ロボットによる生産性向上が日本経済のカギ

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2015年12月11日

  • 大和総研 顧問 岡野 進

日本の完全失業率(季節調整値)は、2015年10月3.1%に低下した。就職戦線も売り手市場へとなってきている状況が報道されており、雇用に関してはタイト感が生まれてきている。長らく日本経済はいわゆるGDPギャップ、つまり供給力に対して需要不足が続く状況が続いてきたが、少なくとも供給サイドの大きな要素のうち労働力に関してみれば、供給力の方が不足しがちに転換している。もっとも、その要因はどちらかといえば需要が力強く増えたのではなく、労働力人口の減少という要因が寄与していることを考えると、手放しで喜べるものではない。しかし、人口の問題の克服には相当の時間がかかることを覚悟しなければならない。

一方、供給力のもうひとつの要素である資本ストックについてみると、90年代に問題だった構造的な過剰ストックはかなり解消されたものの、稼働率が大きく上昇しているわけではない。2013年以降、企業の設備投資はやや増加したものの減価償却部分を大きくは上回っていないためストックの増加ペースは遅々としたものにとどまっている。円安になってもなかなか国内設備投資には火がつかず、企業は海外への投資に目を向けている実態があるのではないだろうか。それは国内への投資による期待収益率が低いものにとどまる分野が多く、物理的な制約から国内でのみ需要されるようなサービス業などに偏る傾向が続くかもしれない。

しかし、製造業に限らずサービス業も含め、国際競争力を持てる高付加価値型の産業が育ってこないと、いずれ日本は経常収支段階でも赤字になってしまうであろう。この場合、財政問題が破綻的な展開になってしまうリスクがある。この道を回避するカギはロボットのイノベーションと活用による高い労働生産性の実現である。すべての分野に適用できるわけではないにせよ、人間労働を代替する機械を積極的に取り入れていくことが、減少する労働力人口の問題と設備投資不足の問題を同時に解決しうるのである。

これまで長期不況の中で失業率も高く、賃金上昇も起こらなかったので、企業からすれば、ヒトをコストがかかる機械に置き換える必要はなかったからである。この状況はだいぶ変化してきた。企業が労働代替型投資に積極的な姿勢に転じる条件が整いつつある。特に人手のかかる分野において、イノベーションの進展によってヒトを代替できるロボットが現れてくれば、日本経済は再び持続的な成長が可能になってくる。ロボット産業の発展に期待したい。

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