一億総商人社会の始まり?

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2017年01月23日

  • 笠原 滝平

自身のクレジットカードの明細を眺めると、以前よりインターネットでの買い物が増えたと感じる。携帯電話からスマートフォンに替わり画面上で画像を含めより多くの情報を得られるようになったこと、他の消費者によるレビューの蓄積などが私自身の購入経路の変化につながったと思う。統計データを見ると、インターネットショッピングの利用率は年々上昇が続いていることから、消費行動の変化は私だけではないだろう(※1)

さらに、今までのインターネットショッピングは店舗のウェブサイトで品物を買うことが中心であったが、最近では個人間取引が活発になっている。個人間取引のプラットフォームがいくつも開設され、一部のサイトでは価格交渉が行われたり、自作の商品を販売したりしているところもあるようだ。まさに技術革新によって消費者の行動に変化が生じていることを表しているのではないだろうか。

さて、話はだいぶ変わるが、2016年最後の経済財政諮問会議(12月21日開催)において、「薬価制度の抜本改革に向けた基本方針」が報告されたことに耳目が集まったが、見逃せないのは統計の改善に向けた「統計改革の基本方針」が取りまとめられたことだ。経済の動きを適切に捉えることは、政策面だけでなく、企業や家計にとっても重要なことである。しかし、これまでは一部の統計において、実態とのかい離の可能性や公表の遅さなどが指摘されてきた。こうした経済統計に関する諸問題を抜本的に改善する取組が緒についたのである。

社会、経済は常に変化するもので、その変化に合わせて統計や分析手法、我々の考え方も改めなければならない。その意味で、今回の広範に及ぶ統計の改善は大きな前進である。冒頭に述べたように、消費行動は今、BtoC(企業から消費者)だけでなくCtoC(消費者から消費者)へも広がりをみせている。

たとえば、需要側統計である総務省の家計調査などであれば、それぞれの消費者に家計簿をつけてもらうため、インターネットによるBtoCやCtoCの取引も計上されていると想定されるが、供給側統計である商業動態統計は事業所に調査を行っていることからCtoCの取引を反映できていないと考えられる。

CtoCの取引はBtoCに比べればまだ小さく、一国の消費動向を見誤るほどではないかもしれないが、消費行動の変化の萌芽として見落とされてはならないだろう。このように、新たな経済活動を統計として扱うことは難しいものの、実態を把握するうえではその努力を怠ってはならない。また、消費動向に関して言えば、統計の振れなどによって需要側統計への指摘が多い中、CtoC取引の拡大に伴って相対的に需要側統計の重要度が増すことになるかもしれない。

(※1)平成28年版情報通信白書によれば、二人以上の世帯においてインターネットショッピングを利用する世帯の割合は、2002年には5.3%だったが、2015年には27.6%にまで上昇している。

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