「新しい経済政策パッケージ」と財政再建

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2017年12月14日

  • リサーチ本部 執行役員 リサーチ担当 鈴木 準

12月8日に閣議決定された「新しい経済政策パッケージ」は、人づくり革命と生産性革命を二本柱としている。その内容に様々な論評がきかれるが、人々の希望がかなうようにし、生活水準を向上させようとすることに反対はないだろう。ただ、何をするにも一定の費用は要る。いかに費用対効果の高い政策になっているかが問題である。


政策に費用がかかるとは、政府の歳出を拡大させることである。二つの革命の成果として、いつどのくらい税収が増えるかは分からない。歳出を増やせば当面の財政収支が悪化するが、今回の政策パッケージは「20年度のプライマリーバランス黒字化目標の達成は困難となる。ただし、財政健全化の旗は決して降ろさず、不断の歳入・歳出改革努力を徹底し、プライマリーバランスの黒字化を目指すという目標自体はしっかり堅持する」とした。


17年11月のOECD Economic Outlookのデータによると、直近10年間(08~17年)における基調的なプライマリーバランスのGDP比の累積は、31ヵ国中黒字が15ヵ国、赤字が16ヵ国である。リーマン・ショックの影響を含めても約半分は黒字だ。主要国を見ると、イタリア27.1%pt、ドイツ11.1%pt、カナダ▲3.0%pt、フランス▲13.8%pt、米国▲34.7%pt、▲英国36.0%ptであるのに対し、日本は▲57.8%pt。それだけ政府の純債務が増えたわけで、日本の構造的な財政赤字体質は際立っている。


新しい経済政策パッケージは「これまでの経済・財政一体改革の取組を精査した上で、来年の『経済財政運営と改革の基本方針』において、プライマリーバランス黒字化の達成時期、その裏付けとなる具体的かつ実効性の高い計画を示すこととする」とも述べた。15年度に策定されて進められてきた経済・財政一体改革では、18年度に中間評価を行って19年度以降の追加措置を検討することになっている。


12月13日に開催された経済財政諮問会議の専門調査会では、改革に関するKPIの進捗などの確認が行われ、全体的に一定程度の進捗はしているものの、特に民間部門等への働きかけによって改革を進める必要がある社会保障分野で進捗に時間がかかっていることが明らかにされた。経済・財政一体改革は、医療保険や地方行政など現場での改善努力に大きな期待を寄せた改革である。合理的で持続性のある歳出構造を実現するに際して、現場のことは現場が決めるべきであり、努力した主体が報われるインセンティブ設計が改革のカギと考えられている。


仮にそうした哲学の改革が失敗に終わり、金利負担の増加もあいまって政府債務の膨張が止まらないことがいよいよ明らかになれば、現場を無視したトップダウン型の調整が余儀なくされる恐れがある。今年も間もなく終わるが、来年の「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)は、子供たちや将来世代に対する責任という点で、例年にも増して重要なものとなるだろう。

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鈴木 準
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