脚光を浴びるベトナム

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2007年08月07日

  • 牧野 正俊
高成長が続くベトナムが脚光を浴びている。90年代後半のアジア通貨危機後に一時停滞したものの、その後は年を追うごとに成長が加速、足元では8%前後の成長率を維持している。07年1月には念願のWTO加盟が実現した。今後さらに、貿易・投資が拡大していくことが期待されている。

ベトナムが投資先として海外企業から注目を集めている背景には、若年層を中心とした人口8,300万人の国内市場の魅力に加えて、 (1)廉価な労働力、(2)投資先のリスク分散の受け皿、(3)安定した政治・社会、などが指摘できる。

まず、賃金水準については職種にもよるが、中国に比べると10~30%低く、労働集約的な加工組立業を中心に海外からの投資を誘引している。

また、05年の中国における反日運動により、中国への投資の一極集中リスクがあらためて認識されたことも、日本企業の関心をベトナムにひきつける理由のひとつとなっている。

政治・社会的な安定も、長期的な観点から投資を検討する企業にとっては重要な用件である。ベトナムでは、共産党書記長、大統領、首相の、いわゆる「トロイカ体制」によって政治が運営されているため、バランスがとれた政権運営が可能となっている。この点、一部の社会主義国やかつてアジアでみられたような開発独裁型の政権とは一線を画しているといえよう。

勿論、リスクもある。現在は相対的に低位にとどまっている賃金も、いずれ上昇圧力がかかってくるのは間違いない。廉価な労働力の利用のみを目的とした投資には限界があろう。また、全般的にインフラの立ち遅れが目立つ。このため、インフラが整備されている工業団地に外国企業の進出が集中し、既に賃料が高騰しているケースも見受けられる。さらに、政治は安定していても、行政の非効率さやあいまいな法規制など、ベトナムにもほかの途上国と同様の問題が存在する。投資を成功に導くためには、(ベトナムに限らず、テイクオフしたばかりの国への投資に共通であるが)、こうしたリスクをきちんと把握した上で、進出企業の全体戦略の中におけるベトナム事業の位置付けを明確にする一方、現地の事情に合致した柔軟な運営にあたることが必要であろう。

ベトナムの現在の一人当たりGDP(約700ドル)は、63年の日本や96年の中国と同水準である。日本の高度成長期、中国の過去10年間の経済成長を思い浮かべれば、ベトナムが同様の成長過程をたどるのでは、との期待が膨らんでくるのは当然かもしれない。ベトナムはまさに「これからの国」である。

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