環境短観で見る環境ビジネスの業況

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2017年03月15日

  • 伊藤 正晴

2016年1月に発効した「持続可能な開発目標(SDGs)」では、天然資源の持続可能な管理、気候変動への緊急な対応など環境に関する目標が掲げられている。また、2016年11月には気候変動に関する国際的な枠組みであるパリ協定が発効した。持続可能な社会の構築に向けて、環境問題への対応が世界的な課題となっているのである。公害対策などの経験や高い技術力を持つ日本の環境ビジネスにとって、これら環境に関する課題への取り組みは大きな機会と考えられよう。そこで、環境省が環境ビジネスに対する認識や取り組み状況などを把握するために民間企業を対象として実施している「環境経済観測調査(環境短観)」で、日本の環境ビジネスの業況を概観する。

2017年2月27日に公表された環境省「平成28年12月環境経済観測調査(環境短観)」によると、環境ビジネスを実施している企業から見た自社の環境ビジネス全体の「現在」(平成28年12月)の業況DI(※1)は20であった。調査時点での業況DIは、平成26年6月から20を少し超える水準を推移した後、前回調査(平成28年6月)に16と下がったが、再び同程度の水準へと上昇している。また、「半年先」の業況DIも20となっているが、「10年先」は22へと上昇し、長期的に環境ビジネスが好調と判断しているようである。

調査では、環境ビジネスを4つの分野に分けている。「現在」の業況DIは「環境汚染防止」が16、「地球温暖化対策」が26、「廃棄物処理・資源有効利用」が11、「自然環境保全」が14となっており、すべての分野で業況DIがプラスとなっているが、特に地球温暖化対策関連のビジネスの業況が好調なようである。また、「半年先」と「10年先」も「地球温暖化対策」の業況DIはそれぞれ26と29であり、好調が持続するとみているようである。

どのようなビジネスが好調であるかをより具体的に見るために、「我が国で発展していると考える環境ビジネス」に対する回答を見ると、「現在」と「半年先」は「省エネルギー自動車」と回答する割合が最も高く、「10年先」では「再生可能エネルギー」(※2)と回答する割合が最も高い。過去の調査を見ると、調査開始の平成22年12月調査から「現在」は「省エネルギー自動車」の回答割合が最も高く、平成23年6月調査を除いて「半年先」も「省エネルギー自動車」と回答した割合が最も高い(※3)。電気自動車やハイブリッド自動車等の保有台数を調べると、平成23年度末の約206万台から毎年100万台程度増加し、平成27年度末には約590万台に達している(※4)。保有台数の増加が続いていることが環境短観での「省エネルギー自動車」の好調さを裏付けよう。

このように、環境短観の調査では「省エネルギー自動車」や「再生可能エネルギー」などの「地球温暖化対策」関連ビジネスが環境ビジネス拡大の牽引役となることが期待されているようである。ただ、例えば平成28年2月に実施された環境省「環境にやさしいライフスタイル実態調査」の「環境配慮商品への興味及び購入する際に望む支援等」という質問では、行政に望む支援として「補助金(エコポイントなど)」や「税金の減免」を選択した人が多いように、今後の日本の環境ビジネスの発展には、官民一体となった取り組みをさらに進めることを要しよう。日本の環境ビジネスの成長が社会の持続可能性の向上に寄与するとともに、日本経済の成長につながることが期待される。

(※1)「現在」「半年先」「10年先」の3つの時点を対象として、業況が「良い」「さほど良くない」「悪い」の3つの選択肢を提示し、業況DIは「良い」と回答した企業の比率と「悪い」と回答した企業の比率の差で算出されている。
(※2)風力発電/水力発電/地熱発電/太陽熱利用/バイオガス発電/中小水力発電等の装置製造及び新エネ売電ビジネス等で、太陽光発電システムは別分類となっている。
(※3)平成23年度に環境産業分類が変更されており、平成22年12月調査では「環境配慮型自動車」となっている。
(※4)一般社団法人 次世代自動車振興センター「EV等 保有台数統計」におけるEV(電気自動車)、PHV(プラグインハイブリッド自動車)、FCV(燃料電池自動車)、HEV(ハイブリッド自動車)の合計。

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