インバウンド観光:New-FITの可能性

2017年9月8日

  • リサーチ業務部 主席研究員 兼 社会連携担当 岡野 武志

訪日旅行者数の増加が続く中、観光・レジャーを主な来訪目的とする訪日旅行者(訪日観光客)の比率は緩やかに上昇している。この比率から計算すると、2017年4-6月期(17年2Q)は、訪日観光客数が四半期ベースで初めて5百万人を超えたことになる(図表1)(※1)。アジアからの旅行者は、観光・レジャーを主な来訪目的とする比率が高く、17年2Qは、近隣の韓国、中国、台湾からの訪日観光客だけでも約350万人に上る。最近では、団体パッケージツアーや個人旅行向けパッケージに参加せず、往復の航空(船舶)部分だけを購入する訪日観光客が増加している。欧米等を中心とするFIT(Free Individual Traveler)(※2)に加え、“New-FIT”とも呼べる自由な観光客が、アジアにも広がってきた可能性がある。

図表1)訪日観光客数の推移:旅行前支出

欧米等からの旅行者に比べると、アジアからの訪日観光客は再訪者の比率が高く、滞在期間は短い傾向がある。何度目かの訪日になると、日本についての知識や経験が増え、大都市や有名な観光地以外にも、目的地の選択肢が広がりやすくなる。滞在期間が短い旅行では、直行便等があれば、目的地の近くから入国する方が、時間や費用を節約することができる。訪日観光客が入国した空港・海港別に見ると、成田・羽田空港だけでなく、関空やその他の空港・海港からの入国者数も増加している(図表2)。SNSなどから多様な情報が発信される今日では、これまで観光客が少なかった地域でも、一夜にして知名度が高まることもあり得る。New-FITの目的地となる可能性は、日本の各地にあるといえよう。

図表2)訪日観光客数の推移:入国空港・海港

訪日観光客を世帯年収別に見ると、世帯年収500万円未満の層が次第に大きくなり、最近では全体の6割程度を占めている(図表3)。価格比較サイトなどから、割安な渡航方法を探し出す訪日観光客は、費用対効果への感度が高く、消費についての選択基準も厳しいことが想定される。どこでも見かけるような土産物や地域外からの食材を中心とする料理、高度成長期のような1泊2食型宿泊サービスなどには、財布の紐は緩まないかもしれない。訪日観光客は「日本滞在中に役に立った旅行情報源(複数回答)」として、「インターネット(スマートフォン)」を挙げる比率が高まっている(※3)。自由に行動するNew-FITは、納得できる価値が見つからなければ、次の目的地を検索して、立ち去ってしまう可能性もある。

図表3)訪日観光客数の推移:世帯年収

訪日観光の目的地に選ばれたとしても、来訪者に不満足な体験が重なれば、その体験は口コミ情報として拡散しやすく、ほかの観光客にも瞬く間に伝わることになる。観光客の来訪が一時のブームに終わってしまえば、後には不採算な事業や過剰な投資だけが残ることにもなりかねない。それでも、世界の国際観光旅行は今後も拡大が予想され、アジアから海外に向かう観光客数も、さらに増加することが見込まれる。観光を地域の活性化に結びつける取り組みが進む中、日本各地の空港や海港から、アジアの国々を結ぶ交通網も広がりつつある。その地域ならではの価値で、心をつかむことができれば、何度も訪日することができるNew-FITは、地域のリピーターやファンになる可能性も秘めている。

(※1)「統計データ(訪日外国人・出国日本人)」日本政府観光局(JNTO)「訪日外国人消費動向調査」観光庁
本稿では、「統計データ(訪日外国人・出国日本人)」の公表数値と「訪日外国人消費動向調査」に示されている各種比率に基づいて、訪日観光客数等の数値を算出している。
(※2) FITについては、F(Free/Foreign)、I(Individual/Independent)、T(Tour/Travel/Traveler )など、複数の表記があり、それぞれ意味する内容が異なることもある。
(※3)「訪日外国人消費動向調査:集計表=日本滞在中に役に立った旅行情報源(複数回答)」観光庁

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