諸子百家の時代を 覗いてみた

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2017年07月11日

  • 佐井 吾光

「不連続の時代」である。米国では、誰もが予想もしない大統領の登場、フランスでは最年少の大統領、隣国の韓国では、現職の大統領が歴史上初めて弾劾される。
一方、日本では、初の女性東京都知事の誕生や、いくつもの伝統ある名門企業の危機が報じられている。このような「不連続の時代」は5年後を見通すことが難しい時代とも言われている。一方で、だからこそ、歴史的遠近感を持って、同時代を俯瞰することが必要なのではないか。
そこで、不連続の象徴的時代である、戦国時代の知恵者から現代を生き抜くヒントを見つけてみる。戦国時代と言っても日本の戦国時代ではなく、中国のそれであり、紀元前の時代である。諸子百家の時代(紀元前5~3世紀)の戦国時代は中国思想史の黄金時代であった。孔子、墨子、孟子、老子、荘子、韓非子らを輩出した時代である。諸子百家の時代の思想家の著作のなかに、現在の不連続の時代を生き抜く「知恵」があるかもしれない。ちょっと、覗いてみた。

「諸子百家」とは、戦国時代に入り、各国は富国強兵に役立つ人材の需要が高まり、諸子(諸先生)の思想家を生み出し、百家(百学派)を生んだ。これが諸子百家である。
3世紀以上にわたって続けられた戦国時代を終結させる役割を担った思想家は荀子(紀元前340年~245年)である。諸子百家の諸学説を批判しながら、その精華を摂取し、中国古代思想を総合して体系を完成させたのが荀子である。彼の門下生の韓非子はとみに有名である。乱世統一の思想的な基盤として有名な韓非子は広く読まれている。
中国では、三流の人は「三国志」、二流が「孫子」、そして一流は「韓非子」を読むといわれている。しかし、その師匠にあたる荀子はアリストテレスに対比されることが多いが、上記に比べ、あまり読まれていないように思われる。
もったいないことである。統治理論の基本として荀子を読み、そこに、今日的な意味での企業経営のヒントを見つけてみる。

◆どんな凡人も聖人になれる 塵も積もれば
駄馬でも10日走り続ければ名馬の1日行程は楽に進むことができる、といっている。荀子の教育論であり、人間に先天的な個人差などありえず、教育によってすぐれた人物になることが可能ということである。

これは、人材教育の重要さを謳っていると思われる。

◆原則がぐらぐらしてはいけない
上が分裂すれば下も分裂する、たとえば草木のように、枝葉は必ずその根によって形が決まる。

これは、エクセレント・カンパニーの基本8要素のひとつ「基軸から離れない」に通じる。

◆心の迷い
人間は物事の一面に惑わされて全体を把握できないという弱点がある。心が惑わされるのは、好悪の感情に左右されるからだ。

これは、松下幸之助が経営で一番大切なものは「素直」であるといったことに通じる。

◆共通の言葉がないと混乱する
もし、人々の間に共通した言葉がなかったら、同じものでも別々の名前で呼ばれ混乱する。共通の言葉がないと協働作業は成り立たない。

これは、ビジネスの現場で、ビジネスの共通語として、バランス・スコアカードや3Cや4Pといったフレームワークが用いられるようになった今日を見越しているようである。

◆実践はいかに重要か
聞かないより聞くほうがいい、聞くより見る方がいい、見るよりわかるほうがいい、わかるより実践するほうがいい。聖人は少しも過ちを犯さない、なぜなら学んだことを必ず実践するから。

これは、カルロス・ゴーンのいう「implementation is everything」に通じる。

今日のビジネスパーソンは極めて忙しい。手軽に読めるビジネス書を何冊も手に取るが、なかなか身につかないことを筆者も実感している。週末に、これまで積読していた書物を紐解いてみた。諸兄のご参考になれば幸いである。

【参考文献】
・『諸子百家—中国古代の思想家たち—』貝塚茂樹著、岩波書店、1961年
・『荀子』杉本達夫訳、徳間書店、1996年
・『ゴーン・ファクター』Miguel Rivas-Micoud著、松本茂監訳、マグロヒル、2005年
・『エクセレント・カンパニー』T.J.ピーターズ&R.H.ウォーターマン著、大前研一訳講談社、1983年

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