モスクワに東京駅ができる?

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2016年12月21日

2016年12月15日、16日の日程で日露首脳会談が行われた。安倍総理とプーチン大統領との共同記者会見では、北方4島の共同経済活動の実施に向けた協議を始めることなど、平和条約の締結に向けた第一歩を進めることで合意をしたことが発表された。賛否両論はあるものの、今後の双方の企業のビジネス活性化や、戦後70年以上結ばれていない平和条約締結に少しずつ前進しており、日露間の新たな関係発展に期待したい。

また事前の報道では、共同経済活動プランの中には、「シベリア鉄道の北海道延伸案」というびっくりするような壮大な計画が含まれている可能性も指摘されていた。シベリア鉄道とは主にモスクワと極東のウラジオストックまでを1週間かけて結ぶ、世界で最も長い鉄道として知られている。この路線の一部をアジア大陸と樺太(サハリン)の間の間宮海峡(最狭部は約7km程度)および北海道の最北端にある宗谷海峡(同約40km程度)とを橋またはトンネルで日本まで結ぶという壮大な計画である。既にフィージビリティスタディは終了しているという話もあり、この壮大な計画をスタートすることは可能といわれている。宗谷海峡の最深部は70m程度と浅く、津軽海峡を結ぶ青函トンネルよりも短い距離のため、技術的には問題なくトンネルで結ぶことはできるそうだ。

ただ、この壮大な計画は問題が山積みであり、そう簡単には実現できないことは誰もが理解している。貨物輸送以外での利用も多いわけでなく、極東地域への観光利用のニーズは未知数のため、採算性は度外視されている。また日本の鉄道とロシアのシベリア鉄道では線路幅の規格自体が異なることも問題の一つである。国境の整備やトンネルの維持管理費をどちらが負担するなどあげたらきりがないほどだ。ただ老朽化したシベリア鉄道(今年の10月で開業100周年)の再整備という話は昔から存在した。筆者は10年以上前、ロシアの金融市場調査の担当であったが、今は亡きロンドンの大先輩から最初にいわれた案件が、まさにこのシベリアランドブリッジ再整備のための資金調達スキームの調査であった。壮大な建設費を年金基金のインフラ投資や、北米の専門市場に上場させるなど、様々な方法で調達することを検討したが、当時から問題は山積みであった記憶がある。ただ計画は大きければ大きいほど夢は膨らみ、当時もいつかはこのプロジェクトに何か貢献ができないかと思うところもあった。

またロシアから北海道までをつなぐ鉄道が実現できれば、当然、東京駅までは新幹線などでつなぐことも可能なはずだ。つまり東京駅からモスクワまで電車で行ける日がいつかは来るということである。知っている人は少ないとは思うが、モスクワにある長距離列車の駅の名前はその出発地の地名ではなく、目的地の地名が駅の名前となっているケースが多い。モスクワからサンクトペテルブルク(旧レニングラード)に向かう“レニングラード駅”や、モスクワからウクライナへ向かう“キエフ(ウクライナの首都)駅”、また筆者がよく買い物するモスクワのトヴェルスカヤ通り沿いにある、“ベラルーシ駅”などが実際にモスクワ市内に存在する。これは駅の名が目的地のため、初めて乗る外国人でも駅を間違えないというメリットもある。このルールが適用されると、モスクワから東京駅に向かうシベリア鉄道の駅の名は“トウキョウ駅”となるはずである。

このようなどうでもいい妄想を膨らましながら、いつかは東京とモスクワの親戚が電車で行き来できる日が来るためにも、今後の日露間の共同経済活動で何か貢献できることはないかと思う毎日である。

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菅野 泰夫
執筆者紹介

金融調査部

主席研究員 菅野 泰夫