フェア・ディスクロージャー・ルールをご存じだろうか?

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2016年07月05日

フェア・ディスクロージャー・ルール(FDルール)をご存じだろうか?

FDルールとは、一般に「公表前の内部情報を特定の第三者に提供する場合に当該情報が他の投資者にも同時に提供されることを確保するためのルール」(※1)と説明されている。すなわち、投資判断に重要な影響を与えるような情報(例えば、業績予想の大幅な修正など)で未公表のものを、特定の第三者(例えば、大株主、アナリストなど)にのみ提供すること(選択的開示)は、原則として、許されない。仮に特定の第三者に提供するのであれば、その情報が他の不特定多数の投資者にも同時に(あるいは速やかに)提供されるように必要な対応を行わなければならない、というルールである。

米国やEUでは既に導入されており、わが国でも、2016年4月18日に公表された「金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告—建設的な対話の促進に向けて—」(※2)の中で、導入に向けた検討を行うことが提言されている。

FDルールの趣旨は、重要な情報へのアクセスに関する投資者間の公平性の確保と、インサイダー取引の防止にある。こうしたFDルールの趣旨に対して、正面から異議を唱える人はいないだろう。しかし実際の導入となると、論者によって、積極論から慎重論まで幅広い意見があるようだ。これは、FDルールが、ある種「諸刃の剣」の性質を持つためだと、筆者には思われる。すなわち、論者がどのような局面での適用を想定しているのかによって、FDルール導入に対する評価、意見が分かれているように感じられるのである。

例えば、コーポレートガバナンス・コードやスチュワードシップ・コードに基づく企業と株主との「建設的な対話」を考えてみよう。「対話」にかこつけて、他の投資者を出し抜き、発行会社から目先の業績やコーポレート・アクションに関する未公表の情報を聞き出そうとする投資家を念頭におけば、「FDルールは必要」と考えるのは当然だろう。しかし、コーポレートガバナンス・コードをコンプライするため、渋々「対話」に応じている経営者を念頭におけば、都合の悪い対話を拒絶する絶好の口実としてFDルールが使われることを危惧し、「導入は慎重に」となるのも無理はない。

マスメディアによる取材・報道についても考えてみよう。他紙を出し抜くために、目先の特ダネを聞き出そうとする記者や、それを利用して、ある種の情報操作を意図してリークする経営者を念頭におけば、「FDルールは必要」との考えはよくわかる。しかし、地道な取材を積み重ねた記者が、他人には思いつかないような鋭い質問を経営者に投げかけて、真実の核心に迫るようなケースを念頭におけば、都合の悪い質問に対する回答を拒否する絶好の口実としてFDルールが使われることを危惧し、「導入は慎重に」というのも頷ける。アナリストによる企業分析についても、これと同様の指摘ができるだろう。

この難問に関して、浅学菲才な筆者としては、現時点では、次のようなコメントしかできない。

「導入に当たっては、制度の趣旨を生かしつつ、対話、取材・報道、企業分析などに携わる関係者の真摯な努力・取り組みを阻害することがないよう、十分な議論をお願いしたい。」

いずれにせよ、FDルールの導入に向けた検討が始まることを機会に、FDルールの趣旨に照らして、情報の適切な取扱いのあり方を、改めて確認することは有意義だと思われる。

(※1)「金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告—建設的な対話の促進に向けて—」p.15。
(※2)同資料。

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執筆者紹介

金融調査部

主任研究員 横山 淳