経済の牽引役として期待される日本の環境産業

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2017年09月06日

  • 伊藤 正晴

2012年6月に開催された「国連持続可能な開発会議(リオ+20)」では、持続的成長には経済成長と環境保護を両立させる「グリーン経済」が重要な手段として位置付けられた。その後、地球温暖化問題について、2016年11月にパリ協定が発効し、世界的に温室効果ガスの排出削減が求められている。IEA(国際エネルギー機関)の“World Energy Outlook 2016”は、パリ協定における約束草案を織り込んだ「中心シナリオ」で、2040年までのエネルギー投資に44兆ドル、エネルギー効率の改善に23兆ドルが必要としている。環境問題への対応には巨額の資金を必要とするが、これは環境産業にとってはビジネスチャンスの拡大に他ならない。

2017年6月に「未来投資戦略2017 -Society 5.0の実現に向けた改革-」が閣議決定された。「エネルギー・環境制約の克服と投資の拡大」として、省エネルギーの推進、再生可能エネルギーの導入促進、日本のエネルギー・環境産業の国際展開の推進などが指摘され、環境産業が日本経済の成長に資することが期待されている。では、日本経済において環境産業はどの程度の規模を占めているのであろうか。

2017年7月に公表された、環境省の環境産業市場規模検討会「環境産業の市場規模・雇用規模等に関する報告書」によると、2000年に58.0兆円であった国内環境産業の市場規模は、2015年には104.3兆円に成長したと推計されている。なかでも、地球温暖化対策分野の市場規模の拡大が著しく、2000年当時は分野別で最も小さい3.8兆円で環境産業全体の1割にも満たなかったが、2015年には廃棄物処理・資源有効利用の43.9兆円に次ぐ37.8兆円にまで拡大している。また、2015年の環境産業の付加価値額は39.9兆円と推計されており、名目GDPに対する比率は2000年の5.4%から2015年には8.0%へと高まっている。環境産業の動向が日本の経済成長に与える影響は大きくなっている。

報告書では、2050年までの市場推計も行われている。環境産業全体の市場規模は、2050年には144.6兆円にまで拡大し、なかでも地球温暖化対策は63.0兆円で分野別で最大となる。環境産業を担う雇用は2014年の268万人から2030年には290万人まで増加した後、2050年は287万人と推計されている。生産年齢人口全体に占める割合は上昇が続き、2014年の3.4%が2050年には5.7%まで高まるとしている。あくまでも統計的なモデルによる推計であるが、環境産業は市場規模の面でも、雇用の面でも拡大が予想されているのである。

グリーン経済への移行には、地球温暖化問題、水の問題、廃棄物の発生量の増大など解決すべき世界的な環境課題が存在している。公害対策などの経験や高い技術力を持つ日本の環境産業にとって、これら環境課題への取り組みは大きな機会と考えられよう。また、FIT(再生可能エネルギーの固定買取制度)の導入で、2012年から再生可能エネルギー分野が急激に成長したり、エコカー減税等で自動車の低燃費化分野が伸びたりするなど、環境産業の成長には政策が大きな影響を与える。企業努力とともに政府が適切な施策を実施することで、環境産業が日本経済の牽引役のひとつとして寄与することが期待される。

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