和総研レポート)
(※2)郵政民営化委員会は、郵政民営化法第19条で定められた機関であり、郵政民営化の進捗状況について総合的な見直し等について、本部長(内閣総理大臣)等に意見を述べる役割を有する。
(※3)“2012 National Trade Estimate Report on Foreign Trade Barriers”(USTR 4月)
(※4)「TPP協定において慎重な検討を要する可能性がある主な点」(2011年11月 外務省)

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