マイナンバー告知とマイナンバーカードの普及は還付とセットで

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2017年11月22日

  • 吉井 一洋

11月13日から、マイナンバーの仕組みを用いた情報連携が本格稼働し始めている。それと同時に、マイナポータルも本格的な利用が可能となった。情報連携により、これまで行政手続上必要であった書類提出のうちかなりのものは不要となる。マイナポータルの利用者は、行政機関が持つ自己情報やそのやりとりの確認の他、行政機関からの通知、子育てなどに関する行政サービスの検索やオンラインでの申込み、行政機関や民間事業者からのお知らせの受取り、ネットバンキングやクレジット・カードを活用した公金決済サービスが可能となる。
マイナポータル開設には、マイナンバーカードに内蔵された公的個人認証機能の活用が前提となる。しかし、マイナンバーカードの普及は2017年8月末時点で9.6%に留まっている(出所:総務省「マイナンバー交付状況」)。政府は、マイキープラットフォーム構想を始め、マイナンバーカードに多様なサービスを付加しているが、マイナンバーカードである必要性があまり感じられないサービスも多いように思われる。
他方、2016年のマイナンバー導入時に既に存在した証券取引口座に関しては、マイナンバーの告知の経過期間が2018年末に終了するが、現状では、NISA以外の口座の番号の告知は半分にも及んでいない模様である。告知のメリットに乏しく、納税者番号制度的な色彩が強い状況では、自ら進んでマイナンバーを告知する納税者は、あまりいないということであろう。2018年からはさらに預貯金のマイナンバーの告知が始まるが、告知は任意とされており、新規口座はともかく、既存の預金口座について自らマイナンバーを告知する預金者は多くないであろうことは容易に想像がつく。


マイナンバーカードの取得とマイナンバーの告知を進めるためには、納税者がメリットを感じることが重要であろう。例えば、税金の還付を自動的に受けられるような仕組みとセットにすれば、これらが進むのではないか。金融取引に関しては、特定口座(将来的には預金の利子)を税務当局が名寄せして損益通算を行い、オンラインで自動的に還付するシステムを導入するなど、還付とセットにする仕組みを作れば、マイナンバーカードの取得とマイナンバーの告知が進む一助となる可能性がある。
政府の税制調査会では、税務手続のICT化への対応を検討しているが、11月20日時点の中間報告案(※1)では、医療費控除等の控除に関する言及はあるものの、「還付」という言葉は一度も出てこない。マイナンバー導入の際の民間事業者の負担は大きなものであった。せっかく導入したのなら、単なる事務手続の改善ではなく、マイナンバーを用いて名寄せした情報を、還付の簡素化や、記入済み申告制のような抜本的な納税事務の簡素化に活かすといったことも考えていいのではないかと思われる。


金融機関へのマイナンバーへの告知を簡素化する方法として、大和証券ではスマホを活用したオンラインでの告知を可能としている。地域の証券会社や金融機関がマイナンバーを収集するのに有効な手段となりうるのではないか。またITが苦手な高齢者向けにケーブルテレビとマイナンバーカードを用いて、行政機関やマイナポータルにアクセスする仕組みも実験的にスタートしている。この仕組みを金融機関へのマイナンバーの告知や取引にも利用することも考えられる。後者については、運転免許証の返上により「足」を失った地方の高齢者にとっては、代替するアクセス手段となるかもしれない。政府の対応と共に、民間の事業者の工夫も求められるところであろう。


(※1)「経済社会の構造変化を踏まえた税制のあり方に関する中間報告②(案)(税務手続の電子化等の推進、個人所得課税の見直し)」(平成29年11月20日)

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