議論になる100歳のお祝いの銀杯

RSS

2017年09月26日

  • 亀井 亜希子

2017年度、全国で、新たに32,097人(女性27,461人、男性4,636人)が100歳を迎える(※1)。前年度より350人増加し過去最多となった。最も多い都道府県は東京都の2,720人、政令指定都市の中では横浜市の661人が最も多かった。1917~18年(大正6~7年)に生まれた人々であり、100歳を迎える人数の割合は、当時の年間出生数約180万人(※2)に対して1.8%である。女性は約88万人に対し3.1%、男性は約90万人に対し0.5%である。

1963年の老人福祉法制定により9月15日を「老人の日」に定めて以降、100歳を迎える高齢者には、百歳高齢者記念事業として、内閣総理大臣と現住所のある都道府県知事、市区町村長の3者それぞれより、祝状及び記念品が贈呈されてきた(※3)。知事や市区町村長からの記念品の内容は各地で異なるが(記念品を廃止した地域もある)、内閣総理大臣からの記念品は「銀杯」である。杯の中央に「寿」の文字、裏面には年月日と「内閣総理大臣」の文字が刻まれている。

この「銀杯」の位置付けが、2015年6月に行われた有識者による行政事業レビューにおいて抜本的改善の対象とされた(※4)のをきっかけに大きく変わった。

長年、「銀杯」は純銀製であったが、2016年度からは、洋銀製(銅、亜鉛、ニッケルの合金の表面を銀メッキ処理したもの)に変更になった。それに伴い、1杯当たりの価格が約7,600円から約3,800円と半額になり、厚生労働省予算における当事業費も、2.7億円(2015年度予算額)から1.5億円(2016年度予算額 案)(※5)へと1.2億円縮減された。

厚生労働省が2015年10月に都道府県・指定都市・中核市に対して行ったアンケート調査で回答した112団体の7割超である82団体が「何らかの形で記念品の贈呈を継続」していくべきと考えていることがわかった。また、コスト削減を図るための記念品の見直しについて、継続したほうがよいと回答した自治体の過半である46団体が「銀杯の材質を洋銀へ変更」を選択した(※5)。これが決定打となり、議論の結果、記念品を「銀杯」とすることは維持され、材質変更により対応されることとなった。

百歳高齢者記念事業が始まった1963年当時は100歳以上の高齢者数が合計で153人であり、厚生労働省の当事業予算は100万円にも満たなかった。その後、長寿化に伴い、新たに100歳を迎える高齢者数は、2003年度に1万人超、2009年度に2万人超、2015年度には3万人超と、大きく増加した(図表)。

100歳を迎える方々は今後も増加が見込まれ、2020年度には4万人に近づくと推測される。実は2015年度の「銀杯」の見直し議論は、2009年度に続き2回目だった。2020年度前後にも議論の再燃が想定され、今度は「銀杯」でない記念品に変更、もしくは廃止になる可能性もあるだろう。

厚生労働省が2013年3月に行った都道府県・政令指定都市・中核市108団体に対して行ったアンケート調査では、記念品(銀杯)贈呈時の対象者又はその周囲の方(対象者の家族・親族・入所している施設の職員等)の反応は87%が「喜ばれる」と回答している(※6)。その一方で「祝状とセットで渡しているため銀杯単独の効果はわからない」という意見もあり、本当の効果はよくわからない。モノに対する価値観や国家観も人それぞれである。

私の祖母も今年度100歳を迎える1人である。90代になってからは体調悪化も色々あったが、現在もこうして穏やかに過ごしているのは、通院先の主治医・看護師の方々、デイサービスの職員の方々等の献身的で温かなご支援の積み重ねのおかげでもある。我が家にも100歳の祝状や記念品が届いたが、本人は特に関心を示すこともなく、マイペースに過ごしている。むしろ、他の事業所のデイサービスに移る時に長年お世話になったデイサービスの職員の方々から頂いた卒業証書(集合写真と寄せ書き)をよく眺めている。

人は高齢になるほど、身体の衰えと共に周囲の援助が必要となり、1人だけでは生きられない。100歳の祝状と記念品は、100歳を迎える本人の健康長寿に対する祝福とこれまでの社会に対する貢献への感謝を表したものだが、内閣総理大臣からの「銀杯」が見直されるとしたら、家族の思いとしては、その分を本人の人生に寄り添い日々支え続けている医療・介護関係者への賞賛にあててもらいたい。

当年度中に100歳になる高齢者数の推移(2003~2017年度)

(※1)2017年度中に100歳に到達し、又は到達する見込みの者(1917年4月1日~1918年3月31日に出生した者)のうち、2017年9月15日時点に存命の人。(出所:厚生労働省プレスリリース「百歳高齢者表彰の対象者は32,097人」(平成29年9月15日))
(※2)総務省「日本の長期統計系列」
(※3)1963年度は、100歳以上の高齢者全員(153人)に対して贈呈した。
(※4)内閣官房「平成27年行政事業レビュー公開プロセス 結果」
(※5)厚生労働省「百歳高齢者記念事業の記念品(銀杯)の見直しについて」
(※6)厚生労働省「高齢者の日常生活支援の推進に必要な経費(百歳高齢者記念事業)」

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。