為替操作でデフレを回避した経験

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2011年09月20日

  • 土屋 貴裕
スイス国立銀行は、スイスフランの無制限介入を宣言した。1978年から79年にかけても、スイスは金融緩和策として為替操作を用いた経験がある。

1971年のスミソニアン合意の後、スイスはスイスフランの対ドルペッグ制から離れ、フロート制に移行する(1973年)。1975年末からマネーストック(マネーサプライ)のM1の伸び率をターゲットにした金融政策を採用して引き締め政策を実施、インフレは急速に安定化しスイスフランも増価した。しかし、スイス経済にとって看過し得ないとみなされる水準までスイスフランが増価し、物価もデフレ突入寸前に至っていたが、その時点で短期金利はほぼ下限に達し、緩和余地がなくなっていたのである。

そこで、1978年にスイスフラン安定化のために実施してきた為替操作(スイスフラン売り介入)を政策手段として位置づけ、対ドイツマルクでの一時的なペッグ制を導入した(キャップ付きでスイスフランの下落は容認)。為替を操作目標とした金融政策を実施したのである。スイスフランは大幅に切り下げられ、物価は上昇に転じてデフレを回避し、翌79年には、金融政策は再びマネー量(マネタリーベースに変更)ターゲットに回帰した。

翻って、現在はどうだろうか。日本ではデフレで円高傾向が続き、さらなる金融緩和を求められている。利下げ余地が限られるなど、スイスの経験を参考にできる面があるだろう。さらに、欧州では財政問題が懸念されていることを踏まえると、対応策として日銀が欧州の国債等をオペ担保にする、あるいは「資産買入等の基金」の買入れ対象とするのはどうだろうか。ここでは、円建ての債券(サムライ債)を考えてみよう。

例えば、OECD加盟国政府が発行するサムライ債をオペ対象とした場合、得られる効果は、(1)円安を通じた金融緩和効果、(2)グローバルな金融システムの安定に貢献、となる。

1点目の緩和効果は、円安を通じたものである。サムライ債を発行した諸国は手に入れた円資金を、ユーロ等に換金するだろう。それは円安につながり、円安を通じた金融緩和につながる。円のままで利用されるのであれば、世界市場で円の流通量が増え、「円の国際化」と言うことになる。貿易決済等で円の利用が増え、日本企業の収益が為替レートに左右される度合いが軽減されるかもしれない。

2点目は、金融システムの不安定化対策である。財政状況が懸念される欧州諸国の国債を、銀行等が保有していることで、金融機関の健全性が疑念を持たれていると考えられる。日銀がオペ担保にするのであれば、新たに欧州諸国に円建て国債の発行を促すことが可能であり、資金繰り懸念の払拭に寄与することになるだろう。

スイスの事例にみるように、自国通貨の減価は金融緩和的な効果を持つ。日銀が海外の国債を購入することは、国内のデフレ対策と、グローバルな金融システムの安定化の両方に貢献することが可能と考えられよう。

【参考文献】
Bloomberg記事「デフレと生きる」(20)『日本再生させる最も確実な方法-スベンソン氏』2002年5月13日
土屋貴裕 「大和総研エコノミスト情報『デフレを回避したスイスの金融政策と日本』」2003年8月14日
櫻川昌哉「経済教室『海外資産の購入 検討を』」日本経済新聞朝刊 2010年10月14日

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