米国は保護主義的でドル安を志向するか

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2009年02月10日

  • 亀岡 裕次

米議会の上下両院の過半数を民主党が占め、大統領が民主党であるケースは、カーター政権の1977~80年、クリントン政権の93~94年にあったが、その6年のうち79年を除く5年についてはドル安となった。共和党よりも民主党は貿易に関し保護主義的で、ドル安を志向する傾向があると言われる。オバマ大統領は自動車業界など産業界への支援に前向きだ。ガイトナー財務長官は「オバマ大統領は中国が為替操作していると確信している」と発言した。また、大統領の意向を受けて修正されたとはいえ、上院の景気対策法案に公共事業で米国製品の購入を義務付ける「バイアメリカン条項」は盛り込まれた。やはりオバマ政権は保護主義的で、過去の民主党政権時と同様にドル安が進むのだろうか。

ただし、1977~78年、93~94年はいずれも世界景気が拡大局面にあり、商品市況も上向きにあった。基軸通貨であるドルは、そうした局面においては他通貨へ資金が分散することで下落しやすい傾向がある。民主党政権で、なおかつ民主党が議会を支配していれば、必ずドル安になるわけではなく、たまたま世界景気の拡大と重なったためにドル安になっただけかもしれない。2009年が始まった今、世界景気は明らかに後退している。よって、当面はドル安にはならず、むしろドル高が進む可能性があるだろう。

また、米国は貿易赤字に占める対中赤字の比率が上昇しているために、中国が為替制度を柔軟化して人民元がドルに対し上昇することを望んでいるが、今すぐにそれを強く要求する可能性は低いのではないか。ガイトナー財務長官は、「金融危機を考慮すると、目下のところは米中両国の内需安定に向けた広範な問題に焦点を当てる必要がある」、「強いドルは国益」と述べた。米国としては、景気が悪化して財政赤字と国債発行が増加しているうちは、内需回復のために長期金利の上昇を避けたいのだろう。そのためには、米財務省証券の最大の保有者である中国に買ってもらう必要があるので、売りにつながる人民元高・ドル安を要求しにくいというわけである。

中国としても、景気が悪化しているので輸出減を招く人民元高・ドル安は容認しがたい。08年8月以降はドルに対する人民元高を抑えるために、人民元売り・ドル買い介入を増やしたとみられる。08年3~7月の4ヶ月間で281億ドルしか増えなかった中国の米財務省証券保有高が、7~11月の4ヶ月間に1632億ドルも増えたのは、為替介入が一因だろう。つまり、今は米中政府ともにドル安を志向する可能性は低いのではないか。為替政策から考えても、ドル安が進みやすくなるのは、世界景気が底打ちしてからだろう。

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