墓不足の今、「捨てられた墓」をどう活用するか

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2017年11月27日

  • 経済調査部 研究員 廣野 洋太

近年、墓や墓地(※1)に関する問題が社会的に注目されている。報道などで取り上げられる機会が多いのは、都市部における墓不足と利用者(承継者)の見つからない「無縁墓」の問題だ。無縁墓の問題は、人口流出・減少が著しい地方における問題だと思われがちだが都市部でも問題になっているという。


無縁墓問題は、高齢者などが自分自身の墓の将来を心配している事例が取り上げられることが多いが、墓地運営上も大きな問題となり得る。なぜなら、無縁化した墓は簡単には整理できないからである。


墓を移動させたり、無縁化した墓を整理したりすることは「改葬」と呼ばれる。改葬の手続きは、「墓地、埋葬等に関する法律」(以下、墓埋法)の中で決められ、基本的には墓利用者の権利を守るように制度設計されている。具体的には、無縁化した墓の権利者への周知のために立て札の設置や官報への掲載を行うこと、周知後一年間は利用者が現れるのを待つことなどの規定がある。ただし、明らかに参拝された形跡が見られる時など、墓埋法の手続きを守っていたとしてもその墓を改葬することができないことがあり、最悪の場合、裁判沙汰になるケースもある。改葬には手間と時間がかかるのである。


このように使われない墓がある一方で、新しい墓への需要は旺盛である。都市やその近郊では新規の墓地建設も多いと聞く。だが、使われない墓をそのままにして、新しい墓を作るということは二つの意味でもったいないと筆者は考える。


まず、使われない墓を適切に整理してスペースを作れば、新しい墓をそこに作ることができる。墓が不足する理由の一つに、新規の墓地建設は周辺住民の反発が強いことがある。基本的に周辺住民との合意形成が済んでいる既存の墓地において利用されていない墓があるならば、そのスペースを活用しない手はないだろう。


さらに、墓地という用途はその土地の可能性をつぶしてしまいかねない。なぜなら、一度墓地にした土地をほかの用途に転用することは簡単ではないからだ。心理的にもともと墓地だった土地を利用したがる人が少ないというだけではない。墓地には公益性が求められるため、利用者が減り墓地の収益性が著しく下がっても、利用者がゼロにならない限りは簡単には運営をやめられないのである。


日本はすでに多死社会を迎えている。しかし、死亡者はいずれ減少し、墓を承継していく人口も減る。現在の墓に関する文化や制度に大きな変化がない限り、無縁墓の問題は深刻化する可能性が高い。墓不足に対応するために新しい墓地を作る前に、今ある墓地をどう活用していくかを考える必要があるのではないだろうか。


(※1)本稿では、個別の墓石・区画のことを「墓」、墓が集積している場所や施設を「墓地」としている。

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