翻弄された無党派層

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2016年11月18日

  • 大和総研 顧問 岡野 進

11月8日投票の米国大統領選挙で、接戦の結果、トランプ氏が勝利し、第45代大統領への就任が決まった。

英国のEU離脱の賛否を問う国民投票で大方のマスメディアの予想を覆して離脱派が勝利したように、今回の米国大統領選挙でも、大方のマスメディアはクリントン氏の勝利を予想していたので、大きなサプライズを生んだ出来事であった。どちらの問題でもマスメディアはややリベラルにバイアスがかかっていて多くの民衆の現状への反感を捉えられていなかったのではないかといった批判が出てきている。どちらの場合も大都市と地方ではかなり雰囲気が違っていたので、大都市住民であるメディア従事者はそうした雰囲気の差を十分にくみ取れなかった可能性は確かにあるだろう。

しかしながら、これらを単にポピュリズムの台頭といった切り口で見るだけでなく、より客観的に有権者の投票行動を見直してみることも大切だ。実際、米国大統領選での投票数(11月14日集計時点)をみると、クリントン氏61,047,207票、トランプ氏60,375,961票とわずかながらクリントン氏のほうが多い。米国の大統領選挙は州ごとに選挙人を選ぶ間接選挙のため、選挙人数ではトランプ氏がかなり差をつけて勝利したが、実際の投票数では大接戦というイメージである。

4年前の選挙ではオバマ氏62,611,250票、ロムニー氏59,134,475票であったので、民主党対共和党という構図でみれば、民主党が票を減らし、共和党が票を増やしたのは間違いない。どちらの党も支持しない有権者の投票動向が結果を決定づけたようだが、前回はオバマ氏に入れたが今回はトランプ氏に入れたという人の多くは白人の中年以上の男性という特徴があるようだ。とはいえ、全体からみれば2%程度の票の動きであり、これをトレンドと考えるのは早計だ。

ピューリサーチセンターの調査(6月)によると、民主党支持者の共和党嫌い、共和党支持者の民主党嫌いは高まってきており、相手方を「大変好ましくない」という割合がどちらも半数を超えている。どちらもより自党派に固まる傾向があり、民主党支持者の意見はより左に、共和党支持者の意見はより右に偏ってきているという。相手方に友人を持つ人が少なくなっているという分析もある。同センターの調査(9月)では有権者登録した人のうち民主党支持者の割合は33%、共和党支持者の割合は29%、独立(無党派)と答えた人が34%となっていた。そもそも有権者登録もしない人々の多くはどちらの党の支持者でもないわけであり、米国民の本当の多数派は民主党でも共和党でもない無党派であり、どちらかというと中道的な層なのだ。選挙戦で彼らは両派のネガティブキャンペーンに翻弄され自らを代表する候補者を見つけられなかったというのが実際のところではないか。現在の米国の政治システムではこの多数派の声が反映されない。問題の本質はここにある。

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