『君の名は。』『シン・ゴジラ』と国土強靱化

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2016年11月09日

  • 中里 幸聖

アニメ映画『君の名は。』は10月31日現在で興行収入171.9億円を超え(※1)、今年(2016年)の日本での興行収入No.1であるのみならず、歴代邦画の興行収入でも5位にランクインしている(洋画なども入れると現在9位)。

ちなみに、歴代映画の興行収入1位は宮崎駿監督の『千と千尋の神隠し』で興行収入308億円である。10月31日現在での『君の名は。』以外の歴代邦画の興行収入ベスト10には、宮崎駿作品が5本、踊る大捜査線シリーズが2本、南極物語、子猫物語がランクインしており、わが国の映画は宮崎駿監督以外では犬猫が強かったという結果になっている。

今夏の映画は、『君の名は。』と『シン・ゴジラ』(10月31日現在で興行収入79億円、歴代邦画20位)が圧倒的な強さを誇ったといって良いであろう。映画そのものの評価については多くの人が様々に語っているので、ここでは触れない。『君の名は。』は3回、『シン・ゴジラ』は1回観たが、それぞれリピーターが多いことでも話題になっており、5回以上も観た強者も少なくないそうである。

これまた多くの人が触れていることではあるが、両作品とも5年前の東日本大震災がモチーフとして取り込まれている。現場の復興はまだ道半ばではあるが、5年経ってようやく、こうした形での消化が可能になったという観点もいくつか提示されている。実際、震災から暫くの間は、津波などを連想させる映像の放映は敬遠されるようなこともあった。

地震列島、火山列島、台風銀座である日本に住む以上、次なる自然災害への備えは欠かせない。熊本地震、台風10号、鳥取県中部地震、など今年もわが国は多くの自然災害に見舞われている。『シン・ゴジラ』は、ゴジラを自然災害、原発事故、他国による武力侵攻の隠喩であるとしている論調も多くみられるが、ともかくも政府、行政組織による危機対応を描くことがこの映画のメインを成していた。そして、突発的な事態への緊急的な対応であるため、既存のハードを前提に、ソフトとしてどのような対応が可能かが追及されていた。随所にソフト的な不備があることにも焦点があたっていたと思う。

『君の名は。』は自然災害に関する描写はわずかではあったが、臨機応変の対応により被害が最小化されたことが示唆されている。これもまた既存のハードを前提に、ソフトとしての対応が功を奏したストーリーとなっている。

防災・減災を主要目的とした「国土強靱化」については、ハード面に関心が集まりがちだが、ソフト面についても様々な議論が行われ、実施計画なども作成されている。今後も重点化を図りつつハード面である物理的なインフラの整備は着実に進めて行くべきであるが、同様にソフト面でのインフラである法制度や各種マニュアルの整備、関係人材の教育・育成、また継続的な訓練の実施等を含めたソフトの洗練化が重要である。実際、東日本大震災の時に津波から児童・生徒の多くが無事避難し「釜石の奇跡」と呼ばれた事例は、日頃の防災教育と訓練が効果を挙げたものである。

『君の名は。』『シン・ゴジラ』を観るのは、もちろん映画そのものを楽しむためであるが、これを機会にわが国の危機対応の現状と望ましい方向に思いを馳せる人が増えることを願う。

(※1)本コラム中の興行収入に関わる数値は、全て興行通信社のウェブサイト「CINEMAランキング通信」より。

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