攻めの農業と"担い手若返り"

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2015年12月10日

  • 経済調査部 市川 拓也

農業における担い手の高齢化が進んでいる。11月27日に農林水産省が発表した「2015年農林業センサス結果の概要(概数値)」(平成27年2月11日現在)の統計表で基幹的農業従事者(※1)における全国の平均年齢をみると、前回2010年農業センサスの66.1歳から67.1歳に上昇している。都道府県別にみると、水準として北海道以外はすべて60歳以上であり、鳥取、香川、三重、富山、岐阜、岡山、福井、島根、山口、広島では70歳超となっている。

全国及び都道府県別における基幹的農業従事者の平均年齢(2015年2月1日現在)

これまでTPP交渉のタイミングに合わせたかのように、安倍政権では攻めの農業に向けたアクセルを踏み続けてきた。既に「日本再興戦略」(2013年6月14日)では、2020年に6次産業の市場規模を10兆円、同年に農林水産物・食品の輸出額1兆円、農業・農村全体の所得を10年間で倍増などが掲げられていた。その後、長年続いてきた米の減反政策廃止を決定し、農地集積バンクを通じて農地の大規模集積・集約を図るための「農地中間管理事業の推進に関する法律」も制定(2013年12月)した。さらに地理的表示に関する「特定農林水産物等の名称の保護に関する法律」(2014年6月)や、「農業協同組合法等の一部を改正する等の法律」(2015年9月)を成立させ、本年10月のTPP交渉大筋合意を受けて出された政府の「総合的なTPP関連政策大綱」(2015年11月25日)では農林水産物・食品の輸出額1兆円目標の前倒しに言及している。賛否はともかく、日本の農業を攻めの農業に徹底的に変えていこうという政府の姿勢がみてとれる。

本来、農業強化というのであれば、農業従事者数の確保はもちろんとして、新規参入者を含め日本の農業を牽引していくべき存在である基幹的農業従事者の若返りが必要であろう。高齢者に不可能というわけではないが、観光等他の産業とのマッチングやITを活かした次世代施設園芸などでは、農業を新たな視点から捉える試みが欠かせない。6次産業化における消費者サイドに立つ経営を進展させていくためにも、また伝統的な農業をしっかりと力強く守っていくためにも現代に合った若い感性が必要である。今や、訪日観光客のインバウンド戦略において日本の“食”は重要な位置を占めているだけに、将来に亘って日本の“食”を支える“担い手若返り”への対応には、最優先で取り組む必要があるのではなかろうか。

(※1)農業就業人口(自営農業に主として従事した世帯員)のうち、ふだん仕事として主に自営農業に従事している者をいう。(農林水産省「2015年農林業センサス結果の概要(概数値)」(平成27年2月1日現在)より)

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