中国で相次ぐ大型合併 生産能力削減が鍵

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2016年09月01日

8月22日、中国国有資産監督管理委員会は、国務院(内閣)が中国建材メーカー最大手の中国建築材料集団と第2位の中国中材集団の合併を認可したと発表した。前者が中国建材集団と社名を変更して存続会社となり、合併後の新会社は20万の従業員と世界最大のセメント生産能力(約3.85億トン)を抱える世界的大企業となる。

これに先立つ6月26日には、鉄鋼生産で中国第2位の宝鋼集団と第6位の武鋼集団が戦略的再編に向け交渉中であることが発表された(※1)。経営統合となれば中国第1位、世界第2位の鉄鋼メーカーが誕生することになる。

中国では、国有資産監督管理委員会傘下の大型国有企業の再編が相次いでいる。2015年6月には、鉄道車両製造・販売大手の中国南車集団と中国北車集団が合併し、中国中社が設立された。その後、中国電力投資集団と国家核電(原子力)技術が合併して国家電力投資集団が設立され、中国五鉱集団と中国冶金科工集団の合併や、中国遠洋運輸集団と中国海運集団の合併が国務院の認可を得た。

大型合併が相次ぐ背景には、「国有企業を強く、優秀に、大きくする」との中国共産党・政府の方針がある。行政主導で国有企業同士の合併を行い、国有企業を大きくすることは容易である。しかし、強く優秀になれるかは全くの別問題であり、重複する生産能力や人員をスリム化し、収益性を大きく高めることができるか否かがその鍵を握る。しかし、中央政府の政策意図とは裏腹に、所在地の地方政府は、巨大化した国有企業に対してさらに多くの雇用や税収を求め、銀行は貸出を増やしてこれをサポートし、生産能力は削減されるどころか、一段と増強されるケースが多かったのが、これまでのパターンであった。だからこそ、2015年に至るまで様々な産業で生産能力の拡大が続いていたのであろう。

業界再編のニュースが出ると、どうしても「世界第○位の生産規模の企業が誕生」といった部分が注目され、合併しただけで目的が達成されたように錯覚してしまう。合併を契機に如何に着実に多方面でのリストラを実施していくかが重要であることは言うまでもない。中国政府は、過剰生産能力の削減やゾンビ企業の市場からの退出を掲げるが、それが実施される保障はない。習近平総書記は政策策定とその実施の関係について、「政策が1割で、実施が9割を占める」と指摘した。優れた政策も実施されなければ意味がないということであろう。鉄鋼とセメントの2015年の設備稼働率は60%~65%にとどまり、こうした過剰生産能力を抱える産業・製品の生産能力はネットで減少に転じる必要がある。中央政府の政策意図を地方政府に共有させることが、さしあたっての重要課題となろう。

(※1)宝山鋼鉄と武漢鋼鉄はともに上海証券取引所の上場会社であり、戦略的再編に向けて交渉中であることを理由に売買が停止されている。その後、当コラム執筆時点の8月29日に至るまで、戦略的再編に関する具体的な発表はなされておらず、中国有数の鉄鋼会社2社の株式売買が2ヵ月以上にわたって停止されるという状況になっている。

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齋藤 尚登
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経済調査部

経済調査部長 齋藤 尚登