普及段階に入る燃料電池

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2006年05月25日

  • 牧野 潤一
先日、地上デジタル放送「ワンセグ」用携帯電話に買い替えようと思った。しかし、現在使用している携帯電話のバッテリーの持ちが悪いことを考えると、最新携帯で果たして「地デジ」が快適に視聴できるのだろうかと思い決心がつかなかった。既に使っている人の話では3時間程度だそうである。携帯やノートPCなどモバイル機器が高度化すればするほど、最大のボトルネックはバッテリーになる。数時間では使いづらい。

この改善の切り札となる「燃料電池」が来年にも発売になる見通しという記事が先日の新聞に出ていた。試作品はすでに完成。現在のリチウムイオン電池の3~6倍の持ちが期待できるという。開発したKDDIによると、「取り扱いが簡単なメタノールから水素を取り出して酸素と化学反応させて発電。現在のリチウムイオン電池と比べると理論上は10倍は長持ちする」という。

日本での燃料電池の開発は、1981年通産省のムーンライト計画から四半世紀を経過した。来年からは携帯用に小型ライターサイズで、コンビニなどで販売されることが想定されているというのは驚きである。水素と酸素の電気化学的反応によって直接発電を行う燃料電池には、高い発電効率が得られ、また有害物質の放出もほとんどないという環境にやさしいという特徴がある。

現在、燃料電池を使用したものとしては、大きく「車両用」、「携帯用」、「家庭用固定機」、「病院やプラントなどの大型固定機」がある。特に、車両用の普及が待たれる。2002年に、トヨタとホンダが市販車としては世界で初めて燃料電池自動車を発売している。燃料電池自動車は従来のガソリンエンジン式に比べて効率がおよそ2倍以上と高く、CO2の発生量を激減させることができ、排気ガスに含まれるNOx、SOx、粒子状物質は皆無。ただ、現在の燃料電池車の1ヶ月のレンタル料で、一般車が買えるほどらしい。まだ庶民には手の届かない代物である。

もっとも、これらの燃料電池の実用化が本格化されるとすると、エネルギー供給構造を激変させ、産業構造も変革し、2010年までに国内では約1兆円が見込まれる巨大市場とも言われている。関連産業、雇用への大きな波及効果、競争力強化が期待される。

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