一億総活躍社会で"家庭教育"の機能はどうなるのか

2016年4月12日

新年度が始まり、新社会人や新1年生としての新たな生活が始まる人も多いだろう。新しい時代を担う人材を育てる教育の重要性は、資源のない日本では特に強調されるべきものだ。政府の成長戦略でも、スーパーグローバル大学(SGU)等が世界ランキングの上位100位に10校入ることを目指すことや、英語教育の早期化などが国の目指すべき政策として挙げられている。政府の一億総活躍国民会議でも、子どもの教育を含めた子育て支援の様々なメニューが議論されている。

しかしこれらの政策であまり焦点が当たっていないのは、家庭での教育の重要性だ。家庭教育とは、家で行う勉強だけでなく、忍耐力や人を思いやる心などのいわゆる“躾(しつけ)”やコミュニケーション能力も含んでいる。近年の労働経済学の研究によると、人々の能力のうち学校教育が与える影響はそれほど大きくないとの研究結果があり、より重要なのは家庭での教育環境だとしている(※1)。さらに、教育を通じた人材育成として最も効果の大きい時期は就学前(小学校入学前)で後になるほどその効果は逓減していくことも明らかとなりつつある(※2)。もちろん、家庭教育が重要であるとの認識は多くの人々が共有しており、古くから識者も指摘してきたことではあるが、今一度、就学前や初等教育での家庭教育の重要性について再認識する必要がありそうだ。

今後も共働き世帯は増え続けると考えられるので、親が子どもと接する時間が減り、子どもを保育所、学校、学童保育、塾などに頼る機会も増えるだろう。もちろんこれらが重要な役割を果たすのは言うまでもないが、教育できる範囲にはおのずと限界がある。さらに最近では、日本でも子どもの貧困が問題となりつつある。両親の離婚等で特に女性が一人で子どもを育てるシングルマザーになれば、仕事が忙しいことや賃金が男性より大幅に低いという現実もあり、子ども達が十分な教育を受けられなくなる懸念がある。

したがって、まずは共働き世帯やシングルマザーの世帯に対する家庭教育面の支援が必要である。例えば、共働き世帯では子どもと接する時間がどうしても少なくなるので、保育所でも教育機能を充実させることや、貧困層に属する子ども(さらには親)には学校や自治体、NPO法人などが勉強面や生活面でも丁寧な指導を行っていくことが考えられる。さらには、家庭で子どもと過ごす時間を増やすために、長時間労働の是正や有給休暇の消化日数が少ない雇用慣行を改めることも、教育政策上、重要となる。こうした政策は、子ども達の潜在的な所得稼得能力を引き上げることに加えて、将来的な生活保護等の歳出を抑制し、所得分配の不平等を未然に防ぐことにもつながるだろう。

一億総活躍社会の議論が高まる中で、これまで家庭教育が果たしてきた重要な機能を社会的にどのように担保していくべきかという議論を一層深める必要があるだろう。仕事と次世代に託す教育を両立できる、新たな経済・社会制度の構築が問われている。

(※1)小塩隆士[2012]『効率と公平を問う』日本評論社。
(※2)Heckman, J. J.[2013], Giving Kids a Fair Chance, MIT Press.(ジェームズ・J・ヘックマン(大竹文雄解説・古草秀子訳)[2015]『幼児教育の経済学』東洋経済新報社。)

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。

お気に入りへ登録

この記事を「お気に入りレポート」に登録しておくことができます。

このレポートのURLを転送する

  • @

執筆者紹介

最新コラム