幼児教育の無償化は、小売業や飲食サービス業に打撃?

2017年10月23日

今回の衆院選では幼児教育の無償化が注目された。幼児期の教育は、生涯にわたる人格形成の基礎となる重要なものであるとの認識から、すべての子どもに質の高い幼児教育を保証するべき、との考えがその背景にある。幼児教育の無償化によって、こうした将来的な人づくりだけでなく、子育て世帯の負担が軽減されることで、消費を増やす効果も期待されているようだ。

しかし、幼児教育の無償化は、高所得世帯に対するメリットが大きく、教育格差を拡大させるとの指摘もある。また財政再建の遅れとなる点も大きな課題だ。さらに、小売業や飲食サービス業にとっては、思わぬマイナスの影響があるかもしれない。

今回、教育の無償化が検討されているのは3~5歳児(※1)だが、対象となる子を育てている世帯の数は約300万世帯である(※2)。そのうち、約110万世帯が共働き世帯とみられる。近年、政府や企業が女性活躍促進への取り組みを積極化させており、育児中の母親でも就労可能な環境が整備されてきた効果は大きいようだ。

しかしながら、就労する女性の6割が非正規雇用である(※3)。中でもパート・アルバイトが多く、女性雇用者全体の44%に上る。政府は、この状況を改善すべく働き方改革を進めているが、パートで働く女性の多くが、さまざまな事情から、今後も都合の良い時間に短時間だけ働きたいと考えている(※4)

現在、約37万人の母親(末子3~5歳)がパート等で働いていると推計されるが(※5)、パートで働く理由(複数回答)には、何らかの家計の足しにするためというのが多い。さらに、教育費などが理由である割合(23.6%)も少なくない(※6)。この教育費などが理由の割合を、前出のパートで働く母親の数に対応させると、およそ9万人(※7)の母親が子どもの幼稚園や保育所等の教育費を補うためにパートで働いている可能性があると考えられる(※8)

衆院選で掲げられた通り、3~5歳児の教育費が無償化された場合、もちろん浮いた教育費を他の消費に振り向けるケースは多いだろう。しかし、もし子どもの幼稚園や保育所の費用をパートで賄う必要がなくなると捉えられた場合、最大で約9万人の母親が労働市場から退出する可能性があるとも考えられる。これは、近年問題化している介護離職(2015年時点で年間9万人)と同等規模の人材流出となるため、現実となれば、無視できる規模のものではないだろう。

特に、女性のパート比率が高い小売業や飲食サービス業(※9)にとっては、打撃となる懸念もある。これらの産業にとっては、就学前教育の無償化が、一部の世帯にとってパート就労による稼働所得の必要性を薄れさせるため、パート人材不足というマイナス要因として影響する可能性がある。こうした状況を回避するためには、女性の家計補助的な働き方を減らすよう、就労調整を意識させる税制度の見直しや、預かり・延長保育サービスの一層の充実が欠かせない。

幼児教育無償化については、財政規律の緩みはもちろん、それ以外のマイナス面の可能性についても考慮して政策を進めるべきであろう。

(※1)低所得世帯については0~2歳児も対象。なお、以下の記述は本稿執筆時点(2017年10月19日)における与党内の検討事項に基づく。
(※2)片親の世帯等も含む(総務省統計局「平成27年国勢調査」)。
(※3)総務省統計局「平成28年 労働力調査年報」
(※4)厚生労働省「平成28 年パートタイム労働者総合実態調査の概況」
(※5)女性パート比率を年齢階級別に、3~5歳児(末子)を育てる共働き世帯数に対応させた。
(※6)厚生労働省「平成28 年パートタイム労働者総合実態調査の概況」
(※7)「子どもの教育費や仕送りの足しにするため」パートで働いている女性の割合23.6%をパートで働く37.1万人の母親の数にかけた場合、8.8万人。また、年齢階級別(男女計)に対応させた場合、9.5万人。
(※8)中には、将来の就学期に向けた教育費の準備であるケースもあるだろうが、暮らし向きについてのアンケート調査では、末子の年齢6~8歳、12~14歳に次いで、3~5歳を「苦しい」と回答するふたり親世帯の割合が大きい(独立行政法人労働政策研究・研修機構[2012]「子どものいる世帯の生活状況および保護者の就業に関する調査」(2012年3月))。
(※9)脚注3と同じ。

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