格差問題への視点

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2017年03月17日

  • 大和総研 顧問 岡野 進

格差拡大問題に関心が集まっているようだ。主に所得格差の拡大についてのデータ、代表的にはジニ係数の上昇が議論になっている。

格差拡大は悪であり是正しなければならないものであるとは必ずしも言い切れない。市場における公正な競争の結果としての格差を全否定してしまうと経済は円滑に運営できなくなるという現実がある。格差の拡大がどのような要因によるものなのかを吟味し、そのうえでどのような改善が可能なのかを考えていく視点が必要であると思う。

まず、事実として日本で所得格差が拡大しているのかどうかという点についてみると、人口の高齢化(所得が少ない高齢者の比率が増加したこと)が大きな要因となり、見た目のジニ係数が上がっていることは事実である。しかし、この部分は年金などの再分配効果によってかなり緩和されている。一方で、それでは説明しきれない所得格差の拡大も起きているようである。その要因として、非正規雇用の拡大にともなって雇用者間の所得格差が生まれていることが指摘されている。この格差に対する改善策は、種々の条件の違いを合理的に考慮しながら、同一労働同一賃金に近づけていくことで、不合理な格差の拡大を緩和することだと思われる。働き方に様々なバリエーションがあることで雇用機会が生まれてくるという側面もあるので、すべての労働者の働き方を正規のフルタイムに近づけていこうとするのは誤りだろう。

同時に雇用情勢に配慮したマクロ政策運営が大切であるということも言えるかもしれない。非正規労働者が増加した背景には過去の長期不況という状況があり、企業が正規労働者の採用を大きく削減したということが原因になっていたからである。その後も中途での正規労働者の採用も不十分であった。これはこれまでの日本企業の特に採用面での雇用慣行が障害であったように思われる。

雇用者間での格差問題もさることながら、もっとも大きな問題は、国民全体での生涯所得の格差や資産の格差の実態がどうかである。勤労者層の生涯所得に関して言えば、教育の機会均等を図ることができるか、というのが出発点になるだろう。近年、奨学金の改革が課題となってきているが、単純に給付型の割合を増やせばよいというわけでもないのではないか。もちろん高等教育を受ける能力を持った学生に機会を与えられるようにすることは大切であるし、若年世代が奨学金の返済に追われるという状況は改善すべきだろう。しかし、高等教育を受けた受益者本人に「出世払い」してもらうという考えにも一理ある。これには累進制の税制が役割を担えるかもしれない。また現在の産業構造変化にあわせて、高等教育をより学生の能力を引き出すものに改革していくことも必要だろう。

一方、資産格差は、本人の働きとは関係なく時間とともに拡大するという基本的な性格を持っている。これは社会の活力をそぐ要因にもなりかねない。これまで、所得格差の問題が主にクローズアップされてきたが、資産格差という点にも目を向けていく必要があるように思われる。

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