失業率が下がっても賃金が上がりにくいのはなぜか?

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2016年12月22日

  • 大和総研 顧問 岡野 進

日本の完全失業率は2.96%(2016年10月、季節調整済)と、足元で3%を下回っている。1995年2月以来、20年ちょっとぶりの低失業率である。また、有効求人倍率は1.4倍(2016年10月、季節調整済)と、こちらも91年8月以来の高さである。

雇用も改善しインフレも抑制されているのだから、決して悪い経済状況とは言えない。一方、賃金上昇はほとんど起きていない。

91年は3%程度の賃金上昇であったし、95年でも2%程度の賃金上昇が起きていた。その中間程度の雇用環境にある今、2%台半ばくらいの賃上げが起きてもおかしくない。ところが、実際にはわずかに水面に顔を出した程度の賃金上昇しか起きていないのが現状である。なぜだろうか?

もちろん、物価上昇を考慮しなければならない。91年の消費者物価上昇率は3%程度であったので実質賃金が大きく上がっていたわけではない。80年代後半のバブルはすでに終了し、湾岸戦争でエネルギー価格が上がっていたという事情があった。95年の消費者物価上昇率はほぼゼロであり、現在の状況とあまり変わらない。景気が比較的好調であり実質賃金は2%程度上がっていたということになる。

こうみると、景気はまあまあの状況で雇用情勢がこれだけよければ、賃金上昇が起きてもおかしくないが、なかなか賃上げが動き出さないのはなぜだろうか?賃金は市場原理を反映しつつも、基軸のところでは経営側と労働側の交渉で決まるという要素が大きい。アルバイト賃金は需給がひっ迫すればすぐに上昇するが、大企業の正規労働者の賃金はそうはいかない。長期的に雇用を守れるかどうかという観点でどの程度の賃金上昇が許容できるのかが問題になる。

90年以降の雇用状況の悪化の中で日本の大企業の労働組合は、雇用を守ることを優先し、そのために賃金コストの上昇抑制を受け入れてきたようにみえる。その行動原理がまだまだ続いているのではないか。そろそろ方向転換が必要になってきているのではないだろうか。

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