持株会社はM&Aに有効な組織戦略となるか

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2016年09月28日

  • 大川 穣

持株会社の解禁から約20年が経過。持株会社体制に移行した企業は年々増加し、450社以上を数えるまでになった。企業の経営統合や活発なグループ内再編を機動的に行うことが可能な持株会社の活用は未だ増え続けている。

このような動きの中、大和総研では8月25日、26日に東京、9月16日に大阪の計3回にわたり、「持株会社化セミナー~経営者が考える持株会社の活用~」を開催した。業種業界を問わず、98社、計102名の方々にご出席いただき、ご出席者から積極的な質問をいただく等大変好評のなか幕を閉じた。

ここで、セミナーの内容に関してご出席者にご回答いただいたアンケートの一部をご紹介したい。

はじめに、「いま、貴社が重視されている経営課題」としては、「経営戦略(含むグループ経営)」が最も多く、次いで「事業再編・M&A」であった。

日本企業には「稼ぐ力を取り戻す」羅針盤として成長戦略が求められており、その設計図ともいえる経営戦略を策定し、実現していくことが求められている。

次に、「持株会社体制に移行することで、解決したい課題」としては、「新規事業、M&Aの推進」が最も多く、次いで「経営資源の最適化」が多かった。

M&Aは戦略を実現するための手段の一つに過ぎないものの、M&Aを考えること自体が経営戦略でもある。経営へのインパクトの大きさから、M&Aに打って出る組織体制として、持株会社に注目が集まり、その活用事例が増えてきている。実際、多くの経営者は、経営戦略を個別具体的に思考していく過程で、将来の自社の姿と候補先企業が一体となる姿を思い浮かべることができるからだろう。

それでは、なぜ多くの企業の間で持株会社がM&Aを推進するうえで有効な組織体制として検討されているのだろうか。

それは、持株会社化により事業部門を法人化し、持株会社と事業会社との間にあえて資本関係をもたせること自体に意味があるからである。ここでは持株会社という組織構造をイメージしつつ、M&Aにおける被買収企業および持株会社である買収企業それぞれの立場にたって整理してみたい。

まず、被買収企業にとって有意義な点について考えてみたい。

事業会社により買収されるケースでは子会社化されるという事実に対しては心理的な抵抗がかなり大きいと考えられる。事業を営まない持株会社により買収されるケースでは、持株会社グループの事業ポートフォリオに加わるといった整理ができ、被買収企業における役職員のモチベーションは全く異なってくる。被買収企業の自主性は重んじられ、グループの企業価値向上に向けた役割を共に担っていくことになる。

次に、買収企業にとって有意義な点について考えてみたい。

買収企業は事業ポートフォリオの戦略、構想を司る機能をもつことに特化した組織となるため、事業会社であったときよりも、より中立的な立場での意思決定が行われやすくなる。本業の成果に縛られた決定がされるケースは減り、将来成長を期待できる事業への積極的な投資を判断していくことになる。自社の事業を客観的な視点で捉える経営スタイルを取り入れることによって、被買収企業にアプローチをかける際にも、グループとしての企業価値向上という共通の目標を掲げ、より焦点を絞った対話が進む可能性がある。

持株会社は事業部門を法人化することにより、責任や権限の範囲、成果を明確にする、いわゆる「資本の論理」をもった以前からある組織戦略である。M&Aにおいて資本の論理を振りかざしてしまうと、失敗に終わってしまうかもしれないが、持株会社という組織のツールを活用し、資本の論理を賢く取り入れながらM&Aを実行していく。だからこそ、いま成長戦略を描く多くの日本企業は、このような経営スタイルに注目しているのである。

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