金融ビジネスの生産性

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2015年10月09日

  • 大和総研 顧問 岡野 進

金融ビジネスの生産性について考えていくと、投入サイドは労働および資本の実質量として測定しやすいが、提供している金融サービスの実質的な量をどう測るかは議論を要する。金融サービスの場合、サービスの対価に対する支払いの実際の形態は利ざやであったり手数料や売買益であったりする。このうちには取引の執行コスト、「情報」料等の金融サービスへの対価が一括して含まれていることになる。このように現状の金融サービスへの対価の在り方は未分化な形態を取ってきた。そして、金融商品がより多様性を持つようになるのとともに、ますます形態が分化していく部分がある一方で、統合化されていくものもあるというのが現状ではなかろうか。

金融サービスは最終的な資金の出し手と最終的な取り手を仲介している。その中間段階は何重層にも渡り複雑な経路を経る場合もある。市場はこの過程全体を、価格メカニズムを通して効率化するように作用するはずである。それがうまくいくかどうかのカギは広義の「情報の生産」ということになるだろう。資金の取り手についての情報、取り方についての情報、資金の出し手のリスク負担能力、投資への適合性、それらの取引や経済主体を取り巻く経済・市場環境など、あらゆる情報が織り込まれることにより金融資本市場は機能を効率的に発揮することができる。市場の参加者の間に情報の差があるのは当然なので、これらの情報を参加者に正しく認識されるように整理しまた分析していくことから付加価値が生まれてくるし、それが結果的に資金の取り手に対しても出し手に対しても良いアドバイスとなっていく。

金融サービスの本質は「情報の生産」であるとされるが、これはかなり広義に捉えられるべきだ。資金の取り手や出し手に対するアドバイスも金融における情報の生産のコアに位置づけられるビジネスである。提供される情報の正確性もさることながら、それを加工していかに価値あるものに転換するかが情報の質の高さと付加価値の大きさを決定する。あるいは良い金融商品や運用方法を設計するというのも重要な情報の生産に位置づけられるだろう。カスタマイズされていればいるほどコモディティ化を防ぎ、付加価値の価格の高さを維持しうる。また常に新しい情報への取り組みで一歩先行する体制が構築されることが差別化を成功させることになるだろう。そのためには情報技術の活用やそれを可能にするシステムへの投資と情報の生産を担う人材の投入が不可欠となるだろう。

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